研究紹介

理学研究科 物理学専攻 髙木征弘教授 インタビュー

「惑星気象学が解き明かす太陽系惑星の多彩な大気現象」

惑星気象学とは何か

太陽系には地球以外にも大気を持った惑星や衛星が多く存在しています。惑星探査機の観測などにより、それらの大気中では地球の気象とはまったく異なる、様々な大気現象が生じていることがわかってきました。例えば、金星には「大気スーパーローテーション」と呼ばれる高速東西流が吹いており、大気全体が金星の自転よりも速く回転しています。どうして大気が自転よりも速く回転しているのか、地球の気象学では説明することができず、大気スーパーローテーションのメカニズムは現在でも謎のままです。ほかにも、不定期に発生する火星の大砂嵐や、惑星規模の東西風分布と密接に結びついた木星や土星の縞模様といった、気象学的にみて興味深い、未解明の現象が多くあります。惑星大気にみられる現象を研究し、気象学の限界に挑戦するのが、惑星気象学という新しい学問分野です。

金星大気のスーパーローテーション

金星大気の主成分は二酸化炭素で地表面気圧は約92気圧もあります。この大量の二酸化炭素がもたらす温室効果により、金星の地表面温度は730Kに達します。金星全体が高度45-70kmに存在する濃硫酸の厚い雲で覆われているため、外部から地表面や大気下層の様子をみることはできません。もっとも興味深いのは大気スーパーローテーションと呼ばれる特異な大気運動の存在です。金星の自転は周期が243地球日と非常に遅く、1太陽日(太陽が南中してから次に南中するまでの時間)は117地球日もあります。そのため、金星大気中では夜昼間対流が卓越していると予想されていました。これは昼側で暖められた空気が上昇し、夜側に流されて、そこで冷やされて下降するような大気の循環です。ところが、アメリカやロシア(旧ソ連)が行った惑星探査機による観測によって、実際の金星大気は自転と同じ方向に自転よりも速く回転しており、雲層上端付近の高度では大気の回転速度が自転の60倍にも達することが明らかになりました。もちろん、スプーンでかき回し続けない限り、カップの中のコーヒーがすぐに止まってしまうのと同様に、大気スーパーローテーションを維持する何らかのメカニズムがなければ、こうした流れは地面摩擦と粘性の作用によって止まってしまうはずです。気象学者の長年の努力にも関わらず、大気スーパーローテーションの生成・維持メカニズムは未解明です。

現在、当研究室を含む国内外のいくつかのグループが精力的に研究を進めており、興味深い結果が得られつつあります。近年、同様の現象が土星の衛星・タイタンにも発見され、注目されています。

金星探査機「あかつき」プロジェクト

宇宙イラストレーター池下章裕氏によるミッションのイメージ図

宇宙イラストレーター池下章裕氏によるミッションのイメージ図

金星大気を詳しく調べ、スーパーローテーションの謎を解明するため、2010年に日本の金星探査機「あかつき」が打ち上げられました。あかつきは金星版ひまわりともいうべき大変ユニークな探査機で、赤道上の周回軌道から波長の異なる複数のカメラで金星を観測することにより、三次元的な大気運動を捉えることができるように設計されています。メインエンジンの故障により金星周回軌道への投入に失敗しましたが、2015年12月の再投入を目指して、現在も金星観測実現への努力が続けられています。当研究室は探査計画の立案段階から「あかつき」プロジェクトに参加し、観測データを物理的に解釈するための理論モデルの構築や、あかつきの観測データから風速分布を精度よく抽出するための手法開発を行っています。

学生へのメッセージ

インタビュー風景

惑星気象学は地球の気象学をベースに、さまざまな惑星の大気運動や表層環境を考察する新しい学問分野です。各惑星にみられる興味深い現象のメカニズムを解明することだけでなく、地球と各惑星との違いを理解することにより、地球についてより深く理解することも惑星気象学の大きな目標のひとつです。最近、多くの系外惑星(太陽以外の恒星のまわりを公転する惑星)が発見されており、地球に似た惑星、生命の存在する惑星があるのではないかという期待が高まっています。惑星気象学は宇宙における生命の普遍性といった問題にも深く関わっています。惑星気象学や惑星科学に興味のある人は、ぜひ研究室に遊びにきてください。

大学院では、学部で学修した基本的な数学や物理をベースに、より専門的な内容を学んでいくことになります。研究の最前線は教科書として体系化されているわけではありませんので、自ら進んで多くの研究論文や教科書を調査する必要があります。研究の手法は理論、数値計算、データ解析など問題に応じてさまざまですが、得られた結果を考察し、論文としてまとめるというプロセスからは、社会人に必要とされているさまざまな能力が身につけられるでしょう。

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