研究紹介

マネジメント研究科 マネジメント専攻 行待三輪准教授 インタビュー

「企業の会計行動に関する日米の違い(棚卸資産を中心として)」

会計処理の変更が財務情報にどう影響するか

研究者志望で大学院に入って、最初に学位を取得したテーマは金融商品、特に先物為替予約のヘッジ会計に関するアメリカと日本、国際会計基準の違いを検討したものでした。ただ、会計制度的には先物為替予約を含むデリバティブ商品についてはすでに会計基準も規定され、研究の方向性として次の分野に取り組まなければならないと思っていた時期に差し掛かりつつありました。国際会計基準への統合化から商品や製品などの棚卸資産について期末資産の評価方法が原価法と低価法の選択適用から、低価法に強制適用になることを知り、製造業を中心とした日本で重要な資産である棚卸資産の会計処理方法の変更が財務情報にどのような影響を及ぼすのかを知りたくなったのが現在のテーマへの移行のきっかけとなりました。

棚卸資産の低価法強制適用に関しては、具体的には企業が公表している有価証券報告書から関連する数値を拾っていく形で東京証券取引所一部上場企業について数年単位で動向を確認したところ、数値的に財務諸表上に大きな影響はないことが分かってきたのですが、半導体といった製品サイクルが短く、海外との価格競争にさらされやすい需要予測の難しい産業で、原価法を採用し続けているものの特別損失に商品評価損や廃棄損を計上している企業があることがわかってきました。そこで、低価法が強制適用されるとすればこういった産業については非常に大きな影響が出るであろうことも予想されるようになりました。

書籍

私が所属する学会である先生より「棚卸資産を扱っているのならば、後入先出法の研究をしてみないか」というアドバイスをいただきました。後入先出法とは、棚卸資産の払出単価計算方法の1つであり、日本では石油業や、鉄鋼業、非鉄金属業など限られた産業でしか採用されておらず、しかも国際会計基準ではすでに廃止が決定されているという会計処理方法だったのですが、先生のお話では石油業などでは最近の仕入原価と売上を対応させるために頻繁に採用されていた方法であり、現在でも後入先出法は妥当であると考えている企業も存在するので、企業調査などを行ってみると面白いかもしれないというアドバイスをいただきました。

しばらくして、後入先出法を廃止するにあたり石油業界がどの時期にどのような対応を行ったのかを企業ケースや数値比較を行う形で論文を執筆していたところ、東京から一度研究報告をしてみないかというお誘いがありました。せっかくのチャンスですから報告させていただきました。その後の懇親会の席で研究会主催の先生より「共同研究をしませんか」という提案をいただきました。正直に言えば非常にマイナーなテーマでしたから、こんなお話をいただくとは思っておりませんでしたので、びっくりして、でもそれは本当にありがたいと思って共同で研究をさせていただくこととなりました。

実際に研究を行うようになってからは、共同研究会でのディスカッションを通じて特に後入先出法に関して日本とアメリカで採用に関して異なる視点が存在するのではないかということに着目するようになりました。アメリカの場合、ほぼ全ての産業で後入先出法を採用していますが、それは商製品や原材料の価格が高騰した場合、高い値段を売上原価に算入することで利益を減らすことによる「節税対策」が企業にとって大きな目的となります。しかし、実際に日本企業で聞き取り調査をしたときに感じたことは、「節税」という意識が日本企業には希薄だということでした。あくまでも製品のリスクの顕在化に焦点が当てられている、または価格下落時に一刻も早く後入先出法から別の方法へ変更することで評価損等を損益計算書上に計上してしまいたいという動機も見られました。

アメリカの場合、後入先出法から別の方法への変更は負債比率が高い企業、もしくは収益率の低い企業が含み益を出すことで業績の底上げを行う目的から行うケースが一般的であるという研究結果が導き出されています。これは聞き取りを行った日本企業とは全く異なる視点です。そこで日本とアメリカでは同じ後入先出法を採用するにあたっても別の視点や論理が存在するのではないだろうかということになりました。現在は、聞き取り調査も検討中ですが、実際の財務データを用いた統計的な実証分析を用いて日本とアメリカの行動原理の違いを後入先出法を軸に明らかにすることを中心に研究を行っています。

「経営者の裁量行動」が大きな研究テーマに

企業へ聞き取り調査に伺った時、開口一番に聞かれたのは、「なぜすでに日本で廃止された会計処理方法の研究を行っているのですか」ということでした。これについては私も同じことを感じました。ただ、実際に研究を行っている中で感じているのは、入り口は後入先出法ですが1つの会計処理方法を選択する、あるいは変更するにあたって企業がどのような目的を持っているのか、さらに言えば国別にどのような意識の違いがあるのかです。別の会計処理でもしばしばその会計処理を選択するにあたっての経営者がどのような行動を選択するのかという「経営者の裁量行動」が大きな研究テーマとして会計学では扱われています。

今行っている研究テーマ以外にも棚卸資産にはいくつか面白い研究テーマが存在します。全く異なるテーマになりますが、棚卸資産数値が企業の将来利益にどのような影響を与えるのか、あるいは関連する売上債権数値が将来利益にどのような影響を与えるのかも面白い分野です。欧米の先行研究では棚卸資産数値が年度で増加した企業の将来業績は悪化するという結論が導き出されていますし、同じような結果を日本でも発見することができました。これは企業の在庫管理がうまくいっていれば棚卸資産数値は一定水準で推移するのだから、増加は企業の在庫管理の機能不全を意味するとするのがインプリケーションです。これに関連する形で売上債権数値が将来利益にどのような影響を与えるのかを調べてみるのも面白いと考えているところです。

後入先出法についても、国際会計基準では廃止されてしまいましたが、アメリカでは現在も継続されておりますし、私個人としては収益と費用の対応関係を表す方法としては最も適した方法であると考えており、十分な存在意義があると考えています。期末の資産金額が実勢を反映しないという意見についてもアメリカで公表が義務づけられているLIFO Reserveを公表することで十分にカバーできると考えており、国際的潮流とは逆になりますが、この点についても十分に考察の余地があると思っております。

会計学の分野で何を学びたいかを考えてほしい

インタビュー風景

例えば税理士を目指す目的で大学院へ行こうと考えている場合、簿記だけでなく会計学的な理論を学ぶことは実際に会計事務所や監査法人などで働く場合に企業を知るうえで大きく役立つと思います。また、将来に行う実務とは異なるかもしれませんが、実際に理論や近年行われている欧米での先行研究を学び、自分の研究に取り入れることで自身の仕事にも生かされてくると思います。

研究者志望で大学院を目指す場合ですが、最近は査読付きジャーナルへの掲載や海外学会での報告など求められるものも大きくなっていますし、私自身も研究の厳しさは十分に感じています。ですから安易には勧めることはできないと思っています。ただ、それでも目指したいという学生さんには自分が会計学という分野で何を学びたいかということを突き詰めて考えてほしいと思います。もちろん最新の研究事情を知ること、英語論文を読みこなせることや場合によっては書くことも求められてきます。生半可な覚悟ではこの仕事にはつけないということをきちんと理解したうえで、自分が疑問に思っていることが明らかになってくることや人との出会いの面白さを感じてほしいと思います。

PAGE TOP