杉田 綾音 さん

略歴

2010年 外国語学部言語学科イタリア語専修卒業
2012年 国家資格「通訳案内士」試験合格
現在  イタリア語通訳案内士として日々奮闘&精進中
(2017年10月現在)

イタリアとの出会い

中学生の頃に洋画にはまり、毎日3本欠かさず見るくらい映画好きになったのですが、その中でイタリア映画「自転車泥棒」がとっても印象的で、それからイタリアに興味がわきました。 他に特別学びたいと思えることがなかったのもあって、大学ではイタリア語を勉強し留学する、と高校1年生の頃に既に決めていました。先の将来の事など微塵も考えていませんでした。

渡伊

大学時代はただひたすら留学を目標に勉強とアルバイトの毎日でした。そして念願だった渡伊を2007年に決行。中田英寿選手も活躍していたイタリア中心部にあるペルージャという町の外国人大学に10カ月間通うことになります。 クラスではイタリア人は先生のみで、生徒は皆外国人。国際色豊かで、日本に住んでいれば到底出会うことはないだろうと思える国籍の方も沢山いらっしゃいました。キプロス、ウズベキスタン、キルギス、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、アルバニア、パレスチナ、南アフリカ、ペルーなどなど…… 私はアジア人の中ではそれなりに会話もできていた方だったので、外国人とイタリア語で交流している自分が恰好良く思え、少々浮かれて天狗になっていました。その鼻をポキッと折ってくれたのがセルビア人のクラスメイトでした。

セルビア人との出会い

そのセルビア人の彼とたまたまお隣に座って、イタリア語の会話の練習になった時に、「綾音、何故サムライはカラキリしてたの?」って聞かれてしまったのです。一瞬なんのことだかわかりませんでしたが、しばらくして「腹切り・切腹」のことだと理解しました。(後に、ヨーロッパ人はハ行の発音が苦手で、Hを取ってア行にしたり、ア行にすると発音しにくいので勝手にKをつけてカ行に置き換えることが判明しました。なので「HARAKIRI」が「KARAKIRI」になっていたのです。) 今となっては答えられますが、その当時は、ましてや習いたてのイタリア語できちんと答えることなど出来ず、うやむやに返事をしてしまいました。それから堰を切ったかのように質問の嵐!「天皇陛下とは日本人にとってどのような存在なのか。」「死刑制度についてどう思うか。」「神道と仏教の違いについて教えて。」「禅とは?」……私の答えはことごとく「分かりません。」でした。あの時のセルビア人の彼のあきれ切った顔は今でも忘れられません。 彼にとって私は初めて出会う日本人で、長年の謎がやっとネイティブの日本人に聞いて解けると期待していたのに、その期待を「分からない」の一言でぶち壊してしまったのです。

日本人としてのアイデンティティー

その時初めて自分が「日本人」なんだと自覚しました。と同時にいかに自分が自国に関して「無知」であるかを知らされました。この二つは留学をした中で一番大きな、そして貴重な発見でした。 帰国後は、こんな空っぽなまま社会に出ても何の役にも立たない、とかなり落ち込みました。そんな中、私の不安や悩みの相談に乗って下さっていた当時のイタリア人の先生がこう一言。「空っぽなら今から満たせばいいじゃない。」目から鱗がポロポロこぼれ落ちました。当の先生自身も恐らく覚えてないような何気ないこの一言が、私の人生の転機となりました。

通訳案内士との出会い

それからは日本の文化や歴史に対して興味を持ち始め、本当の意味での「勉強」をしたくなりました。大学でイイ成績を取る為の「勉強」ではなく、自分の「空っぽ」を満たす為に知りたい、学びたいと思ったことを純粋に「勉強」。そして次第に、外国人に日本の素晴らしい魅力を伝えるような仕事がしたい、イタリア語が使えたらなおのこと良い、と漠然と将来の仕事について考えるようになりました。 そんな中、ふと買い物中に偶然入った本屋さんで見つけたのが通訳案内士試験の過去問題集だったのです。それが私にとっての二度目の転機となりました。ここに運命的な出会いを感じて、それから自分で色々と調べ、通訳案内士養成コースを受講し、国家資格である通訳案内士試験を受験、2012年に取得、そして今に至ります。 念願の通訳案内士になれはしましたが、日々「勉強」です。ただ単に観光地を案内し説明するだけではなく、日本人の生き方、倫理観、宗教観、美的感覚、はたまた政治、医療制度、平均年収、年金制度、はたまた二条城のお堀の水はどこから引いているのか、伏見稲荷大社の鳥居の木材は何か、マスクをつける意味は何か、外ではタバコが吸えないのに店内ではOKなのは何故なのか、何故道端にゴミ箱が少ないのか、オートマチックウォシュレットはどのようにして誕生したのか、何故日本の会社員は酔っ払うとネクタイを額に巻くのか、日本の女性は何故内股で歩くのか(イタリア人男性90%が必ず聞く質問です。笑)などなど……真面目なものから、そんなところが気になるのか!?と思う間抜けなものまで、ありとあらゆる「何故?」に答えなければいけません。ただ一つ言えるのは、この仕事のお蔭で自分の「空っぽ」を満たすことが出来、どんどん日本が好きになれます。そして自分の唯一の武器であるイタリア語で日本の魅力を紹介・発信できることに、とても「誇り」を感じます。

在校生へのメッセージ

在校生の皆さんに是非お伝えしたいのは、「本当に自分がしたいこと・なりたいこと」というのは突然わかることもあるということです。自分の経験上、確信しています。ただそれに気づくには、視野を広げ、自分の限界を決めず、何事にも積極的かつ時には楽観的にチャレンジし、あらゆるジャンルの人と交流しなければいけません。自分と違う出身・性別・学部・国籍・特技や趣味・関心を持っている人と触れ合い、会話に刺激されることで、自分が何に関心があるか、何に向いているのか、様々な可能性がおのずと見えてきます。もしこのセルビア人に腹切りのことを聞かれていなければ、私もただの中途半端なイタリアかぶれの日本人のままだったと思います。 「役に立つこと」を「学ぶ」のではなく、「学んだこと」を「役立てて」下さい。
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