研究紹介

マネジメント研究科 マネジメント専攻 岩城秀樹教授 インタビュー

「不確実性下の意思決定」

ファイナンス研究を経て、基礎理論を深める

現在の研究テーマは、不確実性下の新たな意思決定基準の構築とそのリスク評価への応用です。この研究を始めた原点は、大学学部のゼミでMorris H. DeGrootのOptimal Statistical Decisionsというテキストを輪読していたことにあります。このテキストを通じて不確実性下の意思決定基準として現在でも最も標準的でポピュラーなvon Neumann = Morgenstern の期待効用理論を学びました。期待効用理論とは、将来起こり得る結果のもたらす効用、すなわち満足度の期待値で選考順序を付けて、効用の期待値が最大となる選択肢を選択するというものです。当時の私にとっては、とても難解でしたが、数理モデルを用いて公理に基づいて命題を証明していくアプローチの鋭さと美しさに魅了されて、大学院に進んでさらに研究したいと思うようになりました。

しかし、基礎理論である意思決定理論の研究だけで成果を出せる一人前の研究者になるのはかなり厳しく、当時の指導教授の薦めもあって、大学院進学後は専ら不確実性下の意思決定理論の応用分野であるファイナンスの研究をしていました。当時、ファイナンスは、投資資産収益率の平均と分散の組み合わせで、最適な投資資産の組み合わせを求めようとする平均・分散アプローチやそれに基づく市場均衡での期待収益率を表わすCAPM(Capital Asset Pricing Model)が学部でも教えられるようになってきていて、不確実性下の意思決定理論の現実問題解決への応用分野としてフロンティアという印象があり、研究成果が挙げられるように思えました。そして、当時日本の学会では、デリバティブ、すなわち派生資産の価格評価式としてBlack=Scholes式が認知され始めていた頃で、大学院指導教授の「Black=Scholes式を理解しなさい。そうすれば、一生食えるよ。」という一言で火がつき、以降、確率過程、確率積分、確率微分方程式などを勉強しながらそこで獲得した手法を使って、デリバティブの価値評価と連続時間経済モデルにおける最適資産選択問題の解法に取り組んできました。「一生」は厳しかったですが、その後10年程、日本のファイナンス研究において最先端にいることができたと思います。

書籍

一方、ファイナンスの研究をやりながら、頭の片隅にいつも思っていたのは、基礎理論の貧弱さでした。現在でも、株価などの原資産のファンダメンタル価格をどのように求めるのかは未解決のままですし、CAPMをはじめとする均衡価格理論は、その基礎となる人々の意思決定において期待効用理論を超えてはいません。現実の意思決定問題は、客観的あるいは主観的にせよ、将来生起する事象の確率が、一意に定められないか不明であるという不確実性下(このような不確実性をKnight的不確実性あるいは曖昧性と言います。)で行われることが多々あるのですが、従来の期待効用ではこの問題は解決できません。

そのようなこともあって、本学赴任少し前から、原点に立ち返り、不確実性下の意思決定理論の研究を主として行うようになり、期待効用理論に代わる曖昧性下での個人の意思決定基準の公理的な導出を目指すようになりました。

最近の主たる成果としては、2014年のEconomic Theory誌に掲載されたThe Dual Theory of the Smooth Ambiguity Modelが挙げられます。これは、意思決定者が起こり得る事象の確率分布(1次信念)を一意に定めることができないものの、1次信念の確率分布(2次信念)を持つとして、これによって曖昧性を表現する意思決定モデルの中、近年特に注目されていたKlibanoffらの滑らかな曖昧性モデル(Smooth Ambiguity Model)に対して、その双対表現を示したものです。Klibanoffらの滑らかな曖昧性モデルは1次信念下の期待効用の2次信念下での期待効用が意思決定基準を与えるというもので、言わば、期待効用の期待効用と言えますが、二重の期待効用であるがゆえに、現実の意思決定問題を解決する上では十分に実用的であるとは言えません。そこで、いくつかの公理を下に滑らかな曖昧性モデルが、1次信念下の期待効用の増加関数に対する2次信念の下での補分布関数の積分形で表現できることを示しました。次いで、この表現を下に1次信念と2次信念の複合分布を考えることによって、滑らかな曖昧性モデルが、この複合確率分布の下での効用の期待値で表現できることを示しました。この成果は、単に理論上の別表現をしたということだけではありません。二重の期待値を一重の期待値で表現したということにより、これまでに期待効用理論で培われたノウハウがよりダイレクトに曖昧性下の意思決定でも適用できるようになりますし、人々の曖昧性を回避する程度を測る上でも、従来の滑らかな曖昧性モデルと比較して、はるかに容易なものとなることから、現実問題の解決に向けて意思決定モデルをより一歩前進させたと言えるでしょう。

行動経済学がもたらすブレークスルー

皆さん、一人ひとりのことを考えても、将来、次の瞬間、何が起こるのか確実に分かる人はいないでしょう。予め決められていた予定も、何らかのアクシデントに見舞われて予定通りには行かない可能性を排除することはできません。すなわち、我々は、日々、不確実な状況の中で、自らの行動について意思決定していると言えます。そのような不確実性下において最適な意思決定をしたいと思うことは万人の願いではないでしょうか?したがって、不確実性下の意思決定を科学することは、万人にとって意義のあることだと言えます。先に、未だ期待効用理論を凌駕するような普遍性のある意思決定理論があるわけではないと書きましたが、現在では、行動経済学の分野で実験経済学が盛んに行われていて、人工知能や脳神経の研究の進展にともなって大きなブレークスルーが起こるのではないかと考えています。もちろん、それがどのような形でいつ実現するのかは不確実ですが。

一意専心の決意で、必ず道は開ける

インタビュー風景

一意専心、勉学と研究に励めれば必ずその先に道が開けます。私自身、大学学部まで学業に専念していたわけではなく、学業成績で人より秀でていたとは言えませんでした。しかしながら、大学院進学後、一念発起し一日の平均睡眠時間5時間と食事、入浴の時間を除いて勉学に没頭するという生活を数年続けました。そのお陰で現在のように研究者として生計を立てていくことができるようになれたと思っています。また、その時の体験が、研究における自信と誇りを自分にもたらしています。時には、弱気になって挫けそうになることもあるかもしれませんが、決して諦めないでください。苦労して身につけたことは、人生においてかけがえのないものをもたらしてくれるでしょう。日々そう信じています。

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