研究紹介

法学研究科 法律学専攻 野一色直人教授 インタビュー

「租税法を考える意味とは何か」

租税法の研究とは何か

我々の生活において、税金(租税)と関係する事柄は少なくないと思われます。ある意味、社会生活と密接な関係を有する租税を規定する法律が、所得税法や消費税法等の租税法です。

ただ、租税と聞くと、例えば、税金の計算の方法であり、法律とは無関係ではないか、あるいは、既に国(地方公共団体)が法律(条令)を決めていることから、特に議論の必要はないのではないかと思われる方も多いと思います。日々、新しい商品・サービスが企業等により提供される、あるいは、新しい技術が開発される中、このような商品・サービス等に対して課税されるのかについては、必ずしも所得税法等の条文の文言からは明らかではない場合があります。場合によっては、課税される、課税されないといった、相対する考え方が成り立ち得る場合があります。あるいは、現在の条文の解釈だけでは解決せず、新しい法律の制定が必要となる場合があります。

また、新聞等において、しばしば租税に関するニュースが報じられます。租税は「社会の会費」との話をよく聞くことから、租税を納めることに前向きではないと思われる企業や個人に対して疑問等を抱くことがあります。ただ、これらの企業等が、果たして、法律に定められた以上の租税を負担する必要があるのか、今一度考えてみてください。

法律に規定された租税を負担することは、法律上の義務と言えますが、同時に、法律に規定された義務以上の租税の負担を求められていないことにも留意しなければなりません。

このように、所得税法や法人税法等の法律に規定されていること、あるいは、これらの規定の解釈から導き出される以上の租税を負担することまでは、個人や企業は求められていないことから、課税の根拠となる所得税法等の租税法の解釈が重要となります。さらに、租税の負担を考える上で、租税は公平に負担すべきとの考えがあります。このような考え方を、誰もが否定することはできません。ただ、ここで言う「公平」の意味は何か、何を基準として「公平」であるのか否か判断するのかとの点について、常に考える必要があります。

加えて、租税の負担を企業や個人等の納税者に求める上で、正しい税額であるか否かの点のみならず、どのような手順(プロセス)により、租税の負担を企業等に求めるかとの手続に関する規定である租税手続法に関する法的問題も考える必要があります。例えば、正しい税額を導き出したとしても、果たして、税務署長の決定や税務署の職員の税務調査に関する手順が法律上適切なものであるのか、また、どのような手続が、納税者の権利を守ることと同時に、社会が必要とする租税を確保する上で必要とされるのかとの点も考えなければなりません。

非常に雑駁ですが、上記のような種々の法的な問題を考えることが、租税法の研究であると思われます。

租税手続法等の研究とは何か

書籍

次に、自分自身の経験を踏まえ、現在の研究テーマに関する話を続けたいと思います。

研究テーマの1つが租税手続法の法的問題の研究です。国税通則法等の租税法上、どのように納付すべき税額が成立し、確定するのか(そもそも、ここで言う「成立」の意味は、「確定」の意味は何か等)。また、確定申告書の提出や納付すべき税額の納付が遅れた納税者に対して、どのような場合、一定の金銭的負担である加算税等を求めることができるのか。あるいは、特定の納税者の税額に関する税務署長等の判断(税務署長等の更正処分等)に対して、どのような手続により不服申立て等を行うことができるのか等といった法的問題に関して条文の解釈に関する問題について研究を行っています。また、他の法制度や外国の制度等を踏まえ、手続法上、検討すべき課題はないのか、新たに設けられた制度の意義等に係る研究も進めています。

例えば、国税通則法の解釈に関して、延滞税の発生に係る判例の評釈を書いたことがありました(最高裁平成26年12月12日判例評論684号2頁)。一審・控訴審は「納税者の敗訴」つまり、延滞税は発生すると判断しました。他方、最高裁は「納税者の勝訴」つまり、延滞税は発生しないと判断した事例でした。

国税通則法の条文(文言)のみから考えると一審・控訴審の判断を直ちに否定できないと思われました。ただ、国税通則法の条文を解釈する上で、条文の文言そのもののみならず、上記の裁判において問題となった延滞税が設けられた趣旨・目的、さらに、この事例における事実関係と延滞税の趣旨等との関係に関する整理等を踏まえつつ、最高裁の判旨の意味を何度も考え、最終的に、最高裁判決が妥当であるとの考えに至りました。

このように、国税通則法が規定している現在の制度の概要等を整理すること、そして、条文を解釈することは重要であることは勿論です。また、実社会における租税手続法に関する争訟(紛争)の分析や新たに設けられた制度に関する整理等を通じて、国税通則法等の租税法手続法の課題を明らかにし、今後目指すべき租税手続法の方向性を考えることも醍醐味があると思われます。このような検討を進める上で、例えば、他の法分野や他の学問分野(経済や歴史等)の議論等を踏まえることが必要になることもあります。

また、別の研究テーマの1つが消費税法に係る法的問題の研究です。例えば、インターネットを介したサービスの提供と消費税との関係、仮想通貨に関する消費税の課税関係に係る研究を進めています。前者に関して、電子書籍等を配信する外国の事業者に関して、新たに設けられた登録国外事業者制度の意義を外国の制度と比較しつつ、法的な意義や課題を整理しています。また、後者に関して、仮想通貨の譲渡等に対して消費税を課税するとの最近の法改正について、消費税法上、どのような課題が残されているのか等を研究しています。これらの問題を考えることは、消費税法の解釈に関する問題のみならず、例えば、社会の変化を踏まえつつ、租税の公平の負担等の観点から、どのような消費税法(消費税の制度)が望ましいのかとの点を考えることから、非常に面白味があると感じています。

大学院で何を研究するのか

インタビュー風景

私が、大学院での最初の研究テーマを決めたきっかけ等は、やや変わっているかもしれません。

大学院での最初の研究テーマを決めるきっかけは、法学部を卒業後、勤務した国税庁において配属された部署で、ある事案の検討等に関連して法的な疑問が生じたことでした。私が抱いた疑問に対して、なぜ疑問を抱くのか(既に解決されているのではないか)、そもそも法的な疑問と言えるような検討すべき問題は実際に生じないのではないか等との意見がありました。ただ、最終的に自分の抱いた疑問に対して、納得ができる明確な答えを得ることができませんでした。そのような折、大学院への進学の機会をいただき、上記の疑問について、大学院で研究することができました。様々な曲折を経て、租税法を大学で研究・講義する機会をいただくこととなりましたが、疑問を抱くことは大切であるとの思いは変わりません。

大学院を目指す方々それぞれに、様々な理由や目標等があると思いますが、可能であれば、自分の抱いた疑問、つまり、自分にとって面白いと思えることに関する研究に取り組んでください。誰かに強制されるものでないからこそ、自分の疑問に対して何らかの納得できる答えを見つけるために、様々な法分野、あるいは、関連する分野の勉強に、意欲的に取り組めると思います。

このような取り組みは、必ずしも容易なことではないですが、大学院を目指す方々は、自分が面白いと思える疑問やテーマに是非取り組み、自分自身が納得できるものを得て欲しいと思います。そのような思いのある方々と一緒に勉強できることを楽しみにしています。

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