科学雑誌 Nature Materialsにドイツのアウグスブルグ大学、フランクフルト大学の実験グループと理学部の堀田准教授の共同研究の成果が掲載

 2012年8月12日に米国の科学雑誌 Nature Materials(Nature publishing group発刊)にドイツのアウグスブルグ大学、フランクフルト大学の実験グループと理学部の堀田准教授の 共同研究の成果「有機電荷移動錯体のマルチフェロイクス効果:電荷双極子を引き金にした磁気的応答の可能性」が掲載されました。

掲載論文名

Multiferroicity in an organic charge-transfer salt that is suggestive of electric-dipole-driven magnetism
(有機電荷移動錯体のマルチフェロイクス効果:電荷双極子を引き金にした磁気的応答の可能性)

著者

  • Peter Lunkenheimer、Stephan Krohns、Florian Schrettle、Alois Loidl(アウグスブルグ大学)
  • Jens Mϋller、Benedikt Hartmann,Robert Rommel,Mariano de Souza,Michael Lang(フランクフルト大学)
  • Chisa Hotta(京都産業大学)
  • John A. Schlueter(アルゴンヌ国際研究所)

研究内容の概要

 マルチフェロイクスとは、磁性と誘電性のように複数の秩序を併せもつ物質系であり、異なる秩序同士の相互作用によって、複合的な外場応答現象(電気磁気効果)が期待されます。従来の遷移金属酸化物にみられる電気磁気効果では、磁性を引き金にした強誘電性が広く知られていました。具体的には、フラストレーションのあるスピン系において、スピンが螺旋的な磁気秩序を持つと同時に、対称性の要請からプラスイオンの空間配置がずれて電気的中性がマクロに破れる、という機構です。磁場によって、スピンの螺旋秩序を制御することが、直接的に強誘電性が制御することに繋がります。

 ところが、今回見つかったマルチフェロイクスでは、逆に、電場によって、磁気的な応答が誘起されており、螺旋磁性も存在しません。そのため、この実験は、これまでにない機構のマルチフェロ効果である可能性を強く示唆するものです。また、有機物において初めて、こうした電気磁気応答が観測された例でもあります。強 誘電性の起源は、イオン空間配置のずれではなく、電子の波動関数が形を変えることによって起こると期待される「電子誘電体」的なものである可能性があります。このように負の電荷を帯びた電子の量子力学的な多体波動関数が、じわじわ変形することにより、誘電応答が起こる可能性は、有機導体においては擬1次元電荷秩序物質 TMTTF2X の実験で2001年に最初に指摘されましたが、まだ理論的にも実験的にも確立されていない革新的な問題です。

 電荷秩序とは、電子がクーロン相互作用によって低温で自発的に空間対称性を破り、空間的に不均一な配置を持った強相関絶縁体です。擬2次元有機結晶では1990年代からこの電荷秩序が多く観測されています。今回話題になった κ-ET2Cu[N(CN)2]Cl という物質は、モット絶縁体と呼ばれる別の種類の強相関絶縁体であり、電荷秩序を示さないとこれまで考えられてきました。ところが最近、堀田准教授の理論研究により、このκ系で、分子が2つペアになったダイマーという単位で電気双極子が出現し、それが、電荷秩序に対する不安定性のあるモット絶縁体領域で、磁気的な自由度と直接相互作用をもつ可能性が指摘されました。今回の実験結果は、このような電気-磁気相互作用の帰結として、新しいマルチフェロ機構によって、反強磁性秩序と電荷の強誘電性が同時に起こる可能性を示唆したものです。

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