研究紹介

経済学研究科 経済学専攻 八塩裕之教授 インタビュー

「消費税や所得税のあり方を考える」

なぜ、増税が議論されねばならないのか

2012年には民主・自民・公明の三党合意に基づき、社会保障と税の一体改革法案が成立し、(このインタビュー時に最終判断はまだ出ていないものの)消費税率が現行の5%から今後、引き上げられる見通しとなりました。増税はいやなことですが、将来見通しなどを考えると、今後、なにがしかの増税が行われることはやむを得ないと考えます。私はおもに、消費税や所得税・個人住民税といった家計の税制について研究してきましたが、その立場から、この問題を考えてみたいと思います。

我が国政府(地方も含む)は現在、GDP(国内総生産)の2倍超に相当する巨額の債務残高を抱えていますが、より重要な問題は、今後の高齢化の一層の進展です。日本は今後世界でも稀にみる超高齢化社会を迎え、2050年には全人口の4割が65歳以上になるとされます。この結果、年金や医療などの社会保障歳出が大きく膨らみ、それを賄うのに必要な税や保険料負担は、将来的に今の2倍を大きく超えるともいわれています。

一方で、日本の現在の税負担率は、ヨーロッパなどと比べてもかなり低く抑えられています。長い間、「増税は経済が上向くのを待ってから」と言い続けてきたわけですが、その間にも高齢化は着々と進みました。将来、さらに高齢化が進んだ段階での急激な増税を避けるために、今のうちから少しずつ負担を増やしていくべきだ、というのが私の考えです。増税は足元の経済の足を引っ張るかもしれませんが、高い税負担率のまま良好な経済成長率を保つ国も多い中で、むしろ少々の増税をしてもダメージを受けにくい頑強な経済構造への転換を同時に進めることが必要だと思います。また、新聞などでもたびたび報道される無駄使いの問題や、社会保障費のカットなども非常に重要です。しかし税制の問題に限れば、増税はやむを得ないと考えています。

消費税や所得税の改革はどうあるべきか

本棚

私は大学卒業後、一般企業勤めを経て、研究者の道に進みました。税制の研究を志したきっかけは、学生時代に消費税が初めて導入され、新聞などで連日、報道されており強い興味を持ったのがきっかけです。当時のマスコミの論調は、消費税の導入に非常に批判的だったのを覚えています。そこでいろいろと研究を進めたところ、私自身もこの問題への理解を深めていくようになりました。以下で私自身の研究にも触れながら、この点を述べたいと思います。

消費税のメリットは、国民から広く薄く財源を集めることができることです。実際、その税率は5%(地方税である地方消費税1%を除けば税率は4%)にもかかわらず、最高税率が40%にも及ぶ所得税に匹敵する税収となっています。また、製造業を中心とした企業の海外移転が進む中で、法人税に多くを頼ることができないのも事実です。実際、ヨーロッパなどでは消費税(付加価値税)率が非常に高くなっていますし、逆に国税としての消費税がないアメリカでは、高齢化で増大を続ける歳出をどのように賄うかが問題となっています(少なくともアメリカ税制学会の議論では、「消費税を導入すべきだ」という声が一般的です)。先にも述べたように、日本は今後、高齢化社会を迎え多額の財源を必要としますが、そのために消費税は必要不可欠となっているといっても過言ではないと考えます。

ただ、消費税の問題点としてよく言われるのが、「所得に対する負担の逆進性」、すなわち消費税は物の値段を一律的に引き上げるため、困窮する世帯へのダメージが非常に大きいことです。この対処法としてよく主張されるのが、いわゆる「食料品等への軽減税率」導入であり、ヨーロッパで広く導入されて政治的な人気も高くなっています。しかし実際には、「軽減税率」に対しいくつかの問題も指摘されています。そのうち、最も重要なことの一つが、その負担軽減効果が困窮世帯に絞られない点です。すなわち、食料品を一番多く買い込むのは、実際には富裕な人たちなので、軽減税率の負担軽減効果はそうした人たちに大きく及んでしまうことです。ヨーロッパの有名な研究もこの問題を指摘していますし、近年の私自身の研究でも、その実態をデータで具体的に確認することができました。

私は「所得に対する負担の逆進性」の問題は、消費税だけではなく所得税との一体的な改革で改善させるべきだと考えています。ここで、もう一つの税目である所得税の改革が重要となります。日本の所得税制度は、所得再分配機能が非常に弱いことがOECDの国際比較などで示されています。実際、私の研究でも、日本の所得税・住民税・社会保険料負担を高福祉で有名な北欧のスウェーデン(少し極端な例かもしれませんが)などと比較すると、日本では所得の高い層の負担が軽減されている一方で、所得の低い層の負担が十分に軽減されていない事実が示されました。

もう一つの面白いことは、日本では所得税の最高税率がかなり高いことです。しかし、高い最高税率にもかかわらず、所得の高い層の負担が軽減されているのです。所得税制度の構造は、最高税率だけではなく、所得控除などの様々な要素で決まりますが、日本の再分配機能を弱めているのは、税率構造ではなく、そうした所得控除であることがわかってきました。例えば諸外国では、所得控除のかわりに「給付付き税額控除」という制度を活用し、税制で低所得者への給付を行いつつ、その再分配機能を高めています。実際、日本でもこうした方向の改革を行うと、所得の高い層から低い層への再分配が行われますが、これを消費税の税率引上げと組み合わせることで、先に述べた「逆進性」の問題も緩和できるかもしれません。また、先に述べたように、日本では(少なくとも諸外国と比べると)所得の高い層の負担が比較的軽減されており、長期的な財源不足の状況を考えると、そうした人たちの税負担を少し増やすことは、避けられないとも考えています。ただし、「給付付き税額控除」を日本で行う場合は、税務執行上の問題が数多く指摘されており、そのための体制整備が大きな課題となっています。

若者にこそ考えてほしい税制改革

インタビュー風景

これ以外にも、税制をめぐる様々な研究テーマがあります。グローバル化が進む中で税制が企業行動にどのような影響を与えているのかや、地方分権時代の中での地方税制の在り方などは、多くの研究者が取り組んでいる課題です。もちろん、研究成果を得るのは簡単ではないのですが、それでも、海外の研究で言われているような事実がデータできちんと確認できたときや、政策的なインプリケーションが明確である結果を得たときは、大きな達成感を得ることができます。

税制改革は我が国の将来をどうするかという問題であり、将来の日本を担う若い人たちにぜひとも考えてもらいたい問題です。最終的には政治の決断ですが、政治家を選ぶのは我々有権者です。しかし、少子高齢化と若者の政治離れによって、若者の声が政治に反映されにくくなっているといわれています。ぜひ、若い人たちには、身の回りで起きている様々なこと(これは税制だけに限りません)について、もっと関心を持ってほしいと思います。

とくに大学院に進む人たちには、政治やメディアに振り回されることなく、自分の頭でよく考えながらデータを分析したり、理論を構築するといった作業を進めてほしいと思います。その地道な作業を踏まえてこそ、いろいろな社会・経済問題に対する自分なりの考えを構築することができます。経済学はそのための分析ツールを提供しています。

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