研究紹介

法学研究科 法律学専攻 成田秀樹教授 インタビュー

「社会安全政策の研究とプライヴァシー」

社会の変化と社会安全政策研究の必要性

私は、犯罪法システム、社会安全政策(Criminal Justice System)とプライヴァシーの保障の問題を中心に研究を進めています。

我が国は、かつて、世界で最も安全な社会の一つでしたし、現在も相対的にはそうだといってよいと思います。しかし、家族や地域のあり方が変化するにつれて、犯罪や非行への対処を根本的に考え直す時期に来ています。

現在の我が国の犯罪に対する法律である刑法や刑事訴訟法は、近代の西洋法システムを我が国なりに工夫して導入したものです。基本的には、刑法や刑事訴訟法は、犯罪が発生してから、事後的に、正式の刑罰を科すためのものとして構成されており、犯罪の予防や先手を打った対策や立ち直り支援は、主として、家族や地域の人間関係といった非公式のシステムに委ねられてきました。しかし、我が国にあっても家族や地域の在り方が変化するにつれて、これらの同じ法制度を維持するだけでは、安全で安心な社会を維持することは困難な時代に入ってきています。

そこで、犯罪や非行のリスク要因を見極め、犯罪や非行を減少させる先手を打った解決策を図る社会安全政策を研究する必要があるのです。

社会安全政策の特徴

犯罪や非行のリスク要因・原因を多角的に見極め、それへの介入・処遇策を総合的に研究する社会安全政策の特徴には、以下のものがあります。

第一の特徴は、犯罪予防を重視する点です。犯罪者の更生が難しいことが認識され、犯罪の動機があっても犯罪を実行しにくい環境をつくることによって犯罪を予防しようとする状況的犯罪予防論・環境犯罪学が台頭してきています。また、犯罪が発生してから犯罪を処罰しても被害者の被害の回復は困難な点が認識されるようになってきました。また、犯罪学における発達的犯罪予防論により、犯罪を犯すようになってから矯正するよりも、犯罪を犯す前に予防措置を取ったほうが、再犯率低下の効果が高く、かつ、費用対効果も高いことが明らかになってきました。

第二の特徴は、社会安全政策の主体は、刑罰のような国家に限定されず、住民サービスを行う地方自治体の関係機関や地域共同体やNGO等を含めて構想され、それらの連携が必要とされる点です。犯罪を実行しにくい環境を準備するには、地域共同体の主体的な活動は必要不可欠だといえるでしょう。また、発達的犯罪予防論によれば、犯罪や非行のリスク要因とそれを予防する保護要因は、それぞれの発育段階において家庭・学校・地域・友人関係など様々な環境にあるので、これらの非公式システムも主体の一つとなり、しかも連携して対処する必要があるのです。これらの連携の中心的な役割を担うものとしてコミュニティーが重視されるようになってきています。

第三の特徴は、証拠に基づく犯罪予防という手法を用いて、政策の正当性を裏付けようとする点にあります。証拠に基づく犯罪予防は、近代科学的処方を用いた犯罪学の手法であり、施策を実施する対象と実施しない対象を同数抽出して行う社会実験(無作為統制実験)によって、政策の効果を測定しようとします。

社会安全政策の研究とプライヴァシー

インタビュー風景

このような政策を研究するにあたっては、市民の自由保障とのバランス確保の視点が必要不可欠です。

社会安全政策は、国民の生命・自由・財産の直接的な保護だけではなく、国民の保護の前提となる「社会の安全」を重視しており、犯罪の発生前の予防活動をも議論の対象としています。

たとえば、ある地域で放火や性犯罪が繰り返し発生している場合には、路上へのビデオカメラの設置が犯罪対策の一つとして検討されてよいでしょう。この場合、証拠に基づいて犯罪の予防効果の有無、捜査としての効果を検討することは必要ですが、他方で、市民に対する自由保障やプライヴァシー保障との関係も検討する必要があるでしょう。

日本国憲法33条と35条は、人・住居・書類及び所持品を憲法上保護された領域として保護し、これらの領域に政府が干渉する場合は、正当な理由とそれを担保する令状審査を要件とし、令状要件については一定の例外を認めています。伝統的には、これらの憲法上の保護は、「有体物」に対する「物理的な侵入、強制力の行使」がある場合に及んできましたが、電話やインターネット、ビデオカメラ等の新しい技術が導入されるようになると、これらを利用する犯罪が発生し、これらに伴って犯罪捜査への利用を検討する必要が生じてきています。これらの新しい技術の犯罪捜査や犯罪予防への利用は、必ずしも有体物に対する物理的な侵入や強制力の行使を伴わずに人々の日常生活に干渉するので、上記の憲法上の保護が及ぶのか、及ぶとすればどのような具体的な要件のもとでその利用が許されるのかが大きな課題となります。私の研究テーマの一つである、捜査・調査とプライヴァシーの保障は、このような視点から新しい技術の利用の具体的な基準を探ろうとするものです。

大学院での研究の広がり

大学院では、社会生活の安全に向けた取り組みの在り方、そこでの多様な参加者の連携の仕方を、学問的な基盤にのっとって研究します。京都産業大学では、2013年4月に社会安全・警察学研究所が開設され、海外での取り組みとも比較しつつ、社会安全を担っている方々の実際の取り組みとその改善策について研究が進められています。大学院では、この研究所での最新の研究成果を取り入れて、研究者や社会安全の担い手を育成してきたいと思います。

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