犯罪者・非行少年の再犯・再非行のない社会を目指すには?—「おかえり」と迎え入れられる社会の実現へ—

1.はじめに

皆さんは犯罪や非行を犯した人たちへの「支援」という言葉を聞いた時、どのように思われるでしょうか?
「罪もない善良な人に大きな迷惑を掛けたり、被害を与えたのだからその償いとして厳罰に処せられるのは当然」と考える人も多いと思います。
もちろん、国の秩序と人々の安全・安心を確保するために犯罪者・非行少年に適切な刑罰や保護処分を与えることは必要です。
しかし、「処罰」すればそれで終わりでよいのでしょうか?
より安心・安全な社会を作っていく上では、一度過ちを犯した人を永久的に社会から排除するのではなく、再び社会に迎え入れた上で本人のみならず共に社会生活を送る我々自身が支えていってあげることで再犯・再非行を防止していくということが実はより重要な事なのです。

2.刑務所出所者の再犯状況

さて、わが国の犯罪状況を見ると、掲載図のとおり、犯罪者全体のうち、再犯者の占める割合は約3割ほどですが、その3割の再犯者が実は犯罪件数全体の約6割を行っている実情が浮かび上がってきます。

つまり、この再犯者群が我が国の犯罪発生の大きな要因であり、良好な治安対策を執っていく上で、再犯をいかに防いでいくか、言葉を換えて言うと、どのようにすれば過ちを犯した人が立ち直っていけるかという事を社会全体で真剣に考えていくことが、私たちが安全で安心した生活を今後送っていけるかということに直結していくのです。
それでは何が再犯の要因となっているかというと、同じくデータによれば、刑務所出所後に適切な就労につけたかどうかが再犯に陥るかどうかの分かれ目になっていることが分かります。

また、出所後、家族やこれまでの自分の支援者等との人間関係が切れてしまい社会的に孤立することが再犯の大きな要因となっていることも明らかです。

ということは再犯を防止する上で、社会に戻ってきた人たちに立ち直りのための適切な「居場所」と「出番」を作ってあげられるかどうかがポイントいうことになります。

3.再犯防止推進法の制定

そこで、平成28年に「再犯の防止等の推進に関する法律(再犯防止推進法)」が制定され、「居場所」と「出番」作りのために矯正施設(刑務所や少年院)と、矯正施設から出てきたことを了解の上で積極的に雇用し、その人たちの心情を理解することで社会復帰に協力してもらう事業主さんである「協力雇用主」との連携の強化や国からの様々な支援に基づく就労支援や福祉関係機関との連携等、今後、重点的に進めていく事項が規定されるとともに、民間団体や一般市民も再犯防止のための種々の協力を行う必要があることが謳われています。

つまり、これまでは、ややもすると刑事司法関係機関のみに委ねられていた「犯罪者・非行少年の社会復帰・立ち直り支援」をこの法律の制定で「オールジャパン」で推進していくことになり、「誰一人取り残さない社会の実現-No ONE LEFT BEHIND-(「再犯防止推進計画」の基本方針)」のためにどうすればよいかを我々一般市民も当事者として考えていかなければならなくなったということです。

4.犯罪被害者支援と加害者の社会復帰支援

このように犯罪・非行を犯した人たち(加害者)の社会復帰のための支援は極めて重要なのですが、一方で「被害者の事を考えれば、加害者を支援するというのはどうなんだ!」、「加害者支援よりまず被害者支援だろ!」という声もあります。
筆者は前職が少年院長でしたが、ある少年院の院長の時、少年院での教育活動を正しく知ってもらおうと、地元住民対象の見学会を実施した時の女子高生のアンケートに「服部院長さん、あなたは犯罪者のために社会での『居場所』と『出番』を作らなければならない』と言われましたが、それなら殺された人の『居場所』と『出番』はどうやって作ってあげるんですか!」と書かれた事があります。
これが一般の方の「健全な法意識」だと思いますし、もちろん被害者支援は大切な事であり、それを充実させていくことは「正義」です。
そして、加害者の立ち直り支援を行っていくことも重要なことであり、これも「正義」で決して「被害者支援という正義」に反する「悪」ではありません。
「被害者支援」と「加害者の立ち直り支援」の両方が存在することが健全で成熟した社会のありようであるはずです。

5.終わりに

ところで本学が位置する京都は日本文化の中心地であり、茶道も盛んな所ですが、茶道の精神を表す言葉に「和敬清(静)寂(わけいせいじゃく)」というのがあります。
この写真に写っている掛け軸の字がそうですが、茶道では主人と客との両方が互いの心を和らげて慎み敬いながら、茶室の雰囲気を清く静かに保つことが大切であることを表すものです。

これまでの生き辛さによって罪を一旦は犯した人が戻ってくる社会において、立ち直りのために自ら努力する人と、その人たちと向き合って支援を行う人たちの情景がこの茶道の心得のようであって、「分断と排除」の社会ではなく「やり直せることが当然」の社会であってほしいと願います。

 

服部 達也 教授

矯正社会学、少年法


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