平成30年度 学部授業・カリキュラム改善に向けた「年間報告書」

1.「学習成果実感調査」についての分析結果

平成30年度は情報理工学部の新設に伴い、コンピュータ理工学部で1年次開講であった専門科目が情報理工学部での開講科目として登録が行われて学習成果実感調査が実施された。当該科目ではコンピュータ理工学部の再履修生も含まれるが、学部の区別なく、情報理工学部開講科目として一括して統計が行われている。今後、情報理工学部の完成年度までは、一部のコンピュータ理工学部開講科目の廃止および情報理工学部開講科目の新規開講が年次進行で行われるため、前年度との比較は必ずしも適切でない状況が継続することに留意しておく必要がある。

コンピュータ理工学部開講科目(秋学期)

学習成果実感調査は、対象科目数31科目(全履修者数2,360名)のうち31科目に対して実施(実施率:100%)した。また回答者数は1,096名であり、回答率は46.44%であった。なお、平成29年度は対象科目49科目に対して47科目の実施率95.92%であり、回答率は54.42%であった。年々、回答率の低下が続いていたため、履修登録を行ったが授業に出席しない勉学意欲の低い学生の割合の増加が問題となっていた。しかし、今年度の大幅な回答率の低下は、対象科目から出席率の高い1年次開講科目(大部分は必修科目)が除外されたことが原因であると考える。実際、後述するように情報理工学部開講科目での回答率は61.07%という高い数値であった。これらの統計は、開講年次、必修・選択の違いなどを考慮せず、単純にすべての開講科目を一括して数値を算出することにより、多くの重要な特徴が見えなくなっている問題点を指摘している。
全科目における出席回数に関して、79%の学生が出席率80%以上であると回答している(昨年度87%)。履修に関してシラバスを確認したかどうかに関する質問に対しては、86%の学生が確認したと回答している(昨年度80%)。昨年度と比べて数値に若干の変動が存在するが、対象科目が異なるため、この変化から傾向を判断することは適切では無い。一昨年、昨年と連続して回収率の低下と出席率の上昇の傾向が生じていたことから、履修登録を行った学生の内、継続して授業に参加する集団と参加しない集団の二極化が進行していると考えた。学習成果実感調査が実施された学期後半に授業に参加している可能性が高い前者の集団のみが統計の対象となると考えると、出席率およびシラバス確認率が高い理由は説明できるが、履修生全体の傾向を反映しているわけでは無いので注意が必要である。今年度の回収率の大幅な低下は対象科目の変化が主たる要因であるため、履修生の2極化が今年度も継続しているのかどうかの判断は難しい。

情報理工学部開講科目(秋学期)

学習成果実感調査は、対象科目数19科目(全履修者数1,441名)のうち18科目に対して実施(実施率:94.74%)した。また回答者数は880名であり、回答率は61.07%であった。全科目における出席回数に関して、84%の学生が出席率80%以上であると回答している(コンピュータ理工学部開講科目では79%)。履修に関してシラバスを確認したかどうかに関する質問に対しては、77%の学生が確認したと回答している(コンピュータ理工学部開講科目では86%)。情報理工学部開講科目はコンピュータ理工学部開講科目と比べて、回答率は高いが、シラバスの確認の割合は低いことから、1年次においてはシラバスを確認する勉学意識の高い学生とシラバスを確認しない勉学意識の低い学生が未だ混在しており、後者の集団は必修科目にはとりあえず出席しているものと考えられる。これらの勉学意識の低い学生は2年次以降の選択科目への出席率の低い集団の予備軍である可能性が高いと予想され、初年次での意識改革が必要と思われる。また、春学期の学習成果実感調査では回収率は79.88%、出席率80%以上の学生が93%であったが、いずれの数字も秋学期では大幅に減少している。これは、春学期には潜在的に勉学意識の低い学生であっても出席をしていたが、秋学期になって実際にドロップアウトしたと考えられ、すでに学部教育において深刻な問題が進行していると考える。今年度の統計は新学部創設という特殊事情から1年次生のみが対象となるため、1年次春学期での授業への動機づけが有効に行われていないことが顕在化した。初年次教育の改善への対応が急務であると判断する。今後、新学部の年次進行に伴い、異なる年次に渡り数値の平均化が行われていくと、年次による詳細な傾向が把握できなくなるという問題が生じる。学習成果実感調査の集計においては、学部から分析区分が指定できるため、今後は1年次開講科目全体に区分を指定することで1年次生の学習状況の把握を継続して行く計画である。

2.「公開授業&ワークショップ」についての報告

過去3年間に渡って1、2年次開講の必修科目(プログラミング演習、学生実験、基礎数学)の公開授業を行い、これらの科目における現状での問題点と改善策の検討をワークショップで行って来た。今年度は情報理工学部への移行期間中であるため、1、2年次開講の必修科目に関しては過渡的な状況であり、秋学期の公開授業は見送ることにした。来年度以降は、情報理工学部の教育システムの検討を中心として学部授業・カリキュラムの改善をはかっていく予定である。

参加人数

  1. 「公開授業」:春学期:数名程度、秋学期:開催せず
    春学期は「微分積分Ⅰ」(習熟度別3クラス 担当教員:瀬川先生、神先生、中川先生)の公開授業を7月5日(木)に予定していたが、大雨による全学休講のため翌週の7月12日(木)に延期して実施した。当日は中川先生の出張の為に休講となり、瀬川先生、神先生のクラスのみの公開授業となった。この混乱が一因と考えられるが、瀬川先生の授業は参加教員4名、神先生は2名。
  2. 「ワークショップ」:春学期:7月11日(水)教員18名、教育支援研究開発センター事務員オブザーバー1名参加
    秋学期:12月5日(水)参加教員数20名

ワークショップでの意見交換内容

春学期、秋学期共にワークショップでの議論の内容は議事録としてまとめ、全教員で内容確認、承認を行い、資料として共有・保管している。以下には議論の項目と概要のみの記載に留める。

春学期

1:習熟度別クラスの実施および必修化が外れた基礎数学科目の実施状況の把握

  • 新学部生の履修姿勢に関して。選択必修を外した事での履修姿勢の変化。
  • 習熟度別クラスでの現状、問題点、改善策など「微分積分Ⅰ」。
  • 基礎数学を修得せず専門科目の履修へと進む新学部生により派生する問題の予測
    「微分積分Ⅰ」の担当教員の瀬川先生より習熟度別クラスの現状報告。
    「線形代数Ⅰ」の担当教員の赤岩先生より出席者数の推移などの報告。

現在のところ、必修を外した事による出席率の低下などは見られない。今後は不合格者の再履修状況などを継続調査する必要がある。
情報理工学部での唯一の必修基礎数学科目となった「コンピュータのための数学」の担当教員の小林先生より現状報告。

2:「コンピュータ理工学実験A・B」の今後に関して

  • 現状の運用方法の説明
  • 担当教員の確保の問題

今年度末で担当者2名が退職され、来年度は担当者が不足する。現在のところ後任人事は認められていないため、現有スタッフの新規担当または非常勤講師の雇用で対応する必要がある。現有スタッフはすでにオーバーロード気味であるため、新規担当者の調整は学部スタッフ全員の授業負担バランスを十分に配慮する必要がある。現在3週で完了する実験テーマと6週で完了するテーマが混在しているが、来年度からはすべて3週で完結するテーマで統一する方向での調整が話し合われた。
コンピュータ理工学実験A・Bでレポートが提出できない学生が1割程度存在する。勉学に大きな支障がある学生に関して、コンピュータ理工学実験A・Bの担当者と基礎プログラミングⅠの担当者が現状報告を行った。

3:情報理工学部新入生の傾向把握と対策検討(情報共有)

  • コース選択、コース要件科目の履修に関して、想定される問題の把握

時間切れとなり、議論できず。情報理工学部での学生のコース配属に関して、質疑が行われる。

秋学期

1:学生実験の今後に関して(実験テーマ、担当者に関して確認)
a)担当スタッフ2名の退職に伴う、新たな担当者の調整
b)3週テーマと7週テーマの存在による、履修テーマの不統一への対応
c)実験の目的、課題レポートの評価の最低限の統一

  • 来年度以降の学生実験の運用に関して(今年度世話人の赤崎先生からの説明)。
  • 来年度世話人の蚊野先生からの連絡事項。

実験テーマとコース制との関連、学生実験の教育目標に関して意見交換を行った。実験担当者以外の教員の意見を聞く事が出来た事は、学部全体のカリキュラムでの位置づけを確認するためには有効であった。多様な意見が出されたが、個々のテーマおよび教育方針の多様性と学生実験の教育目的の一貫性をどのように両立させるのかは今後も検討して行く必要がある。

2:障がい学生への対応に関して(学部としての対応の可能性)

近年、障がい学生への対応が社会問題となっており、文部科学省の指導に従って、大学では2017年5月1日付で「障がいを理由とする差別の解消の推進に関する京都産業大学の教職員対応ガイドライン」を制定した。身体障がい学生に対しての対応は比較的明確であるが、発達障がい学生に対しての対応は難しい状況である。大学の現行の対応では、障がい学生に関する情報は学生が履修する科目の担当教員にのみに提供されており、他の教員への情報提供や学部での対応は禁止されていると理解する。軽度な発達障がいであれば個別の担当教員の対応で済むケースが多いが、障がいの程度が重く、担当教員個人では合理的配慮の検討が難しい場合が予想される。自分が担当する科目以外にも学部カリキュラム全体の履修において困難が予想される場合でも、学部全体での対応が出来ない事から、学生への対応が遅れ、留年が確定してから顕在化するという恐れがある。履修において大きな困難が予想される学生に対して、早期からの学部全体での対応というものが可能であるのかどうかに関して意見交換を行った。

  • 伊藤がガイドラインの現状を以下の資料に基づき、説明した。
    「障がいを理由とする差別の解消の推進に関する京都産業大学の教職員対応ガイドライン」
    「障がいを理由とする差別の解消の推進に関する京都産業大学の教職員対応ガイドラインにおける留意事項」(大学のWEBページの障がい学生教育支援センターのページにリンクされている。)
  • 非常にデリケートな問題であるため、改善策とそれが引き起こす可能性のある問題点に関して、学部独自に案を検討、作成して、教授会から障がい学生教育支援センターに提案し、運営委員会に上げてもらうことを行っていくべきである。学部での学部長、障がい学生教育支援センター運営委員、カリキュラム委員会等での継続した検討を行う方針を共有した。

3. 総括

(1)1と2において確認された、本学部の授業・カリキュラムの長所

本学部の授業・カリキュラムの長所は、情報理工学において基盤となるプログラミング能力を身につけるために、グレード制と少人数制を導入していている点にある。プログラミングは数学と同様に積み上げ型の学問であるため、基本的なことが理解できていないと、より発展的な内容についてのプログラミングをすることができない。そのため、「基礎プログラミング演習Ⅰ」の内容をしっかり理解した上で、「基礎プログラミング演習Ⅱ」を履修するというグレード制は、プログラミング能力の習得に有効である。また、プログラミングの習得には、プログラミングを理解している教員やTAに気軽に質問できる環境が必須であり、少人数化により本学部はそれを実現している。
「コンピュータ理工学実験A・B」は学部生全員が1年間に渡り、多様な実験テーマを回り、自分が行った作業内容に関して第三者に説明するためのレポートの作成スキルの向上を目指している。目的、方法、結果、考察の各項目で説明する内容の違いや図、表の記載の形式など理工系の報告書作成の基礎を学ぶことに重点を置いている。この実験で身に付けるスキルは、3年次春学期での「プロジェクト演習」、3年次秋学期の「コンピュータ理工学特別研究Ⅰ」、および4年次の「コンピュータ理工学特別研究ⅡA・ⅡB」での研究活動の基盤となる。
尚、情報理工学部での教育システムの最大の特徴であるコース制に関しては、1年次生がコース要件科目の履修を開始した段階であるので、その有効性に関しては判断できる段階では無い。

(2)1と2において確認された改善すべき点

授業内での理解向上と事前・事後学習に取り組むように学生に促すことである。本学部の学習は積み上げ型であり、それを習得するためには学習時間が必要である。そのための基本としては、講義に出席している学生がその内容を理解できるような講義内容に改善していく必要がある。しかしながら、授業内で学習分野の全てを身に付けさせることは難しいため、学生の事前・事後の学習時間は必要不可欠である。そのためには、事前・事後学習において、具体的にどのようなことに取り組めば良いのかを指導するなど、学生が学習する時間を取るような方策を行う必要がある。一方、プログラミング演習の強化が学生の初年次教育としての学修姿勢の改善に十分な効果を上げていないという現実からは、問題の深刻さを学部全体で共通認識し、方向転換の必要性を検討して行くべきである。
「コンピュータ理工学実験A・B」においては、多様なテーマの学習による広範囲な学びのメリットを生かす一方で、教育目的と成績評価に関しては異なる実験テーマ間での最低限の方針の共有を目指し、学生に対して一貫した教育目標・達成基準を示すことが必要と思われる。
更に深刻な問題としては、講義に参加しなくなる学生数の増加である。このような学生の割合が年々増加していることは十分な注意が必要である。これらの学生の実態は授業アンケートには反映されないため、全科目を通じた実態調査と対応策の検討が必要である。情報理工学部になり、入学者の傾向に若干の変化が見られるようであるため、新しい教育システムがコンピュータ理工学部では深刻な問題となったドロップアウト学生の減少に有効であるのかどうかは慎重に観察して行く必要がある。

4.次年度に向けての取り組み

  1. 情報理工学部の教育カリキュラムの有効性の状況把握(コース制は機能しているか?ドロップアウト学生は減少したか?)
  2. 習熟度別クラスの実施および必修化が外れた基礎数学科目の実施状況の把握(特に情報理工学部学生の再履修状況)
  3. 情報理工学部での「プロジェクト演習」の実施方法の検討
  4. 「情報理工学実験A・B」の実施方法変更による影響の状況把握
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