研究紹介

生命科学研究科 生命科学専攻 齋藤敏之教授 インタビュー

「脳を知り、ストレスから脳を守る」

副腎の研究からストレスと脳の研究へ
−大脳辺縁系の機能障害と修復に関する研究−

脳の手術に用いる脳定位固定装置

脳の手術に用いる脳定位固定装置

海馬を中心とした切片の染色画像(例)

海馬を中心とした切片の染色画像(例)

この研究テーマを設けることになったきっかけは学部生・大学院生の時に、ストレス学説の講義に興味をもったこと、大学院で副腎からのカテコールアミンとエンケファリンの同時放出メカニズムの研究に携わったことです。副腎は視床下部や下垂体とともに、体のストレス反応軸を構成しています。ストレス刺激を受けた時、その皮質からグルココルチコイドなどのホルモンの分泌が、また、その髄質からは上に述べたカテコールアミンの分泌が増大します。

大学院の研究は、ホルモン分泌の調節メカニズムを調べる実験からスタートしました。正常な調節メカニズムを調べる一方で、細胞や臓器の機能を測定しながら、病的な状態へ移行する現象をつかむ研究も進めました。このような研究を通して、細胞や臓器の正常な状態と病的な状態との境界を強く意識するようになりました。ただ、細胞や臓器レベルの研究に加えて、個体レベルでの研究の必要性も同時に痛感しました。

個体レベルでストレスの脳に与える影響を調べるにあたり、ラットに加えて、後にはブタを対象として加えることにしました。畜産分野においてもストレスが問題となっているためです。一方、西欧を中心にブタ(ミニブタを含む)は内分泌研究の対象となるばかりでなく、脳研究の対象として利用されています。ブタに拘束ストレスをかけると、脳が萎縮するという論文を読んだ時には大変驚きました。ヒトの場合とよく似た、ストレスによる影響が脳に現れるのです。ブタの脳は比較的大きく、従来の画像診断法を利用できる長所をもっています。また、ブタの「古い脳」はヒトの脳と性質が似ているところがあるため、ヒトへの橋渡し研究(Translational Research)に活用できる利点があります。現在、脳の基本的なストレス反応系と情動(喜怒哀楽)に関連する脳内神経機構をラット、マウスを利用して解析を進めていますが、ヒトへの橋渡し研究の視点から、ミニブタを用いた脳研究も合わせて進めています。

ストレスと脳−古くて新しい問題−

ストレスという言葉はよく耳にしますが、どこまで理解されているのでしょうか。古くて新しい、今日的な問題です。ストレスはヒトや動物のいろいろな疾患の引き金になると考えられていますが、その中身は必ずしも理解されていません。これまでの研究では、ストレス反応によって上昇する体内の生理活性物質、それぞれが脳に与える影響について解析され、報告されていますが、病態にいたるプロセスの糸口をつかんだとは言えない状況です。例えば、ストレス反応で分泌される副腎皮質ホルモンが脳にどのような影響を与えるのでしょうか。過去の実験結果は必ずしも再現できないことがあり、再検証しています。また、ストレスと感じる場合、多くが心拍数や血圧など、自律神経系によって調節されている機能が変化します。ただ、自律神経系の機能を調節する部位は「古い脳」の中にあり、自分たちの意思でその働きを変えることはできません。情動(喜怒哀楽)を司るのも「古い脳」です。この「古い脳」を知る研究が私たちの研究であると言っても過言ではありません。私たちの研究では、細胞を利用した実験に、個体レベルの実験を加えて、解析を進めています。さらに、ストレスの脳に与える影響を考えるとき、これまでは神経細胞が注目されることが多かったのですが、最近ではストレスとグリア細胞機能との関係にも着目しています。

興味をもち、失敗を恐れずに!

インタビュー風景

大学院での研究を行う上で、解剖学、生理学、生化学、薬理学、神経生物学などが基礎となります。学部では科目ごとに勉強してきましたが、大学院では関連する科目の内容を融合して活用していきます。また、英語の教材や文献を読む機会が増えます。日ごろから英語に親しむことをお勧めします。また、大学院では一つの目的あるいは目標を設定します。それに向けて、必要な勉強をしていきます。一方、論理的な思考ができるように、必要なトレーニングを積み重ねていきます。受け身ではなく、自発的に取り組むことを期待します。

大学院の研究で利用する実験技術・機材は、これまで多くの研究者や技術者が開発し、改良を加えています。それを理解することは最初、難しいかもしれませんが、これらを理解するためには、助言をもとにまずは使ってみることです。何回か使ってみると、次第に慣れてきます。また、失敗を恐れないことです。失敗を分析することで、多くのことを学ぶことができます。実験には苦労がつきものですが、何か興味をもてることがあれば、それが原動力になります。自分なりに興味をもてることに挑戦できれば、大学院での勉強や研究は実り多いものになります。

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