研究紹介

外国語学研究科 中国語学専攻 関光世教授 インタビュー

「『使い手』の視点から、中国語教育法を考える」

キャリアを生かした研究の道を探して

私の研究テーマは「通訳・翻訳論及びその中国語教育への応用」ですが、大きく3つの分野に分けることができます。第一に、通訳トレーニングの大学における言語教育への応用、第二に翻訳と欧化語法、第三に中国語の音声教育です。通訳・翻訳者を養成することが目的ではありません。私の関心はどちらかと言えば中国語教育にあるのです。

私は大学卒業後、民間企業に就職し、その後中国語通訳者として、会議通訳や同時通訳を経験した後に研究者となりましたので、それまで実践してきた通訳トレーニング法を外国語学習法として捉え、大学教育の中でそれらを効果的に応用する具体的な方法論を模索することが、私のような経歴を持つ者にこそ可能な研究ではないかと考えました。

大学教育と通訳トレーニング

大学の授業に通訳トレーニングを導入しようとする場合、カリキュラムデザインにおいては、学生の語学力不足以外にも、未熟な背景知識、相対的に低いモチベーション、通訳トレーニングに関する知識と経験の不足、時間的な制約(1学期15回の授業)など多くの特殊な制約を考慮しなければなりません。一方で、一般的に、一定程度の語学力と知識がなければ、通訳トレーニングを行っても効果はないと言われています。従って大学教育における通訳教育科目の到達目標は、通訳技術の向上ではなく方法論の理解と習熟に置くべきです。

これまで学部生を対象とした通訳の理論と実践を教える科目で実施してきたのは、ニュース報道を利用したシャドーイング、ディクトグロス、サマライズ、リプロダクションなどのトレーニング法です。シャドーイングは言語処理速度の向上と自然なプロソディの習得に有効で、音声のみに集中して行うプロソディシャドーイング以外に、文字と意味を確認しながら行うコンテンツシャドーイングを採用することで、学生の理解度の向上にも役立ちます。サマライズ(内容のまとめ)練習では、理解に必要な予備知識を事前に与えることで、本来通訳者が有する「背景知識」を補い、リスニングの際に「背景知識」を「動員する」、つまり予備知識の活用を実感することが可能になります。リプロダクション練習は短文の反復練習ですが、通訳練習に発展させることが可能で、学生のレベルに合わせて負荷を調整することが可能だというメリットがあります。以上のように、これまでの授業の経験と学生への調査に基づいて、さまざまな知見を蓄積してきました。つまり、一般的な通訳トレーニングを、必要に応じてカスタマイズすることによって、トレーニング方法に習熟すると同時に、外国語の学習効果を高めることが可能になるのです。

授業の経験と学生に対する調査から、通訳・翻訳の理論と実践を教える科目では、一般的な「飽きさせない」に代えて「諦めさせない」教室活動の工夫が必要で、さらに成績評価においては、学生の習熟度に焦点を当てたきめ細やかな評価が求められることがわかっています。学生のレベルにあった通訳トレーニング入門の教材作成が急務です。またこれらトレーニングの成果を客観的に評価する方法も確立しなければなりません。

徐志摩の翻訳作品を通して「欧化語法現象」の一端を解明

徐志摩全集

二番目の柱は「翻訳と欧化語法」です。清末から民国初期に始まった英語との接触で、中国語の書記言語には新しい用法が見られるようになりました。これを「欧化語法」と呼びます。1920年代に活躍した詩人・徐志摩は、後の言語学者・王力から「欧化の程度が比較的高い」と評され、欧化語法の定着期における代表的作家と考えられてきました。私は、この評価の妥当性を再検討するため、彼の20万字に及ぶ翻訳作品を対象に、有標の受け身構文(“被”構文)、接尾辞“们”、接続詞“和”など複数の欧化現象について例文を収集・整理し、これらの欧化現象が観察された時期・使用頻度及び用法上の特徴の三点から考察しました。なぜ、詩や散文ではなく翻訳を選んだのかというと、翻訳が英語の影響を最もストレートに受けているからです。

調査の結果、王力の徐志摩に対する評価は十分な分析と論証を経たものとは言えず、客観性を欠き、偏りがあることが指摘できました。例えば徐志摩の“被”構文に見られる欧化との関連は、以下のようにまとめることができます。

一、徐志摩の“被”構文は「消極」義が主で、旧白話とほぼ同様の状態であった。「非消極」義の“被”構文も見られるが、欧化による変化の兆しと言える程度である。

二、“被”と“叫、让、给”の選択について、徐志摩は文体(書面語と口語)による選択の基準が一部で定着しておらず、迷いのある状態であった。

三、無生物主語の“被”構文の出現頻度は18%に達し、旧白話小説(《西游记》8%、《红楼梦》9%)の約2倍に達した。これは「近代において西洋語との接触以降に発展し始めたのは、主に非人物生物名詞を表面上の主語とする受身文である。」という説を支える新たな左証となる。

四、五四以降、非処置性動詞が述語に立つ“被”構文と未然の事態を表す“被”構文の使用頻度が向上したという主張を支えるような状況は、徐志摩の文体においては確認できなかった。

以上からわかるように、徐志摩は決して全ての欧化現象について、その程度が突出して高かったわけではなかったのです。さらに、上の研究を通して、未発見だった新しい欧化例を収集することができました。これらは今後の欧化研究において貴重な資料となることが期待できます。

徐志摩が「欧化の程度が高い」作家と考えられていたにもかかわらず、その後の欧化研究において顧みられることが少なかったのは、なぜなのでしょうか。興味は尽きません。

徐志摩の文体を精査し、そこに見られる欧化の実像をさらに詳細に明らかにできれば、20世紀初頭の中国語と英語の接触が中国語にもたらした影響の解明につながると考えています。

中国語の音声教育

通訳者として中国語を話すなら、たとえ日本人であってもその中国語は商品として遜色のないものでなければなりません。そして中国語の第一印象は発音で決まります。ですから、発音はとても大事です。そして成人の学習者が発音を矯正するには、私の尊敬する教授の著書のタイトルにある通り「アタマで知り、カラダで覚える」が王道です。

アタマとは即ち理論、カラダとは即ち実践です。私は中級以上の学習者の発音矯正のための教材開発にも取り組んでいます。

大学院を目指す皆さんへ

インタビュー風景

大学院での研究は、一行の結論を書くために膨大な調査や検証作業が必要なこともあり、孤独な戦いが続くかもしれません。しかし通訳や中国語教育の分野では、被験者、学生との交流も重要です。仲間や後輩との議論や会話の中にも多くのヒントが隠れていると考え、積極的にコミュニケーションを図ってほしいと思います。

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