研究紹介

外国語学研究科 言語学専攻 島憲男教授 インタビュー

「ことばの不思議と規則性:ことばの持つ多様性と統一性へのアプローチ」

「ことばの不思議」を追求し、その解明を進める

私の研究テーマは、一言で表現すると、「ことばの不思議」の追求とその解明です。ことばには、そのことばを使用する者が必ず守らなくてはならない文法上の決まり(=規則)があります。そのため、例えば、新しく外国語を学ぶ際には、その決まりを理解し、記憶し、正しく活用できるように意識的に練習する必要が生じます。このことは、みなさんも経験があるので、実感しやすいと思います。しかし、実はこのことばの決まりは、絶対的で不変的なものばかりではないのです。とても興味深いことに、あることばを1つ取り上げて、そのことばの決まりや使い方を深く掘り下げて調べていくと、母国語話者が表現したい内容の必要性に合わせて、少しずつことばの決まりを変化させていることがあることにすぐ気付くことができます。みなさんが外国語で新聞や小説を読んでいる時、意味は(何となく)理解できるものの、その使い方がよく分からず、調べようとしても辞書にも文法書にも載っていないような表現と出会ったら、それはとても大きな幸運です。みなさんだけの宝物である宝石の原石を見つけたようなものだからです。ここからみなさんの不思議なことばを巡る旅、つまり研究の第一歩が始まります。

私自身は、主として「ことばの持つ形式」と「その形式が表わす意味」との文法的な対応関係を分析することで、不思議なことばの解明を目指しています。「文法的な対応関係を分析する」と書くと、難しそうに思われてしまうかもしれませんが、文法を「ことばの持つある特定の言語形式を特定の意味と結びつける規則の体系」と考えてみてください。あることばの持つ言語形式がどのような意味を表現するかを決めているものが、文法ということになります。文法の規則に、これ以上まだ調べることが本当にあるのだろうかと不思議に感じる人もいるかもしれません。具体例で考えてみましょう。多くの皆さんが学校で初めて学んだ外国語は、おそらく英語でしょう。そこで、ここではまずその英語で考えてみましょう。英語には進行形という時制があります。 be 動詞+ ing 形(現在分詞形)で、「〜しているところだ」という動作の進行という意味を表現するものなのですが、これは、つまり be 動詞+ ing 形(現在分詞形)という言語形式と動作の進行という意味が、英語の文法で結びつけられていると理解することができます。しかし、多くの皆さんが既に知っている通り、現実のことばの世界はそれほど単純ではありません。実際には、この言語形式が通常は許されない動詞(know, want などの進行形にならない動詞)や、形式上はこの言語形式を取っていても、単純に動作の進行の意味と結びついているとは言いにくい場合(例えば、 This book is interesting; I’m meeting him tonight. )もあります。このように、1つの言語形式が多様な意味を持ちうることや、またその逆に、ある意味を表現するためにある言語では多様な表現形式を用いることも決して珍しいことではないのです。

ドイツ語で構文の内部構造を研究

書籍

私の専門言語はドイツ語です。これまでドイツ語の文法について様々なことを調べてきました。その中には、小さな語でありながら多様な意味や働きを持つ前置詞の意味研究や、基礎動詞に前綴りをつけた不変化詞動詞(ドイツ語の文法の教科書でいう分離動詞)と主語が行った行為の後に生じる結果状態を描写する結果構文との関係、動詞と同じ語源の目的語である同族目的語や、動詞の行為の後に初めて存在・出現するようになる結果の目的語といった一風変わった性質を持つ対格/4格表示の目的語とその文の主動詞との関係などが含まれています。いずれも「ことばの持つ形式」と「その形式が表わす意味」との文法的な対応関係が一対一の単純な対応関係で決着することはなく、調べていけばいくほど新しいことが次々と判明していき、研究に着手したときには思いもかけなかった意外な結論に到達することができました。そしてその度に、未知の世界に一歩足を踏み入れたような、あるいはドイツ語の本当の姿のほんの一部分を垣間見たような感激と感動を感じました。この感激と感動が次の調査・研究へと進んで行く時に、大きな励みになったことは言うまでもありません。

最近はドイツ語の構文研究に特に関心を持って、研究を進めています。構文と言えば、大抵は統一的で静的な文法カテゴリーと考えられがちなのですが、これまでの研究の成果から私は構文を動的なものと捉え直して、ドイツ語の1つ1つの構文が形成している内部の構造を調査しています。構文の詳細な内部構造が解明されると、そこから構文の拡張の可能性拡張の方向性を推測したり、説明したりすることができるようになります。上述した、意味は(何となく)理解できるものの、その使い方がよく分からず、調べようとしても辞書にも文法書にも載っていないような表現を理解したり、説明したりする可能性が大いに広がってくるのです。そのためには、その構文が使われている実際の具体例や使用例を大量に収集しなければなりません。ドイツ語で書かれた小説や新聞を大量に読むだけではなく、平行してドイツのマンハイム市にあるドイツ語研究所(Institut für Deutsche Sprache)が提供する大規模言語データバンクであるコーパスも活用します。そうして収集した膨大な用例を丹念に分析し、詳細に検討していくと、ドイツ語の文法体系の中でそれぞれの構文が示す連続性競合関係なども見えてくるようになりますので、そのような文法的な関係を反映させた構文のネットワークモデルを構築しています。

例えば、上で述べた結果構文(主語が行った行為の後に生じる結果状態を描写する構文)の研究では、まずドイツ語結果構文の用例・使用例を大量に収集して体系的記述を行いました。そして結果構文の持つ文法の様々な特性を解明しました。その結果、ドイツ語の結果構文には確かに多様な用法がみられるものの、共通する文法的性質によってひとつの構文としてのまとまりを保ち続けていること、そして文法的な条件が変化することで統語的・意味的に少しずつ異なる複数のサブタイプが観察されること、このサブタイプ同士が有意味な文法関係で互いに密接に関連づけられていることなどを解明することができました。この研究成果は、現代ドイツ語で多産されている結果構文の存在理由を解明し、辞書や文法書にも掲載されていない構文中の動詞の使い方を説明したことになります。さらに、ドイツ語の結果構文がどのように拡張していくかの過程が明示されたことにもなります。同時に、同じゲルマン語派の言語である英語での結果構文との比較・対照を実際のテクストの中で行い、結果構文の先行研究の多くが暗黙の前提としている英独両言語の結果構文の平行性や等価性が保持されにくい事実も検証しました。これらの研究成果は、すでに論文として公表していますので、もし興味があれば、是非一度目を通してみてください。

一緒にことばの「謎」を探求しませんか

インタビュー風景

ことばの世界で自分の知りたいことを真剣に調べていくと、そこにはまだ誰にも気付かれていないだけで、まだまだ解明されていないことがたくさんあります。また、これから解明されるべきことばの「謎」は、多くの場合、母国語話者にも無自覚で、無意識に使用されています。外から当該の外国語を客観的に観察することで、母国語話者が見落としがちなことばの真理に迫ることができる、私はここに外国人研究者の重要な存在意義の一端があると考えています。

ことばの世界は、まだまだ分からないことがたくさん残っている不思議な世界でもあります。この不思議なことばの世界で、共にことばの不思議を探求してみませんか?

意欲あるみなさんの積極的な参加を楽しみにしています。

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