平成28年度 学部授業・カリキュラム改善に向けた「年間報告書」

1.「学習成果実感調査」についての分析結果

学習成果実感調査は、対象科目数48科目(全履修者数4086名)のうち48科目に対して実施(実施率:100%)した。また回答者数は2277名であり、回答率は55.73%であった。昨年の実施率は95.24%であったので、今年度はすべての対象科目で実施された点が改善である。ただし、回答率は昨年度の64.16%から10pt(%値)程度低下しており、学生の出席率の低下が原因と考えられる。
全科目における出席回数に関して、84%の学生が出席率80%以上であると回答している。回答率の低下と合わせて考えると、授業に出席する学生と全く出席しない学生との2極化がさらに進んだと解釈される。履修に関してシラバスを確認したかどうかに関する質問に対しては、75%の学生が確認したと回答している。この結果から、シラバスを見て授業を選択し、また選択した授業に関する出席率も高いという傾向が見られている。
事前・事後学習に関して、シラバスに記載された指示に従い進めたかどうかに関して、42%の学生が従って進めたと回答した(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」を合わせて)。事前・事後学習に関する学習時間に関しては、2時間以上取り組んでいる学生の割合は19%(昨年度 13%)、1時間から2時間取り組んでいる32%(昨年度 32%)であるという回答を得た。この結果から、学生が事前・事後学習に関してシラバスに記載している指示に従っておらず、また、学習時間も少ないという実情が理解される。昨年度からわずかながら上昇してはいるが、事前・事後学習は各科目の内容を理解するためには必須であるため、事前・事後学習への取り組み強化を更に行っていく必要がある。
各科目への積極性に関して、66%の学生が積極的に取り組んだと回答している。各科目の理解度に関しては、56%の学生が理解できていると回答している。この結果から、積極的に科目に取り組んでいると回答している学生が未だ多くない状況にあり、またそれに比例するように科目を理解できていると感じている学生も半数程度しかいないという現状が判明した。授業内容を精査し、授業の内容のレベルを落とすことなく、授業内容に対する学生の理解を高めるような内容にしていく必要がある。尚、昨年度に比べて全体的に数値は向上しているが、回収率の低下からは、勉学意欲の低い学生はアンケート実施時期にはすでに授業に参加しておらず、この割合が上昇したため、アンケートに回答した学生がより選別されたと判断すべきであると考える。この意味では、履修登録しながらもアンケートに回答しなかった50%弱の学生の実情はこの調査では知り得ないという深刻な問題を含んでいる

2.「公開授業&ワークショップ」についての成果報告

参加人数

①「公開授業」:15名程度
②「ワークショップ」:18名程度

ワークショップでの意見交換内容

昨年は「基礎プログラミング演習I」、「基礎プログラミング演習II」、「発展プログラミング演習」および「発展プログラミング演習II」の公開授業を行い、新たに試みた少人数クラスの教育効果に関して検討を行った。昨年度に、これらのプログラミング演習科目で単位を修得出来なかった学生は該当する演習の再履修クラスの今年度の受講が義務付けられている(グレード制)。今年度は、これら4つの演習科目の再履修クラスの公開授業を行った。また、今年度から開講した応用プログラミング演習(3つのクラス)の公開授業も行い、プログラミング演習改革から2年目の実態の総合的な検討を行った。また、基礎数学教育に関する意見交換も行った。
プログラミング演習は、コンピュータ理工学部の基盤をなす科目であり、この科目の習得は学生のその後の学習に大きく関係してくる。そのため、昨年度より少人数教育とグレード制の導入をおこなった。今年度は単位取得が認められず、再履修となったクラスの実情に関して検討を行った。担当者からの報告では、受講生の半数程度が演習から落ちこぼれており、上位層と下位層との乖離が激しいという事であった。プログラミング演習の単位を修得(合格)できないとその後のカリキュラムの履修に大きな支障が生じるため、この問題は引き続き検討を行う必要がある。
今年度から開始した応用プログラミング演習は選択科目であるためか、履修者の意欲は高く、プログラミングの理解をさらに進めたいという前向きの学生にとっては有効な講義として機能していると思われる。データ解析をテーマとする応用プログラミング演習では、固有値や固有ベクトルなどの数学的な基礎の内容の理解において困難が見られ、基礎数学の講義との連携が必要と思われる。
基礎数学科目である「微分積分学I, II」および「線形代数学I, II」は現在、理学部数理科学科の教員に担当を委ねているが、来年度からは本学部のスタッフが担当するため、講義内容に関して確認を行った。新たに担当する教員2名からそれぞれの講義での内容の説明があり、専門科目からの要望などがあれば積極的に伝えて欲しい旨の依頼が行われた。再来年度から新設される予定の情報理工学部では、基礎数学科目が必修科目から外れるため、数学の基礎学力の低下が懸念され、学生の履修を啓蒙する働きかけが必要であるとの共通認識を確認した。

3. 総括

(1)1. と2. において確認された、本学部の授業・カリキュラムの長所

本学部の授業・カリキュラムの長所は、コンピュータ理工学において基盤となるプログラミング能力を身につけるために、グレード制と少人数制を導入していている点にある。プログラミングは数学と同様に積み上げ型の学問であるため、基本的なことが理解できていないと、より発展的な内容についてのプログラミングをすることができない。そのため、「基礎プログラミング演習I」の内容をしっかり理解した上で、「基礎プログラミング演習II」を履修するというグレード制は、プログラミング能力の習得に有効である。また、プログラミングの習得には、プログラミングを理解している教員やTAに気軽に質問できる環境が必須であり、少人数化により本学部はそれを実現している。今年度から開講した応用プログラミング演習は、さらにプログラミングの理解を深めたい学生にとっては有効な講義として機能している。

(2)1. と2. において確認された改善すべき点

授業内での理解向上と事前・事後学習に取り組むように学生に促すことである。本学部の学習は積み上げ型であり、それを習得するためには学習時間が必要である。そのための基本としては、講義に出席している学生がその内容を理解できるような講義内容に改善していく必要がある。しかしながら、授業内で学習分野の全てを身に付けさせることは難しいため、学生の事前・事後の学習時間は必要不可欠である。そのためには、事前・事後学習において、具体的にどのようなことに取り組めば良いのかを指導するなど、学生が学習する時間を取るような方策を行う必要がある。また、これに関連してコンピュータ理工学の分野における技術の発展は速いので、授業内で基本的な内容を理解し、自学習において学生が発展的な内容に積極的に取り組むようにして行く方策も必要である。
更に深刻な問題としては、講義に参加しなくなる学生数の増加である。このような学生の割合が昨年度より増加していることは十分な注意が必要である。これらの学生の実態は授業アンケートには反映されないため、全科目を通じた実態調査と対応策の検討が必要である。
本学部では1年次科目からの段階的な講義・演習科目の再検討および改善を実施しており、手始めにプログラミング演習の改革を実施した。次の段階としては、2年次科目である「コンピュータ理工学実験A・B」の改革に着手すべきであると考える。

4. 次年度に向けての取り組み

次年度に向けての取り組みとしては、以下の3点を挙げる。
  1. 担当者変更による基礎数学科目の実施状況の確認
  2. 事前・事後学習を促し、学習効果を高める
  3. 「コンピュータ理工学実験A・B」の改革
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