黒田 直明 さん

略歴

アリア株式会社 代表取締役
実用イタリア語検定1級逐次・同時通訳、イタリア語通訳案内士
(2017年12月現在)

京都産業大学 外国語学部言語学科 イタリア語専修 1990年卒業
短期語学留学(フィレンツェ市内の私立語学学校)
短期語学留学(シエナ外国人大学)
ローマ大学“La Sapienza”文学・哲学学部留学(国際ロータリー財団奨学生として)
外務省在外公館派遣員(在イタリア日本国大使館勤務)

京都産業大学外国語学部創設50周年に寄せて

イタリア語との出会い

子供のときからの夢であった防衛大学校の入学試験に見事失敗し、完全に目標を見失っていたときに、イタリアの扉に私の顔を向けさせたのは、高校時代の恩師であり現役の声楽家でもあられる、岡田征士郎先生から教わった、たった数曲の甘く美しいイタリアの古典歌曲でした。
京都産業大学は当時私立大学で唯一イタリア語を専科として学ぶことの出来た大学でした。巷はバブル真っ盛りで、1回生のときに、「大学で何勉強してるの?」と聞かれ、「イタリア語。」と答えると、「そんなもん勉強して将来就職どーすんの?」と本気で周りに心配されたりするような時代でした。

イタリア留学と大使館勤務

その頃イタリア語専修の先輩方は全員、2回生の夏休みか冬休みには、イタリアに短期語学留学していました。インターネットはおろかイタリア語の新聞すら日本で目にすることが困難であった時代でしたので、先輩方のイタリアでの生の体験談は、我々後輩たちにとっては、非常に興味と好奇心をそそられるものでした。
先生方も全員イタリア長期留学経験者で、我々にも2回生になったらできるだけ早い時期にイタリアに行くよう強く勧めていました。その影響を少なからず受けて、私も2回生の冬にイタリアに初めて渡り、強烈な印象と刺激を受けて帰国しました。その後は、それまで以上にイタリアへの想いが大きく膨らみ、先輩方がすでに切り開いて下さっていた道でもあった、国際ロータリー財団奨学生として1年間ローマ大学文学・哲学学部に留学させていただき、実践的なイタリア語力を培うことができました。
そして帰国後、奇しくも卒業式の日に、外務省の在外公館派遣員として、在イタリア日本国大使館に着任し、その後2年間勤務しました。着任時はまだ23歳になったばかりでした。

プロのイタリア語技術者として生きていく決意

ローマ大学留学とローマの日本大使館勤務という二つのとても貴重な経験を積んだ後、私はプロのイタリア語通訳者として身を立てる決意をしました。そしてそのままイタリアに通算15年間滞在し、イタリア語通訳、イタリア語技術者としてさまざまな分野で、総計700件近い通訳・翻訳の仕事に携わりながらイタリアの政治、経済、産業、社会、文化、歴史についてさらに見聞を広め、知識を深めることができました。
それらのうちの主要なものだけを挙げても、イタリアの大統領府や憲法裁判所での日本の訪問使節団に対する逐次通訳から、イタリアの首相と日本の大手自動車会社名誉会長との首相官邸での公式会談通訳、ローマ市長と東京都知事との間に締結された友好都市協定の署名式典での公式通訳、日本の弁護士さん約二十名と一緒に行った、シチリアのマフィア裁判の裁判長との面会の際の通訳や、ローマに存在する全ての刑務所の視察の際の通訳、イタリア警察と日本の警察との激しい合同訓練の際の通訳、複数の日本の大手グローバル企業のイタリア進出に伴う長期通訳業務、数多くのイタリアのオペラ劇場の日本での引越公演の際の舞台通訳、地方公共団体への表敬訪問や日伊企業との商談の際の同行通訳、イタリアのサッカーのナショナルチームの日韓ワールドカップへの同行通訳まで、本当に幅広い分野でイタリア語通訳として仕事をさせて頂く機会に恵まれました。
その後イタリアを離れた後、イタリア共和国とは180度感覚の異なるアメリカ合衆国、ロサンゼルスに3年ほど移住してから日本に帰国し、卒業から27年経った現在でも、プロのイタリア語同時・逐次通訳者としてだけでなく、日伊企業を対象としたビジネスコンサルティング会社の社長、また、近年爆発的に増えているイタリア人旅行者を日本全国に案内して巡るイタリア語通訳案内士として、多角的にイタリアと日本を結びつける架け橋の仕事を続けています。

イタリア大使館での記者会見通訳の様子
トヨタ産業技術記念館での通訳の様子
イタリアの企業経営者を対象としたTPS(Toyota Production System)
セミナーでの通訳の様子

メッセージ

最後に、10年前の外国語学部創設40周年の時には書かなかったことを、老婆心乍ら今回はあえて書きたいと思います。イタリア語専修をたまたま先に卒業した一先輩のウザイ妄言程度に聞いて頂いて構いません。
その一つ目は、「人生の中で一番肉体的にもパワフルな期間である貴重な大学4年間を、就職する前の遊ぶためのモラトリアムとは決して考えないで、真面目に好きなことに向かって今すぐ行動を起こし、全身全霊で立ち向かって、打ち込んで行ってほしい。」ということです。なぜならこの4年間を無為に過ごしてしまうと、この先の人生において大きく後悔することになる可能性が高いからです。
二つ目は、「人と同じ様なことはしないようにすること。」です。みなさんは人と同じことをしているとどうなると思いますか?人並みになれると思いますか?答えはノーだと思います。人と同じことをしているだけでは、人並以下の結果しか得られないのが殆どでしょう。初めから人と違ったことをするのは怖いかもしれませんが、仮に人と同じことをしていても結局はその人と同じにはなれません。勇気を持って自分の道に邁進してください。
そして三つめは、「自分のアイデンティティーである日本人であるということを大切にすること。そして母国語である日本語にもしっかり磨きをかけ続けるということ。」です。これは、外国人と対峙する際に自分が日本人であるということを否が応でも思い知らされるからであり、また、自分自身の外国語の能力は母国語である日本語の能力を超えることはあり得ないからです。
四つ目は、「組織に所属することに頼るのではなく、組織の側から求められる高いプロフェッショナリティーと実力を持った個となるように常に弛まず精進すること。」です。
最後五つ目は、「自分が何かこれと決めた分野で1番になることを目指してほしい。」ということです。これは2番、3番がダメということではなく、1番を目指して努力しなければ2番や3番はおろか、5番手、6番手に着くことも無理だからです。そして現実の仕事の世界では、トップの人間にトップの重要な仕事が任され、それを当たり前のようにすんなりこなして高い報酬を得ているからです。
京都産業大学のイタリア語を出たという他の人たちが持ちえないイタリア語学のプロとしての素地を最大限に生かして、今後の日本のためイタリアのためになるような大志を抱き、是非それを貫徹していただきたいと思います。
終わりに、恩師である阿部先生が我々に仰っていた言葉を一つ皆さんにも贈ります。
「真の国際人とは、(世界のどこでも)パンツを自分で洗える人間のことである。」

イタリアの旅行会社のスタッフ達と
築地 治作にて
都内のイタリアンレストランにて
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