研究紹介

法学研究科 法律学専攻 木俣由美教授 インタビュー

「コーポレートガバナンスの強化をめざして」

会社法から見た企業統治の在り方

企業の健全な経営と発展にとって、コーポレートガバナンスの充実と強化は不可欠です。不正行為を防止して収益の正しい分配が行われるよう、監視機能が有効に働いてこそ長期にわたる企業の成長が望めます。そのためには、株主や監査役、会計監査などいくつかのアプローチがあります。私は少数派株主の権能という観点からこれを研究していますが、コーポレートガバナンスのシステムや機能など、院生はどのような側面からの探究も可能です。企業法の理解はこれから司法書士・税理士・公認会計士などを目指す人にとっても、必須の課題となっています。

株主の権利と少数株主の保護

専門書や論文に限らず、会社法や民法をユミ先生が易しく面白く解き明かす一般向け入門書も数々執筆。

専門書や論文に限らず、会社法や民法を
ユミ先生が易しく面白く解き明かす一般向け入門書も数々執筆。

会社法は、商法が幾度かにわたって改正される中で、その一部から独立し、2006年から新たに施行されました。企業の設立・運営・管理などすべての側面での法的な根拠となる法律です。私の専門は商法・企業法ですが、その中でも会社法と株主総会の役割に注目して、コーポレートガバナンスの強化について考察しています。

株式を通して企業に出資し、企業を所有するのが株主です。株主はこれによって自ら利益を得るとともに、経営に参画する権利を有します。株主にとって企業の健全な成長は望ましく、経営を担う取締役などを選任する権限もあります。ところが、所有と経営の分離が進む中で目先の利潤や大株主の意向などに屈し、経営権を濫用して企業の利益に背反する経営陣も時として見受けられます。これをいかに規制し、コントロールするかという観点から、株主の権利ことに少数派株主の保護という観点に注目しました。

会社法では「株主平等の原則」と表現されていますが、事実上は株式の数量に応じた「平等」です。したがって、少数派株主は株主総会での議決においても多数派の意見に対抗はできません。そこで、少数派株主が行使できる権利として、主に三つが注目されます。まず第一は株式買取請求権です。株主総会での不本意な議決などに対して、これを行使して自身が所有する株式を企業に買い取らせ、企業から決別し経営に一矢報いることができます。

第二の権利として、株主名簿・取締役会議事録・会計書類などの閲覧請求権があります。株主といえども、企業活動の細部までうかがい知ることは簡単ではありません。正しい経営が行われているのかチェックするためには不可欠な権利です。

そして、最大の機能を発揮するのが第三の株主代表訴訟提起権です。この権利は、たった1株しか所有していない株主でも行使できます。不祥事などによって企業活動に不利益をもたらした経営者の責任を追及し、会社に賠償するよう求める権利です。

株主平等の権利と「株式平等」の権利

少数派株主にも認められたこれらの権利が、不正な経営の歯止めとなり、企業の成長を支えます。ただし、その反面いくらかの弊害も思量されます。株主とはいっても、当該企業とは相反する利害をもつ者もあります。競合企業などが企業秘密の流出を謀ったり、当該企業の市場を奪ったりする意図を持っているかもしれません。こうした嫌がらせのようなものをどう防ぎ、バランスをとっていくのか、あるいは司法機関がどのようにここに関われるのかなど現行法制度の理解や解釈、法制・立法なども含めた検討が必要です。

また、一般に大株主となる銀行・保険会社・年金基金など機関投資家の果たす役割もきわめて重要です。株価の上下で利ざやを稼ぐというのは株式市場の本来の目的ではありません。企業が資金を長期にわたって調達し、投資家はその配当金によって長期に利益を確保するというのが基本的な在り方です。個人株主であっても、株式を所有することで配当金を長く受け取り、これを年金に引き当てるなどという安定的な株主の在り方が考えられます。

こうして企業に親しみを持ち、長期に支援していく株主が増えることで、一般投資家や企業の資産をむしり取ろうとする「ハゲタカファンド」や、強引な買収による企業乗っ取りなどに、企業自身が有効に対抗できます。企業も株主優待制度などでこれに配慮していないわけではありませんが、どうも「大株主」優待制度に傾いているきらいがあります。その実現のためには、まず配当金を増やし、長期にわたって安定な株主を確保することが必要です。配当が向上してROE(株主資本利益率)が高まれば株価が上昇し、企業の安定性も高まりますし、株式市場の活性化にもつながります。

「株主平等の原則」とは会社法の文言ですが、いささかのごまかしがあるようにも思えます。平等なのは株主ではなく株式です。この本来の意味に立ち返り、さらに踏み込んで企業に長期資金を提供する安定的な株式所有者には配当の優遇措置を設けるなど、投機的な株売買とは分けて考えてもよいのではないかという立法論もあります。

コーポレートガバナンスと企業制度の検討

木俣先生は「日本笑い学会」http://www.nwgk.jp/の理事を務める。砂を噛むような法律条文、どうせなら面白く学んでいこうという。講義は駄洒落と爆笑の渦だとか。とはいっても「『商法』と『笑法』を取り違えては困りますよ」と笑顔で語る。

木俣先生は「日本笑い学会」http://www.nwgk.jp/の理事を務める。
砂を噛むような法律条文、どうせなら面白く学んでいこうという。
講義は駄洒落と爆笑の渦だとか。
とはいっても「『商法』と『笑法』を取り違えては困りますよ」
と笑顔で語る。

米国では重役がCEOなど執行役員として経営に当たり、別に取締役の中に監査委員会が置かれ、業務執行が正しく行われているかを監督するという形をとる企業制度があります。これに対して、日本では取締役が業務執行の決定機関であることが主流です。日本でも会社法で米国流の機関設計が可能となりましたが、まだまだ十分に機能しているとはいえません。

従来からの会社の機関としては、株主総会・取締役会の他に、監査役という日本特有の制度があります。しかし、監査役も「あかん」査役などと俗称されるように、監査機能を発揮していないことが多いです。終身雇用・年功序列という日本の企業風土では、社長のかつての部下で取締役に漏れた者が会社人生の最後に監査役に就任するなどということがしばしばあります。「同じ釜の飯を食った仲間」で、しかも子飼いの部下にまともな監査などできるはずもありません。

こうしたことから、先の株主代表訴訟で監査役も取締役とともに訴えられるということがあります。だれが、どのようにして会社に不利益をもたらしたのか、反対はしなかったのか、監査はできていたのかなども争点になります。

粉飾決算と不正経理で破綻し、米国に大きな衝撃をもたらしたエネルギー企業エンロン社の事件でも、経営陣や監査役のみならず、これに加担した著名な会計事務所も追及を受けています。会計監査人を務めることになる公認会計士を目指すなら、こうしたコーポレートガバナンスの失敗例から学ぶことは多いでしょう。これなしに、会計監査人の使命は果たせませんし、職務上の責を負うことにもなります。

さらに、会社法の理解は上場企業にだけ必要なものではありません。このところ司法書士会や税理士会から、私に会社法の講演を求める声が高まっています。高度成長期に急増した中小企業で、創業者から2代目、3代目へといった経営の移譲が課題となっています。こうした中小企業主は身近な司法書士や税理士に、遺産相続や事業継承、事業売却などの相談を求めます。こうした会社法にまつわるコンサルティング業務ができる司法書士や税理士が必要とされています。

会社法を学んで、企業の法務部で活躍するという道もありますが、大学院に進むのであれば、ぜひ公認会計士・税理士・司法書士などの資格も目指して欲しいです。こうした強い「士」が増えれば、企業の健全な発展と成長を支えていくことができます。経営・経済・法学問わず、会社法を役立てコーポレートガバナンスを見据えようという、チャレンジングな学生を求めています。

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