研究紹介

理学研究科 数学専攻 山田修司教授 インタビュー

「結び目理論の可能性を追究して」

結び目理論との出会い

高校のときに、4色問題というのを本で読み、その証明を考えました。できたので、高校の先生に説明する中で、証明に不備があることが分かったのですが、そのギャップを埋めることができませんでした。神戸大学の学部生の頃に、その証明を書いたノートを読み、ギャップが何だったのか忘れてしまい「できているじゃん」と思い込み、大学の先生の所に持って行ったら、ちょうど結び目理論のゼミの最中でした。証明を話し始めてすぐにギャップが何であったのかを思い出して証明は撤回したのですが、その後でゼミに参加させてもらったのが、結び目理論との出会いです。

2年生のときにドイツ語の単位がとれずに留年が確定していた私は、大学4年生を2回するようなことになり、そのおかげで、結び目理論の教科書である Crowell & Fox 著の Introduction to Knot Theory という本を隅々まで読んでも時間が余り、Free Differential Calculus という本も読むことができました。

そのまま神戸大学大学院に進学しても良かったのですが、京都大学と大阪大学との大学院を受験し、その当時に低次元位相幾何学の研究が進んでいた大阪大学大学院に進学しました。ちょうどその頃、ジョーンズ多項式などの新しい結び目不変量が発見され、結び目理論に新しい風が吹き始め、それが私の研究と重なり今に至っています。

低次元位相幾何学・結び目理論の魅力

4次元以下の低い次元に限定した位相幾何学を、低次元位相幾何学といいます。低次元位相幾何学の重要な一分野として結び目理論があります。

結び目とは、3次元空間内にある輪のことです。また、複数個の輪のことを絡み目ともいいます。図1のように単純な形をした結び目を、ほどけた結び目、自明な結び目といいます。図2のように、自明でない結び目ももちろんありますが、それがほどけないことを証明する、ということが結び目理論の最初の課題であり、そのためには結び目不変量というものが必要になります。

図1 図2

図1

図2

結び目不変量とは、結び目を変形しても変化しない量のことです。そのようなものを見つけて、2つの結び目のその量を計算して、それらが異なっていれば、その2つの結び目は異なるということが証明できます。そのような量としては、古典的なものとしては、結び目の補空間の基本群あるいはその基本群から得られるアレクサンダー多項式などがあります。また、比較的最近に発見された不変量としては、ジョーンズ多項式などの量子不変量と呼ばれる種類の不変量があります。これらの不変量を用いて結び目を分類すること、あるいはそれらの不変量の性質を調べることなどが結び目理論における重要な課題です。

低次元位相幾何学では、結び目理論の他に、3次元多様体、4次元多様体についての理論も重要な分野です。5次元以上の高次元多様体についての理論も、もちろんありますが、その理論はある意味で、解決できる問題は解決されて、残りは解決不可能なもの、不可能と思われるものしか残っていません。それに比べて、低次元多様体には、解決できそうな未解決問題が沢山残っています。

また、低次元だと対象が実際に目に見えるということも魅力の一つです。さらに、我々が住んでいるこの宇宙空間が3次元であり、時間も合わせて4次元である、ということも、興味をかき立てられる理由の一つです。この宇宙はどのような3次元多様体なのか、と思いを馳せることができます。

すべての3次元多様体は、3次元球面内の結び目あるいは絡み目から、デーン手術と呼ばれる操作を施すことで得られます。このことから、結び目理論は3次元多様体論にとっても重要な分野です。

結び目という対象が豊かな現象を与えている理由は、それが3次元空間内の1次元のものであるから、次元差がちょうど2であるからです。2次元空間内の輪を考えると次元差が1で、自明なものしかありません。また、4次元空間内の輪は次元差が3で、すべてほどけるので、2、4次元での結び目理論は自明な面白くないものになります。しかし、4次元空間内での2次元の物体、すなわち曲面を考えると次元差が2となり、それはまた豊かな現象を与えてくれて、2次元結び目と呼ばれる理論となります。

結び目を純粋数学的に研究するだけではなく、その形を数値実験することで研究を進めるランダム結び目の理論というものもあります。それは、細胞核内のDNAの形をコンピュータシミュレーションするときに役に立ちます。また、染色体の状態からDNAが細胞核内に広がったり、逆に染色体の状態に戻るためには、DNA自身が交差するために、一度切れて再びつながる、という操作を行うことが必要となります。これは、結び目理論では結び目解消操作と呼ばれるもので、実際の細胞核内ではトポイソメラーゼという酵素がそれを行っています。DNAの形が変化するためには、その操作がどのくらい必要になるか、ということも、数値実験で予想することが可能です。

大学院で研究を行うために

インタビュー風景

学部生のときは勉強が主な仕事でしたが、大学院生になると研究が中心となります。もちろん始めは教科書で勉強をする必要がありますが、早い時期に論文などを読み、自分の研究課題を見つける必要があります。

結び目理論では純粋数学的な研究の他に、コンピュータを用いた計算実験も可能ですので、プログラミングが得意な場合には、結び目不変量の計算実験や、結び目のシミュレーションなどを行うことで研究を進めることもできます。

最近は、研究者になるという目的以外に、教職のための数学の知識を深めるために大学院に進学する人が増えています。学部の勉強ではない大学院での研究を通して、数学の面白さや魅力を知ることは、生徒達に数学を教えるときに役に立つ経験となります。