研究紹介

外国語学研究科 英米語学専攻 大和隆介教授 インタビュー

「楽しく効果的に英語を学ぶ学習ストラテジー指導を実践・研究」

外国語教授法のトップランナーとしての英語教育学が教えてくれること

私は上智大学英文学科で学び、教員免許を取得して、卒業後、東京都内の中学校の英語教員となりました。その後、郷里の石川県の星稜高校に移り、二年間、米インディアナ州立大学に留学、学部で日本語を教えながら大学院で言語学を学びました。復帰後、しばらくして北陸大学の講師となり、岐阜大学准教授を経て、2005年から京都産業大学の外国語学部と大学院で教え、英語教育学を研究しています。

英語教育学は、言語習得のプロセスを解明し優れた教授法を開発しようとする応用言語学から派生した学問です。英語が世界の共通語になっている現在、世界の外国語の中で最も教授法の研究が進んでいるのは英語であり、英語教育学は外国語教授法のトップランナーと言えるでしょう。

英語教育を少し学ぶと、言語習得に関するシンプルだけれども見過ごされがちな事実に気づきます。それは、誰でも母国語は苦労せずに習得できるのに、外国語の習得(特に日本人の英語学習)は上手くいかないのが普通だという事実です。しかも、外国語学習の場合は、同じ言語を同じ環境で学んでいても、個人によって非常に大きな違いが生じます。苦労しなくとも英語がどんどん上達する学習者を「優れた学習者」と呼ぶなら、彼らは苦労してもなかなか上達しない多くの「普通の学習者」とどこが違うのでしょうか。

言語学習において、記憶力や分析力、音を識別して再生する能力など認知的要素が大切なことは言うまでもありません。しかし、最近では、動機づけや感情をコントロールする能力、他者と協力して学ぶ姿勢など情意的・社会的要素が、言語習得にとって認知的要素と同じくらい大切であることが多くの研究から明らかになっています。

このような点に関して、私の長年の教育経験や研究活動から言えることは、どんな学習者にも英語を楽しく効果的に学べる方法が必ずあるということです。そして、その重要な鍵となるのが学習ストラテジーです。優れた学習者は、学習する際に認知的要素、情意・社会的要素をとても能率的にコントロールできる人だと言えます。言い変えれば、優れた学習者は、最も効果的な学習方法を自分で見つけて実践できる「学習ストラテジーの優れた使い手」なのです。彼らは明確な目的を持ち、それに合わせた計画を立て、途中経過を客観的に見つめ、評価し改善します。英語学習でPDCAサイクルを効果的に実践しているわけです。

明確な目標を持った自律学習者を育てる

書籍

優れた学習者は、特別な指導を受けなくとも学習ストラテジーを自然に身につけることができます。しかし、多くの普通の学習者には指導が必要です。学習ストラテジーの適切な指導を受けることで、未熟な学習者や普通の学習者が優れた学習者に変化する可能性が高まります。実際に大学に入ってから学習ストラテジーを身につけることで、英語の力が大きく伸びた学生が沢山います。

具体的にどんな指導をするかというと、まずは自分の学習スタイルの自己分析から始めます。最初に、自分が学習に関してどんな工夫をしているかを知り、自分の長所・短所を分析します。自分のことは自分が一番よく知っていると思いがちですが、意外と分かっていないことが多いものです。次に計画を立てる際に、何をどう学ぶべきか、実際に役立つ学習ストラテジーをより具体的に教えます。学習ストラテジーには、効率よく学び、知識や理解を深めるためのものや、「話す」「聞く」「読む」「書く」というスキルごとに効果を発揮するものなど多様ですから、体系的に学ぶことが大切です。

さらに学習ストラテジーを効果的に使うためには、メタ認知ストラテジーと呼ばれる汎用性の高い学習ストラテジーのレパートリを増やすことが重要になります。手持ちの学習ストラテジーの中からこの時にはこれを使う、この場合は使わないという適切な選択ができるかどうかが、学習効果の向上に大きな影響を与えます。与えられた状況、タスクに合わせて最も効果的な学習ストラテジーを試行錯誤の中から、自分で見つけ出す能力を育てることが重要なのです。

一方、多くの英語教員は「ストラテジー」という言葉は使いませんが、こうやれば文章が理解できるとか、こうすれば文法の問題が解けるようになるとか、教室での指導の中で英語学習の「コツ的なもの」を教えています。しかし、このような理論的裏づけのない指導には問題があります。たとえば中学校の英語の先生は声を出して英文を読みなさいと指導します。そうすると、試験の時にモグモグと口を動かす生徒が出てきます。聞こえるような音は出ませんが、音読しているのです。ところが、テストで長文を読解する時は黙読したほうが速い。これが経験則に根差した指導の落とし穴なのです。無批判に学習のコツを使うと、かえって能率が落ちてしまうことがあるのです。

私は小学校から大学まで学習ストラテジーを活用する授業をした経験がありますが、自分を客観的に見て、コントロールするいわゆる「メタ認知」は小さい子どもたちには望めません。幼児期は自分と他者との区別が難しいためです。それでも子供たちは徐々に客観的に見つめる能力を身につけ、小学校高学年になると、計画を立てて、実行していく能力がついてきます。そうなれば学習ストラテジーを使った指導が効果を発揮するようになります。「この授業ではこういう点を頑張りましょう」と始まる前に言っておいて、最後に「どれくらい頑張れましたか」と問いかけるだけの指導でも随分と違いが出てきます。

中学から高校、大学になれば、英語を学ぶ過程に学習ストラテジーの指導を組み込みます。最初に今日の学習目標はこれだということをはっきりさせておいて、最後に自己評価させて、全員でどこが良かった、どこが悪かったかと(可能ならば英語で)ディスカッションさせます。それが意味のある学習活動になります。生徒や学生に自覚が生まれてくれば、自律学習者(Self-Directed Learner)の段階に一歩近づきます。そうなれば先生があれこれ言わなくても、徐々に自ら積極的に学べるようになります。学習ストラテジーの指導の大きな目的は、受け身の学習者をこうした自律学習者に変化させることなのです。授業や宿題も先生や親から無理にやらされていては大きな効果は期待できません。学習ストラテジーの指導を受けると、最初は受け身でも、その中に楽しみを見つけ、目標を立てたり、友達と競争したりしながら積極的に学ぶ姿勢が身についてくるのです。 

世界中で広がりつつあるタスク中心の指導法にもマッチ

インタビュー風景

学習ストラテジーは英語だけでなく、他の教科にも応用できます。例えば、読む前にタイトルから内容を想像する、長い文章は意味の切れ目を考えて接続詞をチェックする、分からない単語があったら接頭語や接尾語を見て品詞を決めるなどの指導は、英語に特化したストラテジーの指導となり、他の学習への応用は難しい。しかし、重要なところに注意を向けて分析するとか、その文脈から次に起こることを予測し準備するストラテジーは英語に限らず汎用性があります。

これが先にも少し触れた「メタ認知ストラテジー」と呼ばれるものです。メタには「超える」という意味があります。自分の認知を超えるということは、客観的に自分を見る、自分の考えを第三者的に分析すること。以前、学習ストラテジーは6つの種類に分類され、メタ認知ストラテジーはその一つにすぎなかったのですが、今では学習ストラテジー全体の司令塔のような役割を果たしていると考えられています。メタ認知ストラテジーが、タスクに応じた効果的ストラテジーを選択する役割を担っているのです。

近年、世界の言語指導においては、達成目標を明確に設定した具体的なタスクを通してコミュニケーション能力を育成しようとするタスク中心の言語指導(Task-Based Instruction)が主流になっています。与えられた言語タスクを上手に遂行する際にも、学習ストラテジーを活用することが役立ちます。このような学習から成功体験を増やすことが出来れば、仮に成功しなかったとしても、上手くいかなかった原因が自らの能力ではなく取組み方に問題があったと学習者が理解すれば、次回のタスク成功の可能性は高まります。

このように成功体験を一つ一つ積み重ねることは、学習者の言語学習に対する動機づけに非常に大きなプラスの影響を与えます。学習活動の成否に最終的に最も重要なのは動機づけであることは語学教員も教育学者も同じように認めています。長期間にわたって高いレベルまで学習を進めるためには、どうしても自分の目指すべき確固とした目標を持つ必要があります。

応用言語学の分野でも動機づけの研究が過去半世紀行われてきましたが、その中で今注目されているのが自己動機づけ理論(Self-Motivation Theory)です。従来のオーソドックスな理論では試験に受かるとか、いい仕事についてお金持ちなりたいとか、そういう人たちの仲間入りがしたいという動機づけに分けて考えていました。それが最近では、外からの動機づけと内からの動機づけにはっきり分かれるのではなくて、その時々において変化するという時間軸の変化を重視した理論が注目されています。動機はダイナミックに変化するものですから、同時に複数の動機づけを持ってもかまわないのです。

そもそも動機づけとは3つの要素から成り立っている概念です。一つは方向性(direction)、つまり何に対して努力するか。次の要素は強さ(intensity)、どれくらい真剣に努力するか。最後が長さ(duration)、どれくらい継続して努力するかです。このような理論的背景の中で「理想的自己」と「義務的自己」という考え方が生まれてきました。こうなりたい自分と義務感で行動する自分ということですが、自己動機づけ理論は、この二つの自己の生成や両者の関係を説明する理論です。学習者の多様な学習経験の中で、二つの自己が形成され変化していくのですが、高いレベルでの言語習得を実現するためには、外的・義務的なものからだんだんと自分のなりたい理想的自己をしっかりと形成できるかどうかがポイントになってきます。と言うのは、理想的自己というものは誰にでも簡単に持てるものではないからです。一生持てない人もいるのです。理想的自己というのは夢や空想ではなく、とてもリアルなイメージです。自分が英語を使ってプレゼンしているとか、英語を使って気の利いた会話をしている自分自身を鮮明にイメージできないと駄目です。そんな現実感のあるイメージに基づく理想自己を形成するためには、どうしても数多くの成功体験と豊かな想像力を育むことが必要なのです。

英語教育においても、素晴らしい教育者は常に理論の一歩先を行っています。研究者ができることは、優れた教育者がやっていることに追いつき、分析し、理論的に説明することかもしれません。尊敬できる先生の素晴らしいところをしっかり見て、その素晴らしさを科学的に分析し評価できるよう大学院に進学して研究してもらいたいと思います。大学院では自分の力に枠を設けず、やれば何でもできるんだという気持ちでがむしゃらに打ち込める研究課題を見つけてほしいものです。大学院を目指す皆さんならきっと、素晴らしい目標が見つかると信じています。

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