研究紹介

外国語学研究科 英米語学専攻 ゴーベル ピーター バートレット教授 インタビュー

「日本人にはどのような英語教育が効果的か―応用言語学の視点から」

リーディング、リスニングのスキルを高めるRWL

私の専門領域である応用言語学、英語教育学は、英語が母国語でない学習者がどのように英語を習得するのか、またどのような学習者にはどのような英語教育が効果的なのかを研究する学問です。効果的な学習方法についてはRWL(聞きながら読む)学習法を授業で実践し、一定の成果を上げることができました。また、私が最近特に関心を持っているテーマは、学習者のモチベーションと学習へのICT(情報通信技術)の活用です。モチベーションを高めたり、ICTを有効に活用することで、より効果的に英語を学習することができるのです。

ここでは、大学院進学を目指す皆さんや大学院での学びに関心のある皆さんに対して、私の研究の取り組みや成果について報告したいと思います。

RWLは本学のトーマス・ロブ教授が進めておられる英語の多読学習をきっかけとして7年前から始まりました。多読学習は語彙レベル別に編集された小説などのグレーディッド・リーダーを大量に読むことで語学力を向上させる学習方法ですが、その多読学習を一歩進める形でRWLが生まれました。本学には多読学習用のグレーディッド・リーダーにCD付のものがありますので、それらを活用してリスニングの授業でRWLに取り組みました。

RWLの効果としては、次の2点が挙げられます。まず一つ目は、英文のより高度な理解が可能になり、より効果的な読み方を身につけることができる点です。日本では中学、高校時代に英語の長文を読む時、単語一つひとつの意味を日本語に置き替えながら読むことが多いため、読み進むスピードが遅くなります。これでは、英文全体の意味を十分に読み取ることができません。グレーディッド・リーダーのCDを聞きながら読むことで、学習者は英文全体のより高度な理解が可能になり、そのリーディング能力は大きく向上します。

2番目のポイントは、リスニングのスキルアップです。読みながらネイティブの発音を聞くことで、個々の単語だけでなく、文章全体のリズムやイントネーションについても学習することができます。初級レベルの学習者には音を聞き分けるスキルを上達させるのに役立ち、上級レベルの学習者には耳から入ってくる音情報と目で見る文字情報が一致することで、語認識の能力にさらに磨きをかける効果があることが明らかになっています。

3年前のカリキュラム編成替えで、残念ながらRWLの授業での取り組みはなくなりましたが、意欲の高い学生たちが自主的に学習を継続しています。私はリーディング、リスニングの両方に効果の高いRWLに、より多くの学生が取り組み、TOEFLやTOEICのスコアアップにもつなげてほしいと考えています。

日本の学生特有のものの考え方とモチベーション

インタビュー風景

次にモチベーションの問題です。誰でも何かをやった結果について、それがうまくいった場合にその理由を説明したり、うまくいかなかった場合に弁解することがあります。ゴルフのスコアが良くなかった時には「今日は風が強かった」とか「昨日遅くまで飲み過ぎた」と言い分けするでしょう。英語の学習でも同じことが起こります。このケースでは良い場合は問題ないのですが、学習がうまく進まない場合、間違った理由づけでは学習者のモチベーションが下がり、結果的に効果的な学習が難しくなります。

また、私が日本とタイ、マレーシアで実施した調査では、うまくいった場合の理由とうまくいかなかった場合の理由づけがアメリカでの調査報告と正反対の結果が出ました。アメリカでは、うまくいった場合自分の実力だといい、そうでない場合は人のせいにしたり、運が悪かったなど外的な要因に理由を求める傾向があります。日本やタイ、マレーシアでは、逆にうまくいけば誰かのおかげとか、運が良かったといい、うまくいかなければ自分が悪かったと反省する傾向が強いのです。また、能力(ability)と頑張り(effort)をアメリカ人はきちんと区別していますが、日本人にとってはその違いがあいまいなものになりがちです。

語学教育におけるモチベーションの研究は英米で始まりましたが、モチベーションに大きな影響を与える学習結果に対する受け止め方が日米では大きく異なるため、私は日本の学生に対する教え方を根本的に変えなければいけないと考えます。大切なのは学生たちの考え方を理解することです。具体的には英語学習がうまくいかない場合、自分が悪いというあいまいな理由づけでなく、学習法やテキスト、場合によっては先生の教え方などうまくいかない本当の原因は何かを明らかにすることです。そして、学生たちときちんと話し合って、英語学習がうまくいかない本当の理由を正しく理解させ、自分が悪いというモチベーションの下がる考え方を改めることが重要です。

原因は教える側にもあります。先生は毎日のように学生に教えているから学生のことはよく分かっていると思いがちです。でも、それは間違いです。学生たちの考え方に耳を傾け、教える側自身も変わる必要があります。学生たちのニーズを汲み取り、それを教育に反映する必要があります。理論だけでなく、教育の現場でそれを実践するべきなのです。私は学生たちの考え方や意見を聞いて、カリキュラムそのものを変えました。学生たちの考え方を理解しなければ、ちゃんとした英語教育はできないと考えるからです。

教育現場でもっと情報通信技術を活用したい

学生が制作したデジタル・ストーリーテリングを説明するゴーベル先生。

学生が制作したデジタル・ストーリーテリングを説明するゴーベル先生。

続いて、ICTと教育について考えてみたいと思います。ICTの教育現場への導入はアメリカがおそらく世界で一番進んでいます。いまの学生世代は「デジタルネイティブ」と呼ばれ、幼いころからパソコンやインターネットに親しんで、ICTの進展に合わせて成長した世代です。アメリカの大学では、パソコンは必要不可欠なツールであり、学生たちはほぼ一人一台自分のノートパソコンを持っています。また、この分野の研究や理論も進んでいます。

日本もICT先進国ですから、教育現場へのICTの導入が進んでいます。京都産業大学では、学生が共同利用できる2000台のパソコンを配置し、学内のどこでもWI-FI環境が整っています。また、学生のカリキュラム登録や成績の通知などもオンラインで行っています。私は最近ハワイ大学で在外研究をしましたが、デジタル環境は京都産業大学のほうがはるかに上だと実感しました。

ところが、調査をしてみて驚いたのですが、大学に自分のノートパソコンを持ち込んで、学習に活用している学生は意外に少ないのです。学生たちが主に使っているのはパソコンではなく、スマートフォンでした。また、先生も学生も伝統的な紙ベースのアナログな授業形態が好きで、この点ではアメリカやヨーロッパの大学とは大きなギャップがありました。他の日本の大学で調査をしていませんので、本学特有の現象なのかどうか、またその原因についても詳しくは分かりませんが、私は教育というものが日本では非常に保守的なものであるということが一つの理由だと考えています。

ICTを英語教育に活用するために、私は大学の異文化コミュニケーションの授業でデジタル・ストーリーテリングに取り組んでいます。パワーポイントやムービーメーカーなどのソフトを使って、海外旅行や留学で学生が体験したことを短い物語にして授業で発表してもらうのです。学生たちは4週間がかりでテーマを考え、物語を書き、グループ発表で物語を完成させて、写真や動画を使って自分自身でそれを表現します。

言語はすべて英語でパソコンを使って自分の体験に基づいた物語をつくり上げるので、学生たちにとっては英語でものを考え、それをICTを駆使して表現する絶好の機会です。また、教育現場にもっとICT導入を進める上でも大切な取り組みだと考えていますので、私自身のイングリッシュセミナーや演習の授業にもデジタル・ストーリーテリングを取り入れ始めています。

私は2000年から京都産業大学で教壇に立っていますが、立命館大学の常勤講師や制度化される前の京都市教育委員会のAET(英語指導助手)など英語の教育現場で様々な経験を積んでいます。大学で4年間勉強すればもう十分と考える人もいるかも知れませんが、私自身の経験からいえることは、大学院で学ぶことにより自分自身のものの考え方や視野が広がり、選択肢が増えるということです。皆さんもぜひ大学院で学んでほしいと思います。