研究紹介

法学研究科 法政策学専攻 久保秀雄准教授 インタビュー

「三重の相乗効果によって新たな可能性を切り拓く」

応用と基礎の相乗効果

学生久保先生はどんな研究をされているのですか?

久保まずは私の問題関心をお話ししましょう。私の問題関心は、応用と基礎の相乗効果をどう生みだすか、という点にあります。

学生基礎がしっかりしているとレベルの高い応用が可能になるし、逆に応用することで基礎は磨かれてより確かなものになる。だから、そういった相互に高めあう好循環の関係をどうやって築こうか考えておられるわけですね。

久保よく分かっていますね。授業で一生懸命伝えている甲斐があります(笑)。

学生他ではあまり聞かないので、印象に残っています。応用と基礎の相乗効果は、法社会学という久保先生の専門分野ではよく見られるのでしょうか。

久保もともと法社会学は、政策実践につながる応用を通して、その基礎を固めてきた歴史があります。マックス・ウェーバーが指摘するように、社会科学は社会政策に引っ張られて発展する傾向がありますので。

学生ということは、法社会学は応用と基礎の相乗効果から発展してきた学問なのですね。

久保はい。私のデビュー作は、植民地政策への応用を通して日本の法社会学の基礎がつくられた歴史を取りあげています。また、法社会学の世界的中心地である合衆国のケースを取りあげた論文もあります。その論文では、世界の法社会学の基礎となっている数々の研究業績が、合衆国の司法政策(応用)とどう連動して生みだされ、どのような役割を果たしてきたのかを明らかにしています。

学生では、法社会学では応用と基礎の相乗効果がたくさん生じているのですね。

久保いえ、それが必ずしもそうとは言えないのです。あくまで私が研究を通して、これまでの法社会学を反省的に振り返ることによって自覚的に認識できるようになった、という程度にとどまります。だから、まだ不十分だと考えています。

学生となると、相乗効果にもっと注目して自覚的に相乗効果を高めようとする点に、久保先生の独自性があるのですね。

久保そうなりますね。しかも私は、法学と社会学の相乗効果も高めようとしています。

法学と社会学の相乗効果

授業風景

学生それは、法社会学が法学と社会学の組み合わせから成り立っているからですか。

久保そうですね。くわしく説明しましょう。法社会学は英語で表記するとsociology of lawとなります。もっとも、socio-legal studiesと表記されることもあります。両者の違いはどこにあるか。確定的な答えはないのですが、伝統的には次のように解釈されています。前者のsociology of lawは、sociologyとあるように社会学がベースとなります。また、それはロバート・マートンが言うヨーロッパ種(ないしヨーロッパ大陸系)の知にあたり、より基礎的で原理的・抽象的な考察を重視するタイプになります。固有名でいえば、マックス・ウェーバーやニクラス・ルーマンといったドイツ系の巨匠が該当します。

学生ウェーバーもルーマンも、グランド・セオリストで社会学の大家ですよね。もともとは二人とも法学出身なのに。

久保その通りです。他方、後者のsocio-legal studiesは、legal studiesなので法学がベースになります。また、それはアメリカ種(ないしアングロ・サクソン系)の知にあたり、より応用的で経験的・具体的な考察を重視するタイプになります。固有名でいえば、契約の実態調査で有名なスチュワート・マコーレーが該当します。ウェーバーやルーマンのようなビッグ・ネームと違って様々な分野で知られているわけではないですが、契約研究については金字塔を打ち立てた人です。

学生はい、マコーレーは法社会学の授業でしか聞かない名前です。

久保ですよね。そして、sociology of lawとsocio-legal studiesに分裂しがちなのが、これまでの法社会学の内情です。

学生なるほど、法学ベースと社会学ベースに分裂しているから、応用と基礎の相乗効果も不十分なのでしょうか?

久保はい。だから、応用と基礎の相乗効果をもっと高めるためにも、法学と社会学の相乗効果をもっと高める必要があると考えています。二つの相乗効果は関連しているのです。しかも、調査と理論の相乗効果という、三つ目の相乗効果ともそれは関連しています。

調査と理論の相乗効果

研究室にある掛軸の言葉『読書得趣是神仙』は座右の銘。書を読むことの大切さを説き、大学院生に贈る言葉でもある。

研究室にある掛軸の言葉
『読書得趣是神仙』は座右の銘。
書を読むことの大切さを説き、
大学院生に贈る言葉でもある。

学生調査は政策実践に不可欠なので応用とのつながりが深く、逆に理論はアカデミックな性格が濃厚なので基礎とのつながりが深いということですか?

久保見事な推論です。調査研究は大規模になるほどお金がかかるので、国家的プロジェクトである政策実践と結びつきやすい傾向にあります。先ほど言及した日本の例も合衆国の例も、まさにその通りになっています。もちろん、政策実践に関係しない調査研究もあります。

学生久保先生ご自身の研究ではどうなのですか?

久保私はこれまで、人々の法意識に注目しながら、契約や紛争処理の実態について調査を行ってきました。法社会学では最も研究の蓄積があるテーマ群になります。ただし、従来の研究よりも理論を非常に重視していて、調査と理論の相乗効果を自覚的に追求している点に私の特徴があります。

学生理論によって調査データから読み取れる内容が変わってくる。先生がよくおっしゃるように、“見える景色が変わってくる”わけですね。逆に言うと、ウェーバーの理論のような古典は、調査データを分析する際にその価値が非常によく分かるようになると。

久保そうです。「法意識の文化的解釈」という私の論文は、まさにそれがテーマとなっています。もちろん相乗効果ですから、調査によって理論の新規発展が可能になる面もあります。そちらの面は「紛争処理の原初形態」という論文で示しています。

学生どのような方法で調査されているのですか?

久保調査の方法でいえば、参与観察やインタビューといった質的調査が多いですが、サーベイのような量的調査にもかかわっています。ここ数年は、刑罰についての人々の法意識を探る研究プロジェクトに参加して、全国規模の質問紙調査を実施しました。

学生契約のような民事分野だけでなく、刑罰のような刑事分野も調査対象なのですか。

久保はい。逸脱防止や更生保護などを研究している社会安全・警察学研究所では、警察調査や学校調査などにもたずさわっています。

学生政策実践との関係はどうなのですか?

久保はっきりと関係しているものもあれば、そうでないものもあります。ただ、いずれにしろ相乗効果を狙っているので、自分の中では分裂させずに何事もなるべく関連づけるようにしています。たとえば、私は大学からの依頼で、教育改善のための調査も行っています。はじめは法社会学とは関係ない実践向けの業務調査に過ぎませんでした。でも、本格的に研究を進めていくなかで、法社会学とつなげられることに気づきました。

学生教育改善と法社会学がどうつながるのですか?

久保答えは、論文が公表されてからのお楽しみということで(笑)。手がかりを与えてくれたのは、マートンやルーマンの師匠にあたるタルコット・パーソンズの理論です。彼はウェーバーの理論を発展させ、ヨーロッパ種の知とアメリカ種の知の統合を試みた巨匠です。

学生パーソンズ!先生の授業では頻出ですね。非常に重宝する理論ということで。

久保その魅力あふれるパーソンズの理論のおかげで、教育改善という実践のための調査と法社会学という専門分野の間に、つながりを新たに創りだすことができたのです。偉大な理論の恩恵はすごいなと思いました。今後はそのつながりを活かして、私自身がどう応用と基礎の相乗効果を生みだすかが課題となります。

学生今までなかったつながりを新たに創りだすというのは、何だか面白そうですね。研究は、新たな可能性を次々と切り拓くことになるのですね。

久保はい、そうですよ。それが研究の醍醐味です。なるべく多くの人に、その醍醐味を味わってほしいですね。

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