留学体験記が届きました
(佐々木 悠貴さん ハイデルベルク)

私は2017年3月から2018年3月まで京都産業大学を休学し、ハイデルベルクのドイツ語語学学校に留学しました。ハイデルベルクは南ドイツのバーデン・ヴュルテンベルク州に位置します。面積は小さいながらも世界的に有名な観光都市であり、また学生都市でもあるので多国籍都市といっても過言ではありません。ハイデルベルクを選んだ理由としては当時留学の選択肢としてこの他に、ベルリンとミュンヘンがありました。この2都市はもうすでに知っていたのですが、ハイデルベルクだけはまだ知らない都市だったので興味を抱き、留学先に選びました。休学留学ということもあり、在学留学した友人たちとは違い、ある種の気楽さも感じつつ、のびのびと留学生活を過ごすことができました。

ドイツでは、生活していく毎日が勉強の連続でした。ドイツでの生活を通じて得た経験は、初めてのことばかりで刺激的でした。
今から思うと、その貴重な体験はドイツに行く前から始まっていました。例えば、ビザの取得はドイツでもできると聞いていたのですが、そのための書類を日本であらかじめ領事館に申請し、事前に手続きをしていかないといけないことを知らず、そのことを出発の3日前に偶然気づき、急いで領事館に駆け付けました。このように慌てながらも、なんとか向かったドイツですが、今振り返っても、簡単な単語もすらすら読めない自分が大学ですでに2年間もドイツ語を学んできたことになんだかやるせない気持ちでいました。

始めの2カ月は毎日ドイツ語に触れ、ドイツ文化を学ぼうとホームステイを選びました。しかし私のホームステイ先は、なんとトルコ人の家族でした。ドイツには昔から多くのトルコ人が移住しており、街を歩くとトルコ料理のお店がたくさん立ち並んでいます。もちろん彼らはドイツ語も流暢に話すことができます。私がホームステイした家族は6人ですが、両親は共働きで、子供たちはすでに社会人であったため、平日は食事の時にしか会うことができなかったのです。そのため食事の時だけは拙い英語とドイツ語で一生懸命にコミュニケーションを取っていました。私が当初思っていた“ドイツ人”の家庭ではありませんでしたが、そこで改めてドイツが多国籍国家であることに気づかされました。

2カ月後その家族と別れ、その後の半年間は学校の寮で過ごしました。そこは2年前に建てられたらしく、とてもきれいで、過ごしやすかったです。ホームステイとの違いは、まず門限や食事をする時に決められた時間がないこと、そして共同生活者に気を遣わなくていいところです。その意味では、寮のほうが自分のペースで過ごすことができるのでよかったのですが、私が入った寮はキッチンやトイレのついた1人部屋であったために他の生徒との交流が多くはありませんでした。そこでクラスメイトと共に行動をすることや、ハイデルベルク大学日本学科の学生たちと週に数回ほど会ってドイツ語と日本語を共に学ぶ機会を増やしたり、日本に興味のあるドイツ人と交流したりすることでドイツ語力の向上を心掛けました。

しかし、半年近く過ぎた頃でも、ドイツ語での会話が長く続かず、会話が止まってしまう自分にイラ立ちを感じたり、また彼らが話すドイツ語が分かりやすく易しいものに言い換えられるのにも悔しさを感じたりしながら日々を過ごすようになりました。留学前にいろいろな人の留学体験記を読んだり、先輩の話を聞いたりしていると、「半年ぐらいからある程度聞こえるようになり、一年では日常生活に問題なく過ごせる」とありましたが、実際自分がドイツに行って、本当に使える語学を学ぶことは簡単なことではないのだと改めて感じました。日常生活が一番の大きな壁だと思ったからです。授業内では自分のレベルをお互いが理解した上で話をするので、お互いの言いたいことがよくわかるのですが、街の中や友達同士で話すドイツ人のドイツ語を聞くと、自分とは次元が違うように感じ、同じ言語を使っているのかと疑った時もありました。さらに日本語にも関西弁や関東弁など多くの方言があるようにドイツ語も地域ごとに違っていて、ますます理解できませんでした。しかし、このままでは悔しかったので、友人になったドイツ人から教えてもらった方言を自分のできる範囲で真似するようにしてみました。すると自分もドイツ人になったつもりで、独りで何か達成感のようなものを感じました。
得ることができます。それが自分自身の価値感を変化させ、より広い角度から物事を考えられるようになるので、将来を真剣に考える上では非常に大きな材料になると私は考えます。
煙草を作るための道具
半年後、私は最初あまりできなかったドイツ文化を直接体験したいと考え、最後の3か月にもう一度ホームステイを選びました。次のステイ先はドイツ人の家族で毎日一日中ドイツ語を話すことができました。実際に家族の一員となることで普段の生活では味わうことができない体験ができました。例えば、クリスマスと大晦日を家族やドイツ人の友人と過ごすことができ、日本との違いを感じることができました。一般的に日本では大晦日よりもクリスマスのほうが賑やかにお祝いするのに対し、ドイツでは逆にクリスマスは家族と一緒に静かに家で祝い、大晦日には花火やパーティーをして賑やかに祝います。また、ドイツ人は喫煙者が多いようで、私のホストファミリーもそうでした。彼らは煙草を自販機やスーパーに買いにも行くのですが、家にいるときは自分で煙草を作っていました。丸まった紙に煙草を詰め込む道具を使い始めから煙草を作るので、私は吸わないのですが、何回か一緒に手伝わせてもらいました。何回か挑戦するうちにコツをつかんできたのか、私が作った煙草は上手いと褒められるまでになりました。
お母さんには、煙草だけでなく、ドイツ料理も少し教わりました。ドイツの食文化はジャガイモを主食としビールやソーセージを頬張るというイメージでしたが、実際にはパンやパスタはもちろんのことながら、米や魚もよく食べます。日本の友達に聞くと、ドイツ料理の好みに個人差はあるようですが、私自身はどれもおいしく感じました。また、留学の難点として大学食堂の料理の不味さをよく聞きますが、ハイデルベルクの大学食堂ははずれがなく、私は週に何回か通ってはお皿いっぱいに盛って食べていました。
友達との年越し
このようにドイツでの私の経験は、私の中で大きな分岐点でした。一年間という長いようで短い期間に決して日本では味わうことができなかった価値観や文化の違いを経験できたのは、大きな糧となりました。言語の問題を毎日感じるのは正直辛いと感じましたが、しかし、その不満をクラスメイトやタンデムパートナーにあえてドイツ語でぶつけることで共感を得て、そこから会話を続けていくようになり、結果的に自分の成長につながったので良かったのだと思います。今まで海の向こうとしか思っていなかったドイツや外国をもっと近くに感じるようになったと共に、世界に対して関心が高まり、確実に視野が広がりました。

留学とは、日本での当たり前が通用しないということを体験することであり、もちろん困難で苦労する問題に直面します。しかし、その問題について日々乗り越えようと努力することで、確実に成長し、留学という経験から必ず大きな自信を得ることができます。それが自分自身の価値感を変化させ、より広い角度から物事を考えられるようになるので、将来を真剣に考える上では非常に大きな材料になると私は考えます。
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