研究紹介

理学研究科 数学専攻 栁下浩紀教授 インタビュー

「非線形拡散方程式の定性的理論」

研究テーマに至るまで

大学の4年間では、佐武一郎『線型代数学』(裳華房)、高木貞治『解析概論』(岩波書店)、コルモゴロフ,フォミーン『函数解析の基礎』(岩波書店)などを読み、線形代数、微分積分、関数解析などの勉強をしました。修士課程では、反応拡散方程式系の数学理論・物理理論・数値シミュレーションなどについて、学習しました。博士課程以後は、非線形拡散方程式の定性的理論を主に研究しています。

研究テーマというものは数学の場合(特に数学の場合という訳ではないのかもしれません。あるいは、工学系で実験助手のような形で教育が行われる場合などは、また数学とは違うのかもしれません…)、自身の学習の結果として、それなりのテーマが見出されることが多いのだろう、と思います。ここで、学習というのは、例えば「論文を読んで、疑問点があれば、それについて考えてみる」といったようなことの積み重ねです。ちなみに、私の場合は、修士課程の段階では特に研究テーマというものはなかったように思います。おそらく、数学の場合、多くの大学院生がそうではないか、とは思います。

研究内容について

1:状態の時間変化

状態の時間変化(あるいは、時間発展)というものを数学的に設定し、取り扱いたいと思います。そのために状態全体の集合(とりあえず、Sと書きます)を設定します。例えば、状態が「3次元ユークリッド空間の中での点の位置」であれば、S=ℝ3などが適当でしょうし、あるいは、状態が「3次元ユークリッド空間の中での点の位置と速度」であれば、S=ℝ3×ℝ3(=ℝ6)などが適当です。また、「現在の時刻と3次元ユークリッド空間の中での点の位置」であれば、S=ℝ×ℝ3(=ℝ4)、「3次元ユークリッド空間の中での2個の点の位置」であれば、S=ℝ3×ℝ3(=ℝ6)が適当であると考えられます。

状態の時間変化を考えたいので、時刻sにおいて状態がa(∈S)であったとき、それが時間が経つとともに変化していって、時刻t(≥ s)においては状態がb(∈S)になるものとします。ここで、

状態は「最初の状態」a(∈S)と「それから経過した時間」t-s (≥ 0)で決まる

ものとします。すると、時刻rにおいて状態がaであれば時刻r+(t-s)において状態はbであるということになります。これは、もともとのsが0だとすると、時刻rにおいて状態がaであれば時刻r+tにおいて状態はbである、というように記述が簡単になるので、最初の時刻sは0である場合を考えます。このように簡単にするためにs=0としてしまって良いのは、仮定により「経過した時間」t-sが重要なだけで、「最初の時刻」sは重要ではないからです。

さて、時刻0において状態がx (∈S)であったとき、時刻t(≥ 0)においてとる状態をf(x,t)(∈S)と書くことにします。そうすると、

f(x,0)=x

です。また、時刻0において状態がf(x,t)であったとき、時刻s(≥ 0)においてとる状態はf(f(x,t),s)です。したがって、時刻tにおいて状態がf(x,t)であったとき、時刻t+sにおいてとる状態はf(f(x,t),s)です。さらに、時刻0において状態がxであれば時刻tにおいて状態はf(x,t)になるので、時刻0において状態がxであれば時刻t+sにおいてとる状態はf(f(x,t),s)ということが分かります。すなわち、

f(f(x,t),s)=f(x,t+s)

です。

ところで、xとtを少し動かしたときに、時刻0において状態がxであったとき、時刻tにおいてとる状態が大きく変化はしないものだとすれば、

fは連続

であると仮定するのが自然でしょう。今、「連続」という言葉が出てきました。したがって、状態全体の集合Sは「位相空間」として設定することになります。

時刻0において状態がxであったとき、すべての正の時刻tにおいてとる状態があるとは限らないことを考えると、fの定義域(fの定義域をΩと書きましょう)について少し考察をする必要があることが分かります。ただし、短い時間はとる状態があると考えると、

任意の状態xに対して、ある正の数εが存在して、時刻tが[0,ε)の間にあればとる状態f(x,t)がある

と仮定するのが自然です。この仮定から、

任意の状態xに対して、あるT(x)∈(0,+∞]が存在して、時刻tがちょうど[0,T(x))の間にあればf(x,t)がある

すなわち、fの定義域Ωについて

Ω={(x,t)∈S×[0,+∞)|t<T(x)}

と書けることが分かります。また、

T(x)=t+T(f(x,t))

です。因みに、T(x)<+∞のときは、ちょうど時刻T(x)でとる状態がなくなってしまう訳ですが、このような現象を有限時間爆発と言います。

2:常微分方程式の初期値問題

Sをn次元実ベクトル空間ℝnのある開集合(より一般に、あるn次元多様体)とします。すると、S上のベクトル場は上記の意味で状態の時間変化を定めます。この事実は「常微分方程式」の基礎(の一部)に該当します。高橋陽一郎『微分方程式入門』(東京大学出版会)、ポントリャーギン『常微分方程式』(共立出版)、アーノルド『常微分方程式』(現代数学社)、スメール,ハーシュ『力学系入門』(岩波書店)などに当たってください。あるいは、本学数理科学科の講義でも取り扱われるかもしれません。

3:反応拡散方程式

私の研究は非線形拡散方程式の定性的理論ですが、その一端を紹介したいと思います。まず、反応拡散方程式というものを説明します。状態の全体Sを、「ℝ上で定義された有界な連続関数」の全体とします。この場合、Sは(無限次元の)実ベクトル空間です。さらに、距離

d(u,v):=sup{ |u(x)-v(x)| | x∈ℝ }

によって集合Sに位相を導入します。一方、fをℝ上で定義された何回でも微分可能な関数とします。すると、偏微分方程式

数式3-1

は上記の意味で状態の時間変化を定めます。常微分方程式との対応で言うと、方程式の右辺数式3-1_1 がベクトル場です。より正確に言うと、Rを「ℝ上で定義された何回でも微分可能な関数で、すべてのn階導関数が有界であるもの」の全体とします(このとき、RはSの部分ベクトル空間です)。そうすると、R上のベクトル場

数式3-2

はRを状態全体の集合とする状態の時間変化を定めますが、これはSを状態全体の集合とする状態の時間変化に一意に拡張されます。数式3-2_1 が拡散を表す方程式で、数式3-2_2 が反応を表す方程式であることから、偏微分方程式 数式3-2_3 を反応拡散方程式と呼びます。同様のことが、多次元の反応拡散方程式 数式3-2_4 、あるいは、数式3-2_5 などについても成立します。

さて、a∈(0,2)とし、反応拡散方程式

数式3-3

が定める状態の時間変化について考察します。この状態の時間変化をF

数式3-4

で表します。まず、F(0,t)=0, F(a,t)=a, F(2,t)=2であることは簡単に分かります。つまり、0, a, 2という状態は時間が経っても変化しません。このように時間が経っても変化しない状態を定常状態と呼びます。また、反応拡散方程式の一般論を用いると、

0: T(u) = +∞
1: sup{ u(x) | x∈ℝ } < a ならば  数式3-5_1
2: inf{ u(x) | x∈ℝ } > a ならば  数式3-5_2

であることが分かります。

ところで、特別な状態については時間を逆に遡れることがあります。その場合にはFをt∈(-∞,0]にも拡張して、(記号の乱用になりますが)同様にF(u,t)で表すことにします。そうすると、定常状態について任意のt∈ℝに対して F(u,t)=u です。今、3つの定常状態 0, a, 2 がありますが、これらのような定常状態の他にも時間をいくらでも遡れる状態はあるでしょうか?比較的簡単な考察により、実は次のような状態 ϕ∈ S と c ∈ℝ が一意に存在することが分かります。

1: ϕ(-∞)=0, ϕ(0)=1, ϕ(+∞)=2
2: 任意の x0∈ℝ と t∈ℝ に対して F(ϕ(x−x0),t) = ϕ(x−(x0+ct))

この2番目の条件は、時間がちょうどtだけ経つと状態がちょうどctだけ平行移動する、という性質を述べています。このように、速度cで平行移動していく状態を(速度cの)進行波と呼びます。定常状態と同様に進行波も時間をいくらでも遡れる状態です。この進行波に関して、FifeとMcLeodは次のことを示しました。

数式3-6
ならば
ある x0∈ℝ が存在して数式3-7

この結論の部分は、時間が経つにつれて状態が進行波と区別がつかなくなっていく、ということを述べています。

さて、今の場合に、速度cの進行波の向きを逆にすると速度-cの進行波が得られます。すなわち、

任意の x0∈ℝ と t∈ℝ に対して F(ϕ(−(x−x0)),t) = ϕ(−(x−(x0−ct)))

です。私は、時間を遡っていくにつれて状態が速度cの進行波と速度-cの進行波を遠方で重ね合わせた状態と区別がつかなくなっていくものの存在を示しました。詳しく述べると、次のようになります。a∈(0,1] (このとき、c≤0 となります)とすると、ある u0∈Sとℝ上で定義された微分可能なある関数pが存在して

1:数式3-7
2:数式3-8

が成立します。詳しくは述べませんが、進行波に関するFifeとMcLeodの結果に対応するような結果も得ることができました。

このように種々の非線形拡散方程式が定める状態の変化の様子について調べることが私の主な研究のテーマです。

4:予備知識

非線形拡散方程式を含む非線形偏微分方程式の研究には、ソボレフ空間などの関数解析の知識が有用になります。「積分論(ルベーグ積分)」を既に学んだ学生で、この方面に興味がある場合には、ブレジス『関数解析』(産業図書)を学習してみると良いかもしれません。

大学院進学に向けて

インタビュー風景

数学で大学院への進学を考える場合、とりあえずは、齋藤正彦『線型代数入門』(東京大学出版会)や佐武一郎『線型代数学』(裳華房)などの標準的な教科書で線形代数の学習をし、溝畑茂『数学解析』(朝倉書店)や高木貞治『解析概論』(岩波書店)などの標準的教科書で微分積分の学習をすることになるだろうと思います。これは、大学院の入試を受けるということから必然的に行わざるを得ない、という面はもちろんありますが、3回生以後の学習の基礎でもある、という意味でも必要です。少し注意を要するのは、本学の数理科学科の線形代数、微分積分の必修科目で指定の教科書は、(大学院進学という観点から言えば)標準的な教科書ではありません。

それ以外では、代数学、幾何学、解析学(確率論含む)の“基礎を幅広く”学習するか、もしくは、それらの中の“特定の分野について少し深く”学習するか、のどちらかでしょう。解析学で言うと、前者に当たるのは「複素解析」や「積分論」の標準的な学習ということになるでしょうし、後者については例えば、熊ノ郷準『偏微分方程式』(共立出版)や渡辺信三『確率微分方程式』(産業図書)を読む、といったことかもしれません。前者については、本学の数理科学科の講義内容に沿う形で行うことも可能だと思います。後者の道を選択したい場合は、全面的に自習してください。ちなみに、私の場合は、コルモゴロフ,フォミーン『函数解析の基礎』(岩波書店)を読みましたが、これは前者と後者の中間辺りの道を選択した、と言えるのではないかと思います。特定のテーマとして、関数解析、偏微分方程式、確率微分方程式が出てきましたが、これはあくまで例ですので、ご自身で興味あるテーマを見つけてください。

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