研究紹介

法学研究科 法政策学専攻 中谷真憲教授 インタビュー

「公共政策がむすぶ研究と実践活動」

ライシテから探るフランスの国家理念

フランスの公共政策を中心とした研究活動を続けてきました。その背景にあるフランスの政治理念や文化を探る試みです。また研究活動のかたわら、文部科学省の共同教育推進事業として大学間連携で学生と企業をダイレクトにつなぐコーディネート機関を立ち上げました。京都の大学生を対象に京都の経済団体との連携でグローバルな意識を持ち地域貢献できる「グローカル人材」の育成を進めたいと考えています。

公共政策の視点から私の中で分かちがたく結びついているこの研究と実践の二つの活動について報告したいと思います。

私はフランスの第五共和制に焦点を当て、その政治的伝統と変容について研究してきました。もともと政治文化論の立場で研究していましたが、政治文化は思想系の研究と非常に関係が深い。つまりその国が生み出してきた思想家たちの思想、哲学を深く研究することで、その国の政治文化の全体像を明らかにしていく手法です。

たとえば、人間について考察する時、その人が読んだ本や考えたことを見るだけでなく、その人が実際に何をしたかということでその人の全体像が浮かび上がる。国の政治文化を研究する時も同じことで、その国からどんな思想が生まれたかだけでなく、その国がどのような政策をアウトプットしたかを見ないと全体像は捕まえることはできません。国の場合の行動は政策ですから、政策をたどることでその国の政治文化を明らかにしようというアプローチを選びました。

その際に大事なのは、ほかの国にはない独特の公共政策の選び方です。うまく見つけてつかまえて分析すれば、その国の国柄が浮かび上がってくるようなテーマとして、私はライシテというフランスの非宗教性原理と呼ばれる徹底した政教分離政策を選びました。

フランスでは1905年に国家と教会の分離法ができました。この政教分離政策をクライマックスとして今の第五共和制憲法に至るまで連綿として続くフランス共和国の最大最強の前提がライシテという原理です。このライシテの原理を巡って、実はいろんな細かな公共政策が展開されていきます。その一つひとつを追っていくのが私の仕事となりました。

ライシテの原理が法律として根付く以前には、19世紀を通じてカトリック教会とフランス共和国との長い闘争の歴史があります。カトリックが大変強い勢力であったためにそれに対抗して厳格な原理を打ち立てたというのがフランスのライシテの姿です。

移民政策にもライシテの原理は反映されています。二十世紀に入って、フランスは移民がどんどん入ってきました。最初はイタリア、ポルトガルなどヨーロッパの国が多いのですが、その後にイスラムの背景を持った北アフリカ、ブラックアフリカがどんどん増えてきました。オイルショックの時にヨーロッパでは移民労働者の受け入れを停止するわけですが、一方で移民と家族の再結合という政策がとられた結果、必然的に移民の二世、三世が増えることとなりました。

フランスには、いま500万人のイスラムの人たちがいます。イスラム系の移民の増加で、ライシテ原理が試される状況が生まれました。表面的には、ライシテという徹頭徹尾、政治と宗教を分離したフランス共和国の神髄である精神と聖俗分離しないイスラムの精神とがぶつかるように見えるわけです。

研究を進めていくと、現実にはイスラムが宗教的な理由でフランスに反抗したり、フランス社会の秩序を守らないという事例は実はあまりないことが分かりました。最大の対立点は就業問題、就学問題なのです。ただ、一般のフランス人には共和主義の原理に最後まで合わないのがイスラムであるという先入観がある。そうした共和主義原理のロジックにひそむ罠にはまって、現実的な政策が進まないというのが現状です。

日本人として日本社会に何ができるか

グローカル人材開発センターで議論する学生たち

グローカル人材開発センターで議論する学生たち

話を公共政策に戻しますと、私はフランスの公共政策史というツールを使ってフランスの市民社会の特徴を考えているということになります。フランスの市民社会論や共和主義論、公共政策論に取り組みながら、どう日本のために貢献できるかが私にとって課題になってきました。研究上の関心から出発して、日本については日本人として日本社会に対して実践的なことをやらねばならないと考えるようになりました。

今の日本社会で最大の問題は、少子高齢化の中で政治的にも少数派になりつつある若者です。私の目の前にいる大学生、大学院生たちです。就職活動が抱える様々な問題に悩み、傷つく学生たちの姿を身近に見るにつけて、私は若者たちが実際に社会を動かすような支援をすべきだと決意を固めました。

学生たちにとって最大の問題が就職であるなら、私は大学の教育の中身そのものを企業に見せる形にして、そこで優秀な学生を企業が見つけられるようにすれば、大学に通い、勉強しながら就職の糸口ができる。そういうことを専門の過程に持ち込んだらいいのではないかと考え、逆転の発想を教育プログラムにまとめ上げました。

文科省の共同教育推進事業に申請書を書き、産学連携によるPBL(課題解決型学習)を中核とする「産学公連携によるグローカル人材の育成と地域資格制度の開発」が2012年10月から4年半の事業として採択されました。また、京都産業大学が代表校となり、京都府立大学、佛教大学、京都文教大学、龍谷大学、および京都経済四団体との連携によって2013年2月に産学公の地域連携センターであるNPO法人グローカル人材開発センターを設立しました。事務局は本学のむすびわざ館にあり、私が事務局長を務めています。

グローカル人材を京都企業の中核に

インタビュー風景

共同教育推進事業の中でグローバルな視野を持って京都という地域を支える実践的な人材を育てるグローカル人材教育プログラムを立ち上げています。私たちが目指すのは世界の中の日本、ローカルな社会のアイデンティティーをしっかり意識して誇りをもって世界と勝負するような人材です。

京都には地元企業でありながら世界的な企業がたくさんあります。特徴的なのは長く京都に根付いて、グローバルな世界と勝負しながら地域社会を守っているということです。これらの企業は、優れた製品、サービスを提供し、それに対して人々が喜んで対価を払う。そうやって人を雇用し、設備投資し、税金を納めているのです。日常の「仕事」の中にあるこうしたあり方こそが公共の第一歩ではないかと私は考えています。

グローカル教育プログラムは、グローバルな経済の荒波を読み、理解し、まともに働くとはどういうことか、地域社会を支えるとはどういうことかが分かる人材育成を目指す活動です。これだけ京都にたくさんの大学がありながら、幹部候補生を採用するのが難しいという声を地元企業の方から聞くことがあります。このプロジェクトの中から将来、京都企業の中核となるような人材をたくさん育てたいと思います。

PAGE TOP