研究紹介

理学研究科 数学専攻 東谷章弘准教授 インタビュー

「格子凸多面体論に魅せられて」

大学院進学を目指すきっかけ

私は小学生の頃からとにかく算数が大好きで、暇さえあれば計算ドリルをどんどん進めてしまう、そんな幼少期でした。それは、中学生、高校生、大学生になっても変わることなく、気付けば現在に至ります。大学3年生の冬、研究室を選ぶ際、私は代数学(群論や環論)が特に好きで、代数系の研究室に行きたいと思っていました。むしろそれ以外の深い理由は特になく、「先生が面白そう」という単純な理由で研究室を選びました。下記で紹介する『格子凸多面体論』も研究室の先生の専門分野であり、私も自然と同じ分野で研究を進めるようになりました。

出来ることなら一生数学をしていたいと考えていた当時の私は、大学院進学も当然考えており(むしろそれ以外考えておらず)、4年生の時点で既に博士課程まで進む意志がありました。そのおかげか、覚悟はしていたのですが、先生には4年生当初から厳しく鍛えていただきました。特に修士課程1年次の1年間は本当に辛く、涙をこらえて研究し、眠い目をこすりながら論文を書いた記憶が、今でも鮮明に蘇ります。

しかし、そのおかげで今でもずっと自分の好きな研究を続けることが出来ています。

格子凸多面体論とは?

さて、私の研究の中身について簡単にご紹介したいと思います。私の主な研究分野は『格子凸多面体論』です。その名の通り、格子凸多面体に関する理論ですが、私が特に興味を持って研究を行っているのは格子凸多面体における数え上げ組合せ論であるEhrhart多項式の理論です。

格子凸多角形(2次元)の場合

格子凸多面体とは、2次元の場合、格子凸多角形のことを指します。ここで2次元において、格子点とは、平面上で座標成分がすべて整数となる点のことをいい、頂点が全て格子点である凸多角形のことを格子凸多角形といいます。例えば、図1は格子凸多角形です。

図1

図1

格子凸多角形Pに対して、A(P)でPの面積、I(P)でPの内部の格子点の個数、B(P)でPの辺上の格子点の個数を表すとします。例えば図1の例ですと、A(P)=4、I(P)=2、B(P)=6となります。このとき、次のピック公式と呼ばれる公式が知られています。

ピックの公式 Pを格子凸多角形とします。このとき、

数式1

が成り立ちます。

さらに踏み込んで考えてみます。nを正の整数とし、格子凸多角形Pをn倍に膨らませます。つまり、各点をn倍して得られる格子凸多角形nPを考えます。ここで、nPに対してピックの公式を適用するとA(nP)=I(nP)+数式1/2B(nP)-1となりますが、A(nP)=A(P)n2であり、B(nP)=B(P)nです。さらに、f(P,n)=I(nP)+B(nP)(つまり、nPに含まれる格子点の個数)とおくと、

数式2

という式を得ます。つまり、f(P,n)はnに関する2次多項式となり、その最高次の係数はPの面積になります。例えば図1のPを考えると、f(P,n)は図2のような格子凸多角形nPに含まれる格子点の個数を数えることになるので、f(P,n)=4n2+3n+1となります。(チェックしてみてください。)

図2

図2

2次元からd次元へ

この議論は一般のd次元格子凸多面体に拡張することが出来ます。ここでP⊂Rdが格子凸多面体であるとは、PがZdの有限個の点の凸閉包で表されるときに言います。d次元格子凸多面体P⊂Rdに対し、Pをn倍に膨らませたものに含まれる格子点の個数をf(P,n)とおくと、f(P,n)はnに関するd次多項式になります。この事実は1962年にフランスの数学者Eugène Ehrhartによって証明され、それ以来、Ehrhart多項式と呼ばれています。また、この多項式の最高次の係数はPの体積に一致します。さらに、Pのn倍の内部の格子点の個数も多項式f(P,n)を用いて表すことが出来ます。これらの事実を組み合わせると、2次元の場合におけるピックの公式が復元できます。つまり、Ehrhart多項式の理論はピックの公式の高次元化とも解釈できます。

Ehrhartによって創設されたこのEhrhart理論を学部4年生で学んだ私は深い興味を抱き、格子凸多面体のEhrhart多項式の研究へと邁進します。具体的には、Ehrhart多項式の特徴付けについて取り組みました。つまり、どのようなd次多項式がd次元格子凸多面体のEhrhart多項式として実現されるか?という問題です。この手の問題に取り組む際、低次元の場合から考察するのが常ですが、1次元の場合は簡単な演習問題で、2次元が初めての非自明な場合となり、2次元の場合はScottによって1967年に完全解決されています。しかし、3次元の場合になると途端に状況は複雑になり、2017年現在で大部分が未解決のまま(というより、複雑すぎて完全解決は難しいと思われているよう)です。

そこで、次元以外に注目し、格子凸多面体に関する“意味のある”不変量に注目して特徴付けを行う、という方針を取ります。その“意味のある”不変量の1つが格子凸多面体の「正規化体積」です。私は大学院1年次に先生からこの問題を提起していただき、研究を進めた結果、正規化体積が4以下の場合のEhrhart多項式の特徴付けを完成させました。この研究結果はEhrhart多項式の特徴付けの全体の中ではさほど大きな研究結果ではなかったかもしれませんが、私にとっては非常に大きな意味を持つものでした。その後さらに研究は進み、格子凸多面体の「次数」に注目して、次数が小さい格子凸多面体のEhrhart多項式の特徴付けも行われるなど、日進月歩で研究が展開されています。

トーリック環、トーリック多様体、Fano多様体のミラー対称性

格子凸多面体はEhrhart理論のみならず、様々な分野と関連して登場する重要な対象です。例えば可換環論において、「トーリック環」は重要な環(整域)のクラスの1つですが、格子凸多面体から構成されるトーリック環(Ehrhart環と呼ばれている)を用いることで可換環論における重要な理論をいくつも得ることが出来ます。他にも、格子凸多面体から「トーリック多様体」と呼ばれる代数多様体を構成することが出来ますが、トーリック多様体は代数幾何学において豊富な例を提供してくれる重宝な対象として広く研究が行われています。さらに2012年前後に、格子凸多面体の変異(mutation)の理論が確立されましたが、これはFano多様体における「ミラー対称性」の理論と深い関係があります。格子凸多面体の変異の概念が登場して以来、高い注目を集め、盛んに研究が行われています。私自身も研究を進めています。これら以外にも多岐にわたる分野において登場する格子凸多面体とその理論は無限の可能性を秘めています。私自身、まだまだ勉強すべきこと・研究したいことも多く、格子凸多面体に対する興味が尽きることはありません。

大学院進学に向けて

インタビュー風景

上で述べたように、私は特段深い理由なく大学院に進学しました。具体的な研究テーマや挑戦したい未解決問題があるなどの明確な動機を持つ方は、ぜひ大学院でそれぞれのテーマを深めていただきたいです。しかし、学部4年生当時の私のように、そのような具体的な目的がまだ見つからない方も多いかもしれません。それでもぜひ大学院進学を前向きに考えてほしいと私は思います。もちろん、そのためにはそれ相応の覚悟が必要かもしれません。また、大学院では基本的には“研究”に取り組むことになりますが、偉大な先人たちによって整備されてきた理論を学ぶ“勉強”と、未開の地へと足を踏み入れ自ら道を切り開いて理論を構築していく“研究”は、全くの別物です。しかし、研究を行うためには、未開の地へと足を踏み入れてみたいという好奇心と探究心が不可欠で、有り余る好奇心と探究心が道を切り開いてくれることもあります。そのような情熱を持って、ぜひ大学院での研究を体感していただきたいです。私がEhrhart理論に魅せられ、格子凸多面体論へと誘われ、その奥深さに引き込まれ研究に没入していったように、何か深い興味を持てる対象に出会い、とことん向き合ってもらえればと思います。飽くなき探究心は、大学院修了後のどんな進路を選んだとしても、その後の人生の糧となるはずです。

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