研究紹介

経済学研究科 経済学専攻 山田勝裕教授 インタビュー

「経済調整メカニズムの研究  離散と連続の問題の一例として」

はじめに

図1

図1

まず、簡単な例題から考えてもらいましょう。経済学を学んだ人にとってはおなじみの需要と供給の図で、右下がりの需要曲線、右上がりの供給曲線があり、価格はその交点で決定されることを示すものです(図1参照)。本来なら数学では、横軸に価格、縦軸に数量をとるのが慣例ですが、ここは数学者マーシャルの伝統に従いましょう。超過需要であれば価格は上昇し、超過供給であれば価格は下落しますから、需要と供給が一致するところで価格が決定され、この価格が市場価格になるわけです。ほとんどの学生諸氏は何の疑いもなくこの事実を受け入れ、当然のことと考えています。実際、1950年代にアローやドブリュー(資料1)らによって、いくつかの仮定の下でn次元の場合で一般均衡解の存在、安定性が証明されています。

しかしながら、これは連続関数の場合で、より現実的に認識できる離散的な調整を考えると、話はこんなに簡単ではありません。均衡価格が存在するどころではなく、カオス(chaos)ですらあることを示すことが出来ます。実際、小生が研究してきたのはこういう事柄なのです。まずはどうしてこういう着想を得たのかからお話ししましょう。

一本の論文

小生が大学院生になって研究を始めた1970年代、経済学会では不均衡分析が一世を風靡していました。その嚆矢となった一つがクラウアーの論文「ケインジアン反革命(1965)」(資料2)です。要約すれば、需給は均衡しなくてもショートサイドルールで再決定され、それが実現値となって認識されるという仮説です。そしてこの認識の下でモデル化すれば、ケインズ経済学の新たなアプローチになるというものです。プライスメカニズムではなく、数量調整のモデルです。この集大成がバーロー・グロスマンの著作『貨幣、雇用およびインフレーション(1976)』です。失業(労働市場の不均衡)を伴ったモデルなわけです。

従来から、新古典派経済学とケインズ経済学はどういう関係になっているのかが問題になっていました。完全雇用に至るまではケインズ経済学で、完全雇用に至るや新古典派経済学の世界になるというサムエルソン『経済学』(第7版)の新古典派総合の考え方が出されていましたが、小生が大学に入って初めて買ったサムエルソン『経済学』(第8版)からはこの考え方は削除されていました。また、ケインズ経済学は固定価格の下での議論と言ってしまえば、ケインズの理論は一般理論ではなくなり、新古典派の特殊理論になってしまいます。ケインズ『雇用、利子および貨幣の一般理論(1936)』の経済学史上での位置づけが待望されていたわけです。

そこで小生は準均衡の概念を使用して「プライスメカニズムをもつ不均衡モデル(1979)」(資料3)を書き、理論計量経済学会(1979.6.30)で報告しました。またこの論文は京都大学で行われた森嶋通夫セミナー(1979.7.12)でも報告する機会を得ました。森嶋先生からのコメントは、「ケースわけでもいいのだけれど、直観的にわかりやすくするためにphase diagramを書いてみなさい。私はマランボーの本『失業再考(1977)』(資料4)からまさにそれを学びました。あの本は小さな本だけれど、計算がややこしくておそらく世界で読んだのは5・6人でしょう」というものでした。実は小生、その本はすでに読んでいて、ややこしい計算もすべてやっていて、計算に間違いがあることを発見して、その前年の暮れに著者のマランボーに手紙を書いていたのでした。返事の手紙もマランボー本人からもらっていて、結論を変えずに修正できそうだという内容でした。森嶋先生のコメントはうれしかったことは言うまでもなく、一気に森嶋ファンになってしまいました。森嶋著『ワルラスの経済学(1977)』を読んで文通し、ミスプリの箇所を指摘したのもその影響です。

パソコン導入

1980年代に入って、パーソナルコンピューターが研究者の世界にも導入されてきました。もちろん最初はプログラマブルな計算機でしたが、プログラムを覚えるには十分でした。アメリカのコロラド大学数学部に在外研究の機会を得、1年間ジョン・メイビー教授の下でQ解可能性の研究をしましたが、その頃にはPCを使いこなせるようになっていました。アメリカの大学院生がPCの作図でお花畑のような収束半径の論文を書いているのを見て驚いたものです。その頃からカオスの話を聞いていましたが、実際に研究してみる気になったのは1990年代に入って学生を奇しくもカリフォルニア大学のサンタクルーズ校へ英語研修に引率してからです。グリック『カオス−新しい科学をつくる(1987)』(資料5)を知らされたわけです。

ちょうどその頃、『ケインズ革命(1947)』で有名なノーベル賞経済学者ローレンス・クライン(資料6)が京都で研究会をするというので是非出席しなさいと勧めていただいたので、出席し質問する機会を得ました。「先生のモデルは均衡モデルですが、ケインズの『一般理論』は不均衡モデルとお考えになりますか?」「不均衡と考えてもかまいませんが、それは考え方であって、私みたいに均衡で考えてもよいわけです」。均衡分析、不均衡分析と区別して考えていたのは吹っ切れました。都合よく解釈すれば、価格調整であったとしても予定調和の均衡でなくてもよいわけです。

図2

図2

そこで書いた論文が「離散的価格調整とカオス−カオス検出プログラム(1993)」(資料7)です。この論文は理論経済計量学会(1995.6.3)で報告(資料8)しました。右下がりの需要曲線、右上がりの供給曲線であっても調整速度が大きくなると均衡解に収束せず、カオスになることがあるというものです(図2参照)。この図の作成には、当時のパソコンですから1日がかりでした。

報告のコメンターは京都大学の西村和雄先生で、同種の報告を天文学者のサアリが1985年のエコノメトリカの論文でしているとのことでした。その反論が「離散的価格調整とストレンジ・アトラクター(1996)」(資料9)です。

次に興味をもったのは正真正銘のカオスならばスペクトル表現ではどんなふうに現れるのかでした。1997年の夏休みはスペクトル分析のためのプログラム作りに没頭しました。スペクトル分析というのは簡単に言うと、どのような波動でも基本周波の合成で表現できるというものです。詳しくは小生のサイトのYSCPマニュアル・時系列分析(http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~yamadaka/data/yscpmanual.htm)をご覧いただくことにして、論文「離散的価格調整と時系列分析−カオスのスペクトル(1998)」(資料10)の結果は図3のとおりです。専門書によれば、十分に混ざっていないカオスでnon-mixingのケースと呼ばれるそうです。

図3

図3

小生のこれ以後の研究は、1990年代の終わり頃に日本人口学会に入会したこともあって、人口と経済の関わりが研究の中心になってきました。手始めは、京都市との受託研究で京都市の区別人口ピラミッドを作成し、その区の特徴を明らかにしました。東山区の特異な形状は今でも忘れられません。また、人口ピラミッドの情報から今後の人口の推移を予測することが出来ますが、年金制度を維持するには合計特殊出生率(TFR)は少なくともいくらでなければならないかなどを大学院生と考えたこともあります。

最後に、2014年の日本の人口ピラミッド分析と小生が推計した2050年の日本の人口予測を提示することにします。

2014年 日本の人口ピラミッド分析 2050年 日本の人口予測

2014年 日本の人口ピラミッド分析

2050年 日本の人口予測

資料

資料1:大学院生の時の愛読書。書き込みびっしり… 資料2:英国マクミラン社の許可を得て翻訳 資料3: 資料4:精読したマランボー『失業再考(第1版)』第2版の序文に小生の名前が出た。

資料1:大学院生の時の愛読書。書き込みびっしり…

資料2:英国マクミラン社の許可を得て翻訳

資料3:

資料4:精読したマランボー
『失業再考(第1版)』
第2版の序文に小生の名前が出た。

資料5:日本語の翻訳も新潮文庫から出版。business cycle を「ビジネス周期論」と訳しているが,景気循環論が正しい! 資料6:クライン教授からもらった美しい名刺 資料7:

資料5:日本語の翻訳も新潮文庫から出版。business cycleを「ビジネス周期論」と訳しているが、景気循環論が正しい!

資料6:クライン教授からもらった美しい名刺

資料7:

資料8:学会発表風景(福岡大学1995.6.3) 資料9: 資料10:

資料8:学会発表風景(福岡大学1995.6.3)

資料9:

資料10:

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