研究紹介

理学研究科 数学専攻 渡辺達也准教授 インタビュー

「変分的手法による楕円型偏微分方程式の研究」

変分法との出会い

学部3年生の春頃までは就職を考えていて、経済数学、特に一般均衡理論や非線形計画法について自主勉強していました。その中で扱われる「角谷の不動点定理」について詳しく勉強したいと思い、「関数解析学」に詳しい先生のゼミを選びました。3年生秋学期からゼミが始まったのですが、ゼミをやるうちに関数解析学が面白くて仕方なくなって、大学院進学を目指すようになりました。そのゼミの先生の研究テーマが「変分問題」で、その時点で僕自身は不動点定理を中心とした関数解析学を学んでいましたが、先生のお話を聞くうちに変分法に興味を持つようになりました。その後、東京都立大学(現:首都大学東京)の大学院に進学したのですが、そこで師事した先生も変分問題を主に研究されている方でした。その結果、修士のゼミから本格的に変分法を学び始めることになり、現在まで変分法をベースにした研究を続けています。

変分法の魅力

ホワイトボード

変分法とは何かを説明するために、まずはその基となる「変分原理」と「変分問題」を説明します。自然現象の多くは“○○を最小(極小)にする”という形で定式化されます。例えば、光線は所要時間が最短になる経路を進み、電流は発熱量を最小にするように分布します。最小化する量は“エネルギー”で与えられ、“エネルギーを最小にする状態が実現する”という原理を「変分原理(最小作用の原理)」と言います。この原理を本格的に学ぶのは物理の「解析力学」で、数学の授業で学ぶことはないかもしれません。

上の例で挙げた経路のように、“状態”は関数で与えられます。したがってエネルギーは、適当な関数の集合上で定義された実数値関数(汎関数)となります。この汎関数の最小点・極小点(臨界点)を求める問題を「変分問題」と言います。微分積分学で学ぶ極値問題も変分問題の一部です。実際に変分問題として定式化される問題は多く、物理学における様々な法則だけでなく、幾何学における等周問題や測地線、極小曲面の存在なども変分問題です。僕自身は微分方程式の解の存在や性質を変分的なアプローチで解析する研究を行っています。つまり、研究したい微分方程式の解がある汎関数の臨界点として特徴付けられるときに、汎関数の形状を調べることで臨界点の存在を保証して、さらに得られた微分方程式の解の性質を探るというアプローチです。

汎関数の最小点・極小点の存在を厳密に示す場合、色々な数学的道具が必要になります。まず汎関数の定義域となる関数の集合をどのように設定するかが一つ目のポイントです。微分方程式から導出した汎関数には、状態を表す関数の微分を含む項が現れます。例えば平面上の2点A(a,y1)とB(b,y2)を結ぶ最短経路の場合には、曲線y=u(x)の長さを最小にするので、対応する汎関数は次のようになります。

数式1

したがって、エネルギー汎関数の定義域はC1-級の関数で端点条件をみたす関数全体であると考えるのが自然です。しかし、通常の微分可能性を課すと定義域が狭くなりすぎるので、極小点を探すことが難しくなります。そこで、「弱微分(超関数微分)」という部分積分を用いた微分の定義を導入します。ここで、g(x)がu(x)の弱微分であるとは、次の等式が成り立つことを言います。

数式2

また、積分を通常のリーマン積分の範囲で考えると、距離に関する“完備性”が保証されないので、「ルベーグ積分」を用いる必要があります。実際の関数の集合は「ソボレフ空間」と呼ばれるものになります。

ここで完備性という概念が現れましたが、これが本質的な役割を持ちます。我々は汎関数の極値を求めたいので、汎関数の「連続性」「微分可能性」を定義する必要があります。そのためには関数の集合に「距離」「位相」を導入して、極限操作をすることになります。その距離に完備性がないと、極限点の存在が保証されないことになります。

また、最小値を求めるためには、下限に近付く点列を考えて、その点列が収束部分列を持つことを示します。その極限点が定義域である関数全体集合(許容集合)に属することが分かれば、極限点が最小値を与える点になります。ここで問題となるのが一般に関数全体は「無限次元ベクトル空間」になるという事実です。「R n の有界列は収束部分列を含む」というボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理が知られていますが、無限次元空間では単に有界というだけでは収束部分列を持つとは限りません。そこで「コンパクト性」が活躍します。汎関数の下限(臨界点)に近付く点列のコンパクト性に関する条件を「Palais-Smale条件」と言い、変分法では本質的な役割を担います。

最後に汎関数が下に凸であれば、最小値の存在が期待できますが、汎関数の微分がゼロ(臨界点)であれば微分方程式の解が得られることに注意すれば、必ずしも最小値だけを考える必要はありません。実際にある状況では最小値が存在せず、鞍点のみが存在することがあります。この場合はコンパクト性に関する議論がさらにデリケートになりますが、AmbrosettiとRabinowitzによって、鞍点に対応する臨界点の存在を示す手法「Mountain Pass Theorem」が確立されました。これにより、変分的手法による微分方程式の研究が飛躍的に進歩しました。

このように、変分法を学ぶためには「ルベーグ積分」「関数解析学」「距離・位相」「完備性」「コンパクト性」などの知識が必要になります。これらのほとんどは学部の授業で習う事柄ですが、きちんと理解するのは難しい内容ばかりだと思います。僕自身も初めて“コンパクト性”について学んだ時には、何だかよく分かりませんでしたが、変分法を学んでその意味や有用性を理解することが出来ました。変分法には、これまで学んできたことの集大成のような側面があり、学ぶと色々なことが見えてくる、そんな魅力があります。

変分問題は元々の由来が物理学から来ているため、扱う問題は自然と物理学に関連するものが多くなります。それだけではなく、生物学や工学など他の自然科学分野に関連する問題も扱うことができます。僕自身この5年間くらいは「超流動薄膜」に関連する偏微分方程式の研究を行ってきました。今はダークマター形成に関係する微分方程式(Qボールの安定性とゲージ効果)を研究しています。それ以外にも2種類の生物の共存状態の実現を記述する協力系反応拡散方程式や、インクジェットプリンターなどに応用されているMEMSデバイスに関係する数理モデルなども研究しています。1つの研究をすると、関連する自然科学の内容も知ることが出来て、見識が広がっていくのを実感しています。

大学院進学に向けて

インタビュー風景

3年次まではどの分野にも進めるように、ある程度は広く基礎を学んだ方が良いと思います。逆に4年次になってゼミが決まって学びたい分野が決まったら、その分野と関連する分野を徹底的に勉強しましょう。大学院で本格的に研究するためには、ある程度の予備知識が必要です。全部を理解している必要はありませんが、少なくとも「聞いたことがある」というだけでも全然違います。

学部では次々と新しいことを学ぶので理解が追い付かないことがありますが、大学院に入って本格的な研究が始まるとこれまで学んだ事柄を活用することになるので、「こういうことがしたかったのか!」というのが見えてきます。研究では基本的に新しいことを学び発見することになります。それは簡単ではありませんが、その分だけ自分の理解が深まったことを実感できると思います。

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