研究紹介

理学研究科 物理学専攻 岸本真准教授 インタビュー

「超高空間分解能で探る巨大ブラックホール周縁構造」

宇宙・銀河・ブラックホール ― その形成過程で何が起きているのか

地球は太陽系に属し、太陽と同じような恒星が多く集まったのが、我々の住む天の川銀河。こうした銀河が宇宙には無数にあります。ところが、その各々の中心に、太陽の100万倍あるいは1億倍などという質量の巨大なブラックホールがあり、かつ、銀河自身と密接に関連している。。。こんなことが、ここ10年から20年の間に急速にわかってきました。その巨大ブラックホールの質量は銀河の中央部分の質量のほぼ1000分の1という不可思議な定量的関係がある――こうなってくると、これらの形成・進化過程には何らかの重要な相互関係があるのではないかと疑われます。しかし、この相互関係が今のところよくわからないのです。

ブラックホールが巨大になるにはそこに多くのガスが落ち込んでいく必要があります。おそらくガスは円盤状になって少しずつ落ちていき、そのとき解放される重力エネルギーによって円盤が高温になり、とてつもなく明るく光る。こういった「巨大ブラックホールを取り囲む系」が、多く観測されている非常に明るい銀河中心の正体なのであろうと想像されています。しかしながら、いわゆる「標準円盤モデル」というものはあるものの、様々な観測結果をうまく説明しきれていません。何か根本的な部分を私たちはまだ理解できていないようなのです。また、こうした「質量降着」の現場では、よくジェット状にものが放出されているのが観測されます。しかし、この「質量放出」の過程も実はよくわかっていません。

一方で、銀河の形成・進化は、銀河どうしの衝突・合体によって進んでいくと思われており、実際、宇宙では、銀河同士の衝突が起きているのが多く観測されています。すると、もし各銀河の中心にブラックホールがあるなら、銀河の衝突のあと、中心には2つのブラックホールがあって互いに互いの周りを回っている、と想像されます。そして、周囲の星と相互作用しながらエネルギーを失っていき、いずれは合体すると考えられます。しかし、様々な理論計算によるとこの相互作用はとても速く、周囲に早々と星がなくなってしまい、ブラックホールどうしがお互いの周りをひたすら回り続ける状態になるのではないか、と疑われています。このような二重ブラックホールはバイナリー・ブラックホールと呼ばれます。ではこれらが本当にそこら中にあるのか。実は、いくつかの候補はあるものの、よくわからないままなのです。

衝突中の銀河 NGC 4676(画像提供:NASA)

衝突中の銀河 NGC 4676(画像提供:NASA)

空間分解能を上げて巨大ブラックホール系を直接「見る」

こうした質量降着・放出過程の理解やバイナリー・ブラックホールの観測がなかなか進まない最大の原因の一つは、空間分解能が足りないことです。質量降着・放出の主要過程は、1光年かそれ以下の領域で起きていると想像されています。また、バイナリーブラックホールが沢山、安定に存在するならば、2つのブラックホールの距離もまた1光年程度なのではないかと推測されています。すると、例えば近傍の銀河に潜むブラックホールで考えてみると、地球からみてこれは1ミリ秒角の大きさにしか見えません。言い方を変えると、これを見るには、東京にある1ミリほどのものを京都から見分ける、あるいは地球から月面の2人の人を区別できる分解能が必要なのです。現在の望遠鏡では、月面の100m程度のものさえ、つまり月面に野球場があったとしても、一つの点にしか見えません。

そこでどうするか。実は、2つ以上の望遠鏡を同時に使えば、空間分解能を飛躍的に上げることができるのです。二つ以上の望遠鏡に入ってくる光を干渉させ、その干渉縞を見る、干渉計という方法です。原理はとても単純で、高校で出てきた『ヤングの二重スリット実験』の2つのスリットを2つの望遠鏡に置き換えたと思えばよいでしょう。2つの光源を考えたとき、これらが全く同じ方向にあれば、それぞれが作る干渉縞がきれいに重なって干渉縞がはっきりと残ります。ところが、2つの光源が少しでもずれた位置にあると、2つの干渉縞が少しずれて重なるので、干渉縞が弱くなってぼやけます。つまり、干渉縞がぼやけて観測されたら、2つの光源を区別できた(空間分解できた)ということになるのです。スリットの間隔を大きくする、つまり望遠鏡の間隔を大きく広げると、それぞれの光源が作る干渉縞が細かくなるので、2つの光源の方向のより小さなずれに敏感になり、結果として空間分解能を上げることができます。こうして、干渉縞の強弱や、望遠鏡の異なる間隔の結果から、逆算して二つの光源の間隔距離あるいは光源の大きさを知ることができるわけです。

干渉計の観測では、天体から2つの望遠鏡に入ってくる光の光路差を光の波長程度の精度で揃えて、干渉させる必要があります。電波ならば波長1cm程度のため、光路差を揃えることは比較的簡単です。そのためもあって電波望遠鏡では、干渉計が主流になっています。しかし、私たちが捉えたい赤外線や可視光線は、波長が髪の毛の太さの50分の1程度。その上、短いタイムスケールでの大気の揺れがこれらの光の波面を乱すため、たいへん難しい観測になります。

干渉計:2つ以上の望遠鏡で同じ天体を同時に観測し、光路差をほぼ0にして光を重ねることで干渉縞を得る 明るい星に対して実際に観測される干渉縞の例

干渉計:2つ以上の望遠鏡で同じ天体を同時に観測し、
光路差をほぼ0にして光を重ねることで干渉縞を得る

明るい星に対して実際に観測される
干渉縞の例

赤外干渉計で見えてきた中心部

波長の短い光にこだわるのには理由があります。ブラックホールにガスが落ちていく際に解放される重力エネルギーによって、ガスは高温になり、その温度に応じた波長の光を出します。これが、巨大ブラックホール周縁の場合、ちょうど紫外線や可視光なのです。また、紫外線や可視光によって温められた周囲の塵は赤外線を発します。いずれも波長の短い光です。ブラックホール系からは電波も出ていますが、磁場中を回転する電子が出すもので、落ちていくものとは直接関係がないのです。

赤外干渉計による中心部最内殻の直接観測は、2003年に1つのブラックホールで成功した後、なかなか成功しませんでした。しかし、2009年5月に、私たちがハワイで一度に4個の巨大ブラックホール系を観測しました。この時、望遠鏡間の実質的な距離変化によって、干渉縞の強さが変わることもかろうじて確認できました。天体の大きさを計ることができる証拠になります。同じ2009年にチリで、明るさによって、ブラックホール系の構造が異なることも示すことができました。たくさんのものが同時に落ちているブラックホール系では、落ちていくものからの光の圧力、いわゆる輻射圧によって、周りのものが吹き飛ばされて、構造が変わるのではないかと考えています。この過程が銀河の形成・進化にフィードバックを与えているとすれば、これを定量的に観測で測っていくことができるかもしれません。

ハワイ島のマウナケア山頂にあるケック望遠鏡(画像提供:Laurie Hatch) チリにあるヨーロッパ南天文台のパラナル観測所(画像提供:ESO)

ハワイ島のマウナケア山頂にあるケック望遠鏡
(画像提供:Laurie Hatch)

チリにあるヨーロッパ南天文台のパラナル観測所
(画像提供:ESO)

サイエンティストの心を育てる

大学院では、こうした巨大ブラックホール系の先端的な観測、バイナリーブラックホールの存在の探求、さらにもっと広く空間分解能を追求する研究を行なっていきたいと考えています。大学院生の方には、一緒にサイエンスをやることで、新しいことを発見し理解していくスリルを味わってもらえれば最高です。

私の考えでは、これは単に宇宙物理学の研究を行うだけにとどまるものではありません。そもそもサイエンスというのは、特定の人だけがやっている特殊なものではなく、私たちの「理解」を進めるための最も一般的・基本的な方法の一つなのではないでしょうか。実験・観測に基づいて論理的に思考を展開し、ものを理解して、さらに予測・推測を行なう。このプロセスの繰り返しです。これは現代社会の様々な場所・企業・国家で行なわれており、むしろ根源的な部分を成していると言っていいのではないでしょうか。サイエンスを行なえるようになる、つまりサイエンティストの心を身につけることで、人間として重要な能力を会得してほしい、そう思っています。

また、宇宙物理学で要求される膨大な多次元データをコンピュータで解析するスキルは、世の中で扱われている一般的なデータを論理的に扱う強い力になります。宇宙物理学だけでなく、広い分野を視野に入れて、自信を持って巣立っていってくれたら、と思います。