経営学部 卒業生インタビュー
五明金箔工芸 五明 久さん(1986年卒)

私たちは、今回の卒業生応援プロジェクトにおいて、京都の伝統工芸である金箔押しをされている佐々木ゼミ第5期生五明久さんにインタビューさせていただきました。五明さんは、主に仏像に金箔を貼る仕事をされていて、大学でレクチャーをしたり、作業場である実家で一般人に向けた金箔押しの体験会を開いたりされています。平成27年度東久邇宮文化褒賞も受賞されています。

インタビュアー

経営学部 佐々木ゼミ:石座 実乃里さん・船越 茜さん

五明金箔工芸にて:左側から船越 茜さん・五明 久さん・石座 実乃里さん
五明金箔工芸
五明 久さん(1986年卒)

金箔押しの世界

子供の頃からお父さんの側で金箔押しを見てきたことと思いますが、その職業に興味を持たれたきっかけはなんですか?

この質問に対する五明さんの回答は予想外でした。話を聞いて驚いたのは、五明さんは子供の頃から金箔押しに興味を持っていたわけではないということです。家業継承は強制でもなく、子供の頃どころか、大学時代でも就職活動でたくさん他の企業を回っていたというくらい、家業を受け継ぐ気が無かったそうです。現在は金箔押しに毎日集中し、生計を立てられています。
話を聞いていると、一度学生のときに実家の繁忙期に作業を少し手伝ったことがあり、その時に金箔押しの世界を少し知ったそうです。就職活動でいろんな企業を回る中で、改めて自分が「ものづくり」が好きだと実感し、「自分の家の仕事はどうなのだろう」と興味を持ち始めたそうです。金箔押しの仕事は、自分で制作して、それを納品すれば利益が出るという点で五明さん自身の納得度が高く、金箔押しで生計を立てていこうと決心されたそうです。
ものづくりといっても五明さんの仕事は仏像に金箔を貼ることがメインなので、精神的にも非常に疲れる仕事だそうです。「元々が自分で作りたい」という五明さん自身の性格と、「やるからには一番になりたい。そうでないと目指した意味がない」「認められる立場でありたい」という仕事に対する熱い姿勢が、負担の大きい仕事を続けることにつながっていると感じました。
 

働いていて一番やりがいを感じるのはいつですか?

この質問では、金箔押し師であることの大変さがすごく感じられる答えをいただきました。五明さんは、仏像に金箔を貼っている時、一体の作業が終わるまで電話一本出ないそうです。仏像には魂が宿っています。仏像に金箔を貼る作業をする日は、まず初めに「今日1日作業をさせてもらいます」という挨拶をされ、作業に入るとそこから動かないそうです。仏様が金箔押し作業の中でずっと落ち着いていられるように、五明さんはその作業をとても丁寧に、大切に進めるそうです。「自分がちゃんとしないと仏様が落ち着いた状態でいられない」というプレッシャーと常に戦っておられるように感じました。
魂に関わる仕事ならどの過程でもそうであるらしく、例えば金箔を塗る前の作業である漆を塗ってもらう場で、何か仏様にとって良くないことがあると、仏様の怒りが五明さんにも影響することがあるそうです。もし五明さんの作業途中に仏様にとって何か悪影響があると、五明さん自身や次の作業をする人にも良くない、だから他の作品に比べて最も気を張る大きな仕事で、集中を切らすわけにはいかないと話されていました。
一つの作品を作り上げるという作業は、チームプレイでもあるのだなと感じました。様々な分野のプロの職人が、どの過程でもものすごい集中力で作業に取り掛かっていて、もし前の過程で起こった悪いことが余波として自分の作業場に来てしまったとしても、その余波はきちんと落ち着かせてから次の場に送るということを心がけているそうです。そのくらい仕事に向き合って自分の時間、体力や精神力を注げる人でないと、職人として伝統を守るという仕事は務まらないのだろうと感じました。そんな長い緊迫状態の中での作業だからこそ、何事もなく無事金箔を貼り終え、次の職人さんのもとまで作品を届けられた時の達成感がすごいそうです。負担の大きい仕事を終えた時の優越感を語られている五明さんの表情はとても嬉々としていて、働く大人の理想のように思えました。

金箔押し師への道のりの苦労略

もともと左利きだったのを時間をかけて右利きに変え、ずっとあぐらの姿勢を保てるようにする、など初歩的な苦労もたくさんあったそうです。金箔を貼る技術面での苦労が一番大きかったと考えていましたが、実際はそうではなかったようです。
五明さんは、作品をメーカーさんを通じて売っています。しかし店頭に並べてもらうためには、問屋さんの納得が必要です。「どんなものが好まれ、求められているか」を考え、ヒットさせられなければ商売にならない、生計を立てられないのだそうです。問屋さんに認められるには最低10年はかかるので、自分が納得している間はただの自惚れだと言っていました。自分で最高の作品ができたと思っても、それを「どう納得させるか」が一番難しいそうです。
自分よりも他人を納得させることが非常に難しそうです。しかし評価されないといけない、とても複雑な世界だと感じました。こうした世界を、五明さんは「そんなもんですよ」と受け入れられていましたが、自分の域を広げすぎないことも職人として生きていく上で大切な要素なのだなと感じました。五明さんは現在金箔押し師として働いていますが、長い努力と苦労の積み重ねだったのだろうと思います。時代のニーズに向き合いつつ、自分の技術に向き合うことで職人になるということの大変さをほんの少し感じることができました。

お父様に師事し、職人になったと聞きましたが、師匠に言われて一番心に響いたことは何ですか?

家業だから当然家の人から技術を受け継ぐものだと思っていましたが、五明さんはお父様と違って左利きで、教えてもらいにくかったと言っておられました。そして素晴らしい作品を作ったとしても、仏像を彫る人の名前は世に出るが、金箔押し師の名は出ないそうです。五明さんは、このことに対して作っている人間として矛盾を感じる時期があったそうです。そして京都に住む仏像を彫る職人に相談したときに、返ってきた言葉は「色々考えなくても、この世界は淘汰されていきます」という言葉でした。無駄なものは時代に合わせて自然と無くなっていくという意味だそうです。色々葛藤はありましたが、この言葉によって気が楽になったそうです。
どれだけ認めてほしくても認められないもの、頑張っても変えられないものはたくさんあり、そこで頑張ってもがくよりも、自然の流れに身を任せて、時代のニーズを考えて、染まって生きておられるのだと感じました。確かに今の時代に残っているものは本当に必要なものです。五明さんは、多忙な中でも空いた時間には自分にしかできない新しいことを研究し、試されています。こういった他人とは違う別の努力も続けてこられたからこそ、長い間世の中のニーズに応え続けていけるのだと感じました。特に伝統工芸品の職人は、新しいことを見つけてオリジナルを作り続けないと、生き残っていくのが難しい時代になっていると感じました。
 

つねに世界に目を向けること

家業を継ぐ人は、どのような人が望ましいですか?

家業の継承は強制ではないので、五明さんの息子さんが将来金箔押し師になるかどうかはわからないそうです。日本の伝統を受け継ぐにはどのような人がふさわしいのだろう。
五明さんはまた、私たちの予想外の答えを出されました。「外国人」とのことでした。そして外国人に限らず、日本の文化を広げようとする人であるとのことです。
「日本の伝統は長い間守られてきたものであり、プライドのあるものである。そして絶対ブレない。だから惜しみなく外国の方にも見せて、母国でも広めてもらうと、もっと京都の伝統は活性化する」という考えを述べられました。身内だけで守りすぎていては、良い方向に伸びないのだと感じました。後継者よりも、広げることに重点を置いて考えられていました。
閉鎖的な京都の性格のままでいると、将来性がない。この悪い要素を改善しようと五明さんは日々アンテナを立てて新しいものを探していました。面白いと思ったものにはすぐ食いつき、調べ、接点を探す。このような活動がまさに日本文化を守る大切な要素でもあると思いました。変わらないままでは、淘汰されてしまうということです。
これからの日本を担っていくのは私たち若い世代の人間であり、私たちが考え行動しなければならなくなっていきます。その準備過程にいる類として、とても大切なことを聞いた気がしました。京都だけでなく、日本が閉鎖的だと感じました。日本人一人一人の性格を見ても、世界から「恥ずかしがり屋」と言われています。しかし持っている技術は確かに認められています。もっと世界に進出するべきであり、伝統工芸品に限らず日本発祥のものを広げていくことが、最も重要なことなのだと思いました。

つぎの質問は、技術を保つためにされている努力についてです。

五明さんは自分の仕事をやりきった後、そこから「他の人のやってないこと」をする時間を設けているそうです。上に行きたいと思うからこそ、自分に任された仕事だけではいけないと話されておられました。みんなと同じことでなく、違う何かをどれだけ勉強するかで全く変わってくるといいます。
同じ伝統職でもオリジナル性がないと世間から求められなくなるのだなと感じました。「進化させていく」努力を常に心がけていることを学びました。自分の与えられた仕事だけをこなしている人に対して、「何か考えろ」と強い思いを持っておられました。世の中に求め続けられるためには、良い方向への進化が必要で、その進化を生み出すためにはその分野に能動的に食いついていくことがキーワードです。
確かに日本で高い技術を持つ分野は非常に多いです。しかし、月日が経つにつれて習得していく人も増えていき、そうなると習得もしやすくなり、だんだんと高い技術が当たり前になってきています。そんな時代だからこそ自ら進化を求め続け、一人一人が独自のアイデアを生み出さないと日本企業は廃れていきます。日本企業自体の進化が必要で、これからの企業を創っていく私たちこそ、そのことを忘れてはいけないと感じました。

京都の伝統産業の課題

京都の伝統産業が抱えている1番の課題は何ですか?また、現在進めている新しい取り組みは何ですか?

京都人の持っている「ゆったりさ」は、もちろん良い意味でもありますが、技術の進化・発展となると困ったものになる、と話されました。京都の伝統産業は、現状としては進化しなければいけない状況であり、五明さん世代のごくわずかな人々がそれをやろうとしていますが、少数でできるものではないそうです。五明さん曰く、新しいことがビジネスとして成功しているかどうかがわかるのにはだいたい4年ほどかかるそうです。だからこそスピード感を持って動かなければなりませんが、それに気がついたり動こうとしている人が少ないことに危機感を感じられていました。
人を巻き込もうと思っても、自分が持っているスピード感が他人と異なると、待つことが非常に大変だそうです。閉鎖的な京都の性格だからこそ、尚更、技術を広げること、発信させることが大切なのに、群としてそれを実行できていないことが大きな課題であることを教わりました。
海外の人がたくさん訪れるのを武器に、興味を持ってくれる人によりオープンに技術を伝授し、その人たちが日本の技術を自国に持ち帰るという流れをどんどん繰り返していくことができたらそれが展開としては一番望ましいそうです。

後輩へのメッセージ

五明さんがある講演会で聞かれたお話から、日本の将来を占う大きなキーワードは「英語力」そして「女性力」だとか。英語力はまさに海外に京都の技術を広める、また取り込んでいってもらうには必須です。
そして、今までの日本の経済成長を支えてきたのはほとんど男性であり女性の力はほとんど使っていません。これからは、まだ使っていない女性の新しい力を活かすことが日本の経済を支える重要な鍵になります。女性の方がより柔軟性があり、新しい日本の経済にも対応しやすいのです。
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