経営学部経営学科 井上 一郎 教授

まず「恩恵」と「貢献」のある基盤を構築。建設的批判ができるスキルを互いに養えば、個人の能力は高まり、組織は活性化する。

先生が取り組んでおられる研究テーマを具体的にお聞かせいただけますか。

経営学部経営学科 井上 一郎 教授

 私は経営情報の分野の中でも、特にナレッジ・マネジメントを研究しています。どのようにして知恵を上手く引き出し、巧みに活用していくか。これを考え続けています。抽象度が高いコンセプトだけではなく、方法論を生み出し、さらに実際の現場に即応した具体的な技法やツールまで作り上げます。その際にIT(情報技術)は強力な武器として活用できます。軸足は理論ですが、優れた理論を構築するためには実践も不可欠です。その意味では大学に来るまでいたNECでの経験も、企業との共同研究も役立っています。大学では学生に知恵をつける方法を探究していますが、これは企業においても同様です。マネジメントと教育の現場はかなりオーバーラップしています。

知恵を上手く引き出し、巧みに活用するために不可欠なものとはなんですか。

 職業に直結して必要な能力はテクニカルスキルとロジカル/コンセプチャルスキルとヒューマンスキルだと思います。この3つの内で、根幹になるのはヒューマンスキルです。他の人々と協調・連携して、自身も周囲も知恵や能力を高めていく。個々が伸びるためには、一人でやるよりも、仲間とやったほうがいい。この時、重要なのは組織の風土を良くすることです。それぞれが組織を活性化するという積極的な意識を持って行動すれば、組織もまた活性化していきます。
 では、どのようにして「良き風土」を創り出すのか。その第一歩は「学習の基盤」です。「恩恵」と「貢献」のある基盤を構築する。そこで大切なのが建設的な批判精神です。批判には2つのタイプがあります。破壊的批判と建設的批判。現実的には破壊的批判が圧倒的に多い。この場合、批判することによって相手よりも自分が高みに立ったような錯覚に陥りますが、結果的には相手を傷つけ、自分も低く見られてしまいます。これに対して、建設的批判は問題点を見出すことによって自分が成長し、この課題に向き合うことが改善提案につながり、さらに自分がどこに参画できるかまでを積極的に考えるようになります。

ヒューマンスキルは「技術」ですからあらゆる組織で活用できるわけですね。

 建設的批判をすると仲間意識が生まれます。相手を批判することが相手のためになると解ってくる。良い点を見出し、まずい点もこうすれば良くなると思うというふうに、未来へ開かれたかたちで述べるトレーニングを繰り返し、身につけていきます。こうすれば批判された方も悪い気はしません。良くなるためにアドバイスをしてくれと考えるようになる。このような積み重ねが組織の風土を良くしていくわけです。たとえば現在も企業の現場ではこんなことが起こりがちです。情報の共有のために、各営業担当にノウハウを出せと上司が迫っても、ろくなものが出てこない。これは当然です。営業担当者は競争だから、ほんとうに使えるものは出さない。取られたら損するからです。まず、「貢献」と「恩恵」になることを知らしめて、その基盤を固めることが先決なのです。組織をいじる。ルールをいじる。道具立てをいじる。これは、すぐにでもできることですが、これだけでは組織の動脈に血は流れません。もっとも重要なのは風土の問題。知恵がどんどん出てくる組織風土を、どのようにつくるかなのです。今後もIT(情報技術)を活用しながら『知恵のマネジメント』の理論研究と実践研究開発を行い、産学連携により研究成果を社会還元できればと考えています。

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