The Future 大学院からのキャリアステップ

大きなやりがいを持って、世界トップ級の観測装置を開発しています。

理学研究科 物理学専攻 博士後期課程2014年度修了

新崎 貴之 京都産業大学神山天文台 博士研究員

京都産業大学の神山天文台で、2015年4月から博士研究員として働いています。研究対象は、赤外線高分散分光器の開発です。これは、海外の大型望遠鏡を主力望遠鏡として観測運用することを想定した観測装置であり、神山天文台を拠点として東京大学との共同研究により開発が進められているプロジェクトです。私は大学院生時代に可視光高分散偏光分光器(VESPolA)の開発を専門分野として研究していました。その当時の実績が評価され、本プロジェクトに参加する機会をいただきました。一般的に、新しく開発される装置には同じような観測性能のものは2つとしてありません。これは、未だ解明されていない未解決問題に対して、新たな手法を用いてアプローチすることを目的としているため、常に最先端の技術やアイディアが開発される観測装置に組み込まれるからです。私の開発する装置も例外ではありません。

大型望遠鏡に搭載する高分散分光装置は、装置自身が大型化する傾向にあります。さらに、赤外線装置である場合には、装置自身から生じる熱放射がノイズ源となってしまうため、装置全体を真空冷却する必要があります。そのため、技術的にもコスト的にも非現実的なものになってしまいます。我々グループは、こうした問題を解決するイマージョングレーティングと呼ばれる次世代型分散素子の技術要素の開発も行いました。これは、屈折率の高い材料を用いることで赤外線波長を短く変えてしまおうという技術アイディアをもとに製作された分散素子です。つまり波長が屈折率の分だけ短くなると、装置全体の大きさを小さくすることが可能になります。このように、世界トップクラスの装置開発に携われることは貴重な経験だと思います。さらに自ら設計したものが形になり、後に彼方の天体からの光がこの装置によって解析されることを想像すると、今の仕事に大きなやりがいを感じます。

STEP1

二人の恩師と出会い、観測と装置開発が学べました。

子どものころ、故郷の沖縄で見た満天の星や天の川に感動してたことをきっかけに、宇宙に興味を抱くようになりました。宇宙への興味は私が成長するとともに大きくなり、やがては大学進学を機に天文学を学びたいと思い、京都産業大学に進学しました。大学生活で得られる多くの学びと出会いの中でも、特に河北秀世教授(現神山天文台長)との出会いは、私の将来を大きく変える刺激となりました。4年次で配属される研究室では迷わず河北研究室を選び、卒業研究を通して専門的な観測研究について多くを学ぶ機会を河北教授が与えてくださいました。一身上の都合により、大学卒業後は一旦就職しましたが、天文学への思いが断ち切れず、仕事を辞めて、大学院へ進学することを決意しました。私の大学院入学と時を同じくして、本学に神山天文台ができました。神山天文台は、観測装置の開発を通した人材育成に力を注いでおり、学生が主体となった装置開発プロジェクトを促進した研究機関です。河北教授は観測研究で国際的に知られた方ですが、そこに装置開発が専門の池田優二准教授(当時)が赴任されました。大学院時代に装置開発という観測研究には欠かせない知識・技術を池田准教授の指導の下で学ぶことができたことは、私のキャリアにおいて大きなステップアップとなりました。私は研究を通して二人の尊敬できる恩師と出会い、観測研究と装置開発の両方を学ぶという貴重な経験を得ることができました。

STEP2

問題提起して解決策を探り、行動する力がつきました。

大学院では、社会で働く上で、即戦力となる力を身につけたい、という思いが強かったです。大学院において私が手がけた研究内容は、世界的に見ても非常に珍しい観測性能を発揮する観測装置(VESPolA)の開発であり、当然ながらそのようなものが大学院修士の2年間で成せるものではなく、当時から大学院後期課程に進むことを視野に入れていました。大学院は学部と違い、研究テーマに対して能動的に取り組む姿勢が必要不可欠です。そのため、自らの研究テーマに対して、問題提起する力、解決策を探って行動する力、実験・観測して分析する力がついたと思います。これは当たり前のようで、なかなか実践することが難しい能力だと思います。こうしたことを、研究を通して習慣的に行うことで、研究分野だけでなく、社会で生きるための基礎的な力が身についたと感じています。

STEP3

大学院での5年間がなければ、今の自分はなかった。

私の場合、大学院で学んだことが、そのまま今の仕事に結びついています。私が大学院時代に取り組んだ研究は、高分散偏光分光観測装置(VESPolA)の開発と、それを用いた初期フェーズの新星の観測研究です。高分散の偏光分光という世界的にもユニークな観測手法を用いて、世界で初めて新星の初期爆発の姿をとらえることに成功し、謎に包まれた新星爆発メカニズムの解明に挑むものです。この研究は、現在も継続しています。技術レベルの進化が目覚しい現代において、多くの技術要素が必要とされる観測装置の開発を一挙に手掛けることができたことは貴重な経験であり、自ら誇れる成果であると自負しています。こうした成果が評価されたことで、研究者として新たな装置開発プロジェクトに参加する機会が得られました。現在取り組んでいるプロジェクトを何としても成功させ、将来はグローバルに活躍できる人材になりたいと考えています。

The Message

大学院は明確な目的と目標を持って来るべきところだと思います。今の時代は選択肢が豊富にあります。あり過ぎるくらいです。その中で大学院進学が今後の自分の人生プランにおいて、どういった価値があるのか、中長期的な視野をもって検討すべきかと思います。私が学んだ京都産業大学大学院の研究環境は、とても良かったと思います。二人の恩師に出会えましたし、神山天文台という研究施設や装置開発という研究テーマにも恵まれました。タイミングのよしあしもあると思いますし、個人が努力しただけではなし得ないこともありますが、明確な目標を持って努力すれば、道は開けるのではないでしょうか。