研究紹介

外国語学研究科 英米語学専攻 ロブ トーマス ニール教授 インタビュー

「多読学習のための教育プログラムを世界で初めて開発」

コンピュータを使った英語教育の夢

グローバル化の急速な展開の中で、実質的な世界共通言語である英語教育の一層の充実が教育現場に求められています。私はコンピュータとネット環境を使って、英語学習の上で大きな効果が認められている多読学習法のシステム化に世界で初めて成功しました。

語学教育の長年の懸案であった多読のカリキュラムは、京都産業大学だけでなく内外20カ国・地域の約100教育機関に無償で導入され、着実な成果を上げています。技術が大きく進展するネット環境に対応して、学生にとっても教員にとってもより使い勝手がよく、効果が目に見える改良を加えることで、英語の多読教育システムの一層の普及を図りたいと考えています。

言語を習得する上で、多くの文章(本)を読むのが効果的なことは広く認められています。読解力の向上はもちろんのこと、書く力・話す力・表現する力・聴く力の源泉である「基本的な言語能力」が養えるからです。このため様々な外国語教育の現場で「数多くの本を読むように」と指導されています。しかし、それをカリキュラムや試験の形で導入しているところはほとんどないのが実情です。

なぜでしょうか。理由の一つは、かつては多読教育のテキストとなる最適の書籍がなかったことが挙げられます。20年ほど前から学習者が必要な語彙力や文法力をグレードに合わせて選べる本がオックスフォード大学出版局やケンブリッジ大学出版局、ペンギン社などから相次いで出版されるようになり、この問題は徐々に解決されてきました。

もう一つ、大きな問題が残りました。それは多読学習がきちんと行われたかどうかを正確にチェックする方法がないという問題でした。

教員が宿題として多読を要求しても手軽な点検法はなく、学生のやる気や意欲に期待するだけでした。かといって、レポートや感想文を求める方法では教員や学生の負担が膨大となり、結局あきらめてしまうケースが多かったのです。読んだ証拠として学生がノートにレポートをまとめる形式は、リーディングの授業なのにほとんどの力をライティングに割かれてしまうという問題点がありました。

米国の大学と大学院で言語学を学んだ私は、1970年に初来日し、松下電器産業(現パナソニック)で日本人に対する英語教育に初めて従事しました。最初はアルバイトで海外に赴任する社員らを対象に社内研修の一環として英会話を教えたのです。

英会話教師となった私の夢は、コンピュータを使った効果的な英語教育でした。まだパソコンもインターネットもない時代ですから、コンピュータを使ったテキスト開発や試験の分析プログラムをつくるぐらいでした。1980年代初めに松下電器に勤めながら京都産業大学や同志社大学の教壇に立つことになった後も、コンピュータを使った英語教育は、私にとって大きなテーマの一つでした。その後1990年代に外国語の教育法として多読学習が広く認められるようになりました。日本では1993年にインターネットの商用が始まり、ネット環境が大きく進化する中で、私の夢は大きく膨らんでいきました。

読書結果をチェックできる独自システムを開発

ネット上で見られる多読学習のための教育プログラム

ネット上で見られる多読学習のための教育プログラム

私が注目したのは、アメリカのネイティブスピーカーのためのリーディングチェックプログラムでした。いくつかの設問に答えることで、学習者が本当に読んだかどうかをチェックするものでした。もう一つ、大きな力となったのはインターネット上に公開されているMoodle(ムードル)という授業用のソフトをつくるオープンソフトソースでした。私はその二つを活用することにしました。

既存のリーディングチェックプログラムは、1冊の本に対して10の設問しかなく、回答時間も無制限なために実際には読んでいなくても読んだように振る舞うことができる欠点がありました。そこで、私は1冊の本に対する設問を20〜40問用意してランダムに出題し、通常5分間の回答時間を設定し、数日おきにしか受験できないようにシステムを組み上げました。そのシステムを京都産業大学のMoodleの中に組み込み、インターネットを介して国内はもちろん、海外からも無償で利用できるようにしました。

このシステムを使えば、学生は「読んだ本に関するテスト」の記録を保存管理できます。また、学生はあらかじめ設定された自分のレベルに合った本のテストしか受けられませんが、読んだ本の数が一定の数に達すれば、自動的にレベルが一段階引き上げられることになります。

教員の側からみると、学生の学習状況を閲覧機能でつぶさに把握でき、クラスごとの進度チェックや問題の回答分析なども可能です。また、不正行為の検知機能も組み込まれています。

世界に広がる京産大発の教育システム

インタビュー風景

私が開発した多読学習のための教育プログラムは2008年にまず、英米語学科の学生たち約100人から利用が始まりました。1年間使ってみて効果が確認できたため、2009年からは全学約3000人共通の英語カリキュラムに導入されました。この結果、全体の6割の学生が1冊以上の本を読み、前年比で学生のリーディング能力が約20%上昇したことが確認されました。また、多読システムで本を読むことの面白さに目覚めた学生は、以後は自発的に本を読み進めることも分かりました。

多読学習のための教育プログラムは京都産業大学だけでなく、中国や韓国、台湾などアジアを中心に英米、スペイン、トルコ、モロッコ、オマーン、ドバイなど世界20カ国の大学、高校などの教育機関で使われています。

プログラムには様々な人たちの協力を得て、毎年、改良作業を積み重ねてきました。将来的には紙の本ではなく、データをダウンロードする電子ブック化で本の保管や費用の問題を解決することも想定しています。また、多読だけではなく、リスニングに関する同様のシステムを開発することなども予定しています。

このシステムをつくる上で、読んだかどうかを確認するための設問の制作が最大の課題でした。最初は私と英米語学科の教員でつくっていましたが、その後、出版社などの支援で世界中に30人ほどの協力者を得て、設問を作成する体制を整えました。こうした一連の活動では、私がJALT(全国語学教育学会)で会長、事務局長を務めた実績が生きました。

多読学習のための教育プログラムの機能を高めるためには、今後も様々な機関との共同研究が必要となります。ただ、いつまでもボランティア活動だけで支えていくのには限界があります。いずれは私の母校であるハワイ大学に本部を置き、私がWebマスターを務める多読基金(The Extensive Reading Foundation)の活動の一環としてやっていきたいと考えています。

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