研究紹介

理学研究科 物理学専攻 高谷康太郎准教授 インタビュー

「異常気象のメカニズムの解明を目指して」

変動の幅が大きい異常気象

日本付近は世界的に見ても多様な天気が観測される領域です。そして皆さんもよくご存知の通り、天気は移り変わるものです。一言に「移り変わる」といっても、よく観察すれば、天気の移り変わり − 変動 − には、様々な時間スケールがあることが分かります。例えば、数日程度の時間スケールの天気の移り変わりは、普段からでもよく感じることが出来ます。また、一つの季節(シーズン)の中で見られるような、時間スケールの長い天候変動もあります。例えば同じ季節でも、「先月は暖かかったのに今月は寒いな」というようなものです。このような変動は、一つの季節内に見られる変動という意味で、季節内変動と呼びます。さらに、「昨年の冬はXXだったが今年は○○だな」というような、年ごとの天候や気候の変動もあります。これは年ごとの変動ですから、年々変動または経年変動と呼ばれ、季節内変動よりさらに長い時間スケールの変動となります。このように、数日から年ごと(さらにはそれ以上)まで、天気や天候の変動は様々な時間スケールを含みます。

普段から様々に変動している天候や気候ですが、ときどき変動の幅が極端に大きくなり、異常な天候をもたらすときがあります。いわゆる「異常気象」です。皆さんは「異常気象」という言葉を聞いて、何をイメージされるでしょうか?もちろん、異常気象にもいろいろな現象がありえるのですが、一つ典型的な例としては、一つの天気の状態がずっと続き、いろいろな悪影響が出たような場合を挙げることが出来ると思います。例えば、ずっと晴れの日が続くと、水が必要な農作物に悪影響が出る可能性があります。逆に雨の日ばかりが続いても困るでしょう。他にも、本来は寒い時期に暖かかったり、またはその逆だったりした場合も、いろいろな影響が出てきます。このような異常な天候が社会的、経済的に大きな影響を与えると、「異常気象」という言葉が良く聞かれるようになります。

私は、研究者として長年、異常気象について興味を持ち、研究を行ってきました。その際、上で説明した天気や気候の時間スケールのうち、特に、季節内変動や年々変動に興味を持って研究を行ってきました。これらの変動は異常気象に繋がり易いものですので、そのメカニズムの解明は重要です。しかしながら、これらの変動のメカニズムは未だにはっきりしていない部分が多く、気象学的にその解明はたいへんに興味ある課題となっています。

異常気象と偏西風の蛇行

気象の季節内変動または年々変動、もしくはそれらの変動で特に異常なものである異常気象は、春夏秋冬、地球上どこでも発生する可能性があります。その中で私は特に、極東付近の冬の気候変動そして異常気象に興味を持っています。

日本を含む極東域の冬季気候の特徴としてまず挙げられるのが、冬季東アジアモンスーンの存在です。冬季東アジアモンスーンの強弱は、日本の冬季気候に強く影響します。例えば、モンスーン活動が強まった時は、日本を含む東アジア域には寒波が襲来し、日本海側はしばしば大雪に見舞われます。一方、モンスーン活動が弱まれば、東アジア域は暖冬となります。さらに、冬季東アジアモンスーンの活動は、東アジア域のみならず北太平洋域の気候システムにも多大な影響を与えると考えられており、その活動の強弱を知ることは、全球的な気候変動を考える上でも重要です。

最近の冬は昔に比べて暖かくなった、と時々耳にします。確かに、過去には、「38豪雪」 (1963年)や「56豪雪」(1981年)と呼ばれるような歴史的な寒冬豪雪年がしばしば見られました。しかしながら1980年代後半頃からは、暖冬の年が多く、地球温暖化との関係も指摘されています。もっとも、21世紀に入ってからは、2005年12月、2011年1月、そして2011 / 2012年冬季のような寒冬豪雪の年も再び増えてきているようです。

それでは、冬季東アジアモンスーンの変動はどのようにもたらされるのでしょうか?モンスーン活動に伴う大気循環は主に地上付近で観測されるため、過去の冬季東アジアモンスーンの研究も地上付近での大気循環変動に注目したものがほとんどでした。ところが、私達の研究により、意外な事実が判明しました。地上付近の現象の冬季モンスーンの変動には、対流圏上空の偏西風の蛇行が重要であると判明したのです。偏西風は、一年を通じて常に中緯度域上空に吹いている西からの風のことです。日本付近では天気は西から東へ変わる場合が多いのですが、これは上空に偏西風が吹いているからだ、という説明を聞いたことがある人も多いでしょう。この上空の偏西風が蛇行すると、冬季東アジアモンスーン活動も変動するのです。

さらに、偏西風の蛇行のパターンには大きく2つあることも分かってきました。一つ目のパターンは、図1のように、偏西風の蛇行が北西太平洋で異常に強まるときです。まず、日本付近では偏西風は平年より南下して吹いています。日本の東海上に出ると、その向きを北東方向に変えて蛇行するのですが、蛇行が強まりすぎて、もはや偏「西」風というよりは、東風になってしまっている領域もあるほどです。日本の北方、東シベリアの高緯度域では再び西風に変わりますが、その領域では平年よりかなり北側を偏西風は吹きます。このようなパターンを、私達は「西太平洋パターン」と呼んでいます。

図1:北西太平洋上空で偏西風が蛇行するとき(対流圏上層の高度場分布。矢印が偏西風の向き)

図1:北西太平洋上空で偏西風が蛇行するとき
(対流圏上層の高度場分布。矢印が偏西風の向き)

二つ目のパターンでは、図2のように、偏西風の蛇行はユーラシア大陸上で見られます。しかも、上で説明した「西太平洋パターン」と違い、図2の蛇行のパターンは、東西方向にまるで波のように配置しています。この特徴的な蛇行はユーラシア大陸上で見られますので、我々はこのパターンを「ユーラシアパターン」と呼んでいます。

図2:ユーラシア大陸上空で偏西風が蛇行するとき(対流圏上層の高度場分布。矢印が偏西風の向き)

図2:ユーラシア大陸上空で偏西風が蛇行するとき
(対流圏上層の高度場分布。矢印が偏西風の向き)

いずれのパターンにせよ、平年と比べて偏西風に異常な蛇行の見られる場合に冬季東アジアモンスーンが大きく変動していることが、私達の研究結果により明らかになったのです。また加えて大事な点は、日本付近で異常気象が発生したときに、極東付近の大気循環を見るだけではだめだと言うことです。例えば図2の「ユーラシアパターン」では、日本から遠く離れたユーラシア大陸の上での偏西風の蛇行が顕著でした。場合によっては、この蛇行はユーラシア大陸上流側のヨーロッパ方面から続いていることも珍しくありません。このような北半球の広範囲に及ぶ偏西風蛇行が、日本の異常気象に関係しているのです。

また、偏西風の蛇行は冬季東アジアモンスーンの変動だけではなく、他の領域、他の季節で発生する気候変動や異常気象の発生にも密接に関係していることが明らかになりつつあります。

研究者を目指す人へのメッセージ

インタビュー風景

私が研究者として心がけていることは、月並みではありますが、「当たり前だと思われていることを疑ってみよう」ということです。常識を疑え、とも言い換え可能だと思います。例えば、上で説明した冬季東アジアモンスーンの変動の研究でも、「モンスーン活動は地上付近の大気循環なのだから、モンスーン変動のメカニズムも地上付近に注目すれば良い」という考えがずっと「当たり前」だったのです。ところが視点を少し変えて研究をすると、先に説明した通り、上空の偏西風の蛇行がモンスーンの変動には大事であるという新しい成果にたどりつけた訳で、「常識を疑う」大切さがお分かりいただけると思います。

天気は非常に身近な現象ですので、どうしてもメカニズムを分かったつもりになってしまいがちなのだと思います。常識にメスを入れて行く作業は決して楽なものではありませんが、そのかわり、研究の宝の山にたどり着くことの出来る可能性が高いと私は信じています。気象現象に興味のある方は、常識を疑いながら、ぜひ、研究の世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。共に新しい世界を開拓して行きましょう。

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