研究紹介

マネジメント研究科 マネジメント専攻 岡部曜子教授 インタビュー

「日本企業の経営はIT化とグローバル化に伴い、どのように変化するか」

日本企業の変容を情報の視点からモデル化

私の専門分野は組織行動論で、情報化やグローバル化に伴う日本の企業組織の変容過程をコミュニケーション理論、ネットワーク論、取引コスト理論などを援用しながら研究しています。私は大学卒業後10年余り会議通訳をしていたのですが、日本企業と海外企業との間のさまざまな交渉事や企業間提携、また、国内外の企業の経営会議、株主総会、記者会見などに立ち会う機会が多くありました。それらの経験から、日本企業特有のコミュニケーションの様態がとくに欧米企業と大きく乖離し、経営のパフォーマンスの違いを生むことを実感しました。当時は1990年代初めで、折しもインターネットが登場し、メールなどの新しいコミュニケーション技術が急速に普及して組織を大きく変革しつつある時期でしたので、情報技術に伴う組織の変容を情報やコミュニケーションという視点からモデル化してみたいと考え、研究の世界に入りました。大学院では、先生のアドバイスを受けながら、単一の組織だけでなく、組織間関係や地域のネットワークにも対象を広げて日米の組織を比較研究しました。事例には自動車産業の系列やシリコンバレーのネットワークなど、かつて通訳の仕事を経験した企業を多く取り上げ、インタビューなどのフィールドワークを重ねました。

経営言語の選択、グローバル人材の活用などに注目

書籍

現在は、実証的な研究に関心が向かい、IT化とグローバル化に伴って日本企業の経営がどのように変化するかについて、3つの観点から研究しています。その前提となる考えは、日本企業の経営の特徴―広義の日本的経営―は、企業組織内部に比較的長期にわたって蓄積された内部経営資源を有効活用するものであるが、情報化やグローバル化の進展により外部資源活用型の経営へと転換を余儀なくされ、内部型か外部型のいずれを選択するかのジレンマに立たされるということです。このような日本企業のジレンマの構造を明らかにし、動向を観察しながら、何らかの有意義な提言をしてみることが研究の目的です。

1つ目に注目しているのが、きわめて現実的な経営課題である経営言語の選択の問題です。企業が広く海外も含めた外部の情報的経営資源や人的資源を有効活用するには、グローバルビジネス言語となった英語を公用語化する必要があります。従来、日本企業は一般に、販売、生産、研究開発へと段階的にグローバル戦略を展開してきましたが、組織のマネジメントそのものは日本人が日本にある親会社を中心に日本語で行うという極めて閉鎖的で同質的な経営を行ってきました。しかし、世界中から優秀な人材を求めた方が競争優位性は高くなるとの考えから、すでに日産、楽天、ユニクロ、ホンダ、スミダコーポレーションといった大企業が英語公用語化を実施しています。これら日本企業の英語公用語化への動向は、グローバル経営の度合を判断する指標となります。このテーマについては、日本企業だけでなく欧米の企業や韓国、台湾など多くの企業や経営者にインタビューやアンケート調査を行ってきました。

2つ目に注目したのは、ERPと呼ばれる基幹業務統合ソフトの導入です。ERPの導入により、企業の基幹業務のデータが汎用的に扱われるようになりました。その結果、企業はますますコアの部分に注力し、そこで勝負するようになってきました。例えば、薬品会社は研究開発で勝負し、他社と競合する必要のない製造その他の基幹業務は汎用化してしまうわけです。しかし、日本企業はもともと組織内部の情報流通がよく、調整機能にすぐれていることで高いパフォーマンスを挙げてきましたから、このようなソフトが世界中で採用されることによって、海外企業と比較したときの優位性が低くなってしまいます。

3つ目はグローバル人材の活用です。これについては日本人で海外のビジネススクールでMBA取得した人を企業がどのように処遇しているかを検討しています。これらMBAホルダーとはグローバルスタンダードな経営知識や組織の理論を修得し、グローバルな人的ネットワークを形成したいわば外部経営資源に他なりませんが、内部資源活用型の経営から脱却しない日本企業はMBA人材の活用に非常に消極的です。企業派遣でMBAを取得しても、数年後に外資系に転職する人が多いのが実情です。アンケートやインタビュー調査、また、企業の経営者への調査を行っています。

企業でグローバル経営担う人材よ、来たれ!

インタビュー風景

経営学は学際的な学問分野であり、間口は広いのですが、研究テーマを絞りこみ、自分に向いた方法論を選択しなければ、質の高い論文を書くことができません。研究テーマが大きすぎて、関連文献を当たって事例をまとめるだけでは、面白味のないレポートのような論文になってしまいます。テーマは狭く深くがいいのです。また、研究方法については、数量分析をするならきちんとデータを取ってしかるべき方法で処理し、定性的な議論をするなら文献をしっかりと読み込む、またフィールドワークを中心にするなら、まさに足を使って書くという機動力の良さが求められます。こうやって集めた資料を駆使して理論を構築していくのですが、この段階は研究者の自由裁量で作業が進み、研究の面白さを最も感じる部分です。ただし、論文を書く作業は、一語一句を呻吟しながら時間をかけて情報密度の高い文章にする必要があり、かなりの根気が必要です。

社会人大学院生になられる方へのアドバイスですが、自分の社会人経験を核としたテーマを設定されるのがいいと思います。意気込みすぎて自分のキャリアからかけ離れた大きなテーマを掲げられる方がおられます。むしろ小さなテーマのように思えても、自分の体験をベースにしている方が、独創性や説得性があり、かつ将来に向けて広がりのある研究になると思います。

それから、指導教官を選ぶことは、実は結構難しいことです。自分が大学院生だったころを振り返っても、周囲で指導教官との相性が悪くて苦労している人を見てきました。研究分野が一致していても、やはり人間同士の付き合いですので、相性が合うことや研究スタイルというか研究への姿勢のようなものが合致しているといったことも、重要な条件だと思います。また、自律性も必要です。私の先生は大局的なアドバイスやデータの取り方、モデル化の作業においては綿密な指導をいただきましたが、経営組織論の理論の応用や論文のまとめ方は自分で取り組みました。本学の経営学部には幅広い専門分野の優れた研究者が大勢いますので、指導を受けたいと思った先生に直接会って、話をしてみてください。ちなみに私の授業では英文のペイパーを読み込んでいき、英語で報告することを奨励しています。大学院修了後は社会で企業のグローバル経営の一端を担っていかれるような方が来られればいいと思っています。

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