木村成介准教授、大学院生 天野瑠美さん、中山北斗研究員らの共同研究グループが、植物が生育環境に応じて葉の細胞の数や大きさを調節していることを発見

 総合生命科学部 生命資源環境学科の木村成介准教授、大学院生の天野瑠美さん(修士課程2年)、中山北斗客員研究員(日本学術振興会 特別研究員SPD)らの共同研究グループは、アブラナ科植物のRorippa aquatica を用いて葉における細胞の解析を進め、これまではモデル植物の変異体などでしか確認されてこなかった「補償作用」と呼ばれる現象が、この植物では生育温度の違いによって引き起こされ、この現象が自然条件下で起こりうる現象であることを明らかにしました。

 本研究成果は、2015年11月16日付で、国際誌であるPLOS ONE(online版)に掲載されました。

掲載論文

A Decrease in Ambient Temperature Induces Post-Mitotic Enlargement of Palisade Cell in North American Lake Cress
PLOS ONE (2015) 10 (11): e0141247 | doi:10.1371/journal.pone.0141247

著者

¶天野瑠美(京都産業大学)、¶中山北斗(日本学術振興会、京都産業大学、University of California、Davis)、諸星友里加(東京学芸大学)、川勝弥一(京都産業大学)、Ali Ferjani(東京学芸大学)、木村成介(京都産業大学)
¶共同第一著者

発表内容

 生物は、体の大きさを適切に保つために細胞の数や大きさを調節しています。近年、植物において、葉の大きさを制御する仕組みの1つとして、細胞分裂能が低下した時、それを補うかのようにひとつひとつの細胞が肥大化する「補償作用」と呼ばれる現象が報告されました。しかしながらこの補償作用は、植物研究のモデルとして用いられているアブラナ科のシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)やその他のモデル植物において、細胞分裂が正常に行なわれなくなった変異体などでしか確認されておらず、自然界で生育する植物でもこの現象が起こるのかどうかは明らかになっていませんでした。
 そこで研究グループは、シロイヌナズナと同じアブラナ科のRorippa aquaticaを用いて、葉の細胞の観察と解析を行なってきました。R. aquaticaは北米原産の半水生の植物で、周囲の環境に応じて葉の形を変化させます。例えば、生育温度が30℃の時は丸い単純な形の葉を、20℃の時はギザギザとした複雑な形の葉を形成することが知られています(図1A-D)。これまでの研究から、補償作用は生育環境が変化した際や細胞分裂活性が変化した際に誘導されることが示唆されており、そのため、環境に応じて葉の形態を変化させるR. aquaticaは補償作用を研究する上で興味深い研究対象であると言えます。
 研究グループの詳細な細胞学的解析の結果、20℃で生育させたR. aquaticaの葉では、30℃で生育させた葉と比べると、単位面積あたりの葉を構成する細胞数が減少しており、一方で個々の細胞の面積が増加している(細胞が肥大化している)ことが明らかになりました(図1E)。このことから、20℃で生育させたR. aquaticaの葉では補償作用が誘導されていることが明らかになりました。
 加えてこの際に、補償作用に関わる遺伝子の発現を調べたところ、20℃で生育させたR. aquaticaの葉では、FASCIATA1/FUGU2(FUGU2)と呼ばれる遺伝子と相同な遺伝子の発現量が低下していました(図1F)。このFUGU2の発現量の低下は、シロイヌナズナにおいて補償作用を誘導する条件の1つとして知られており、FUGU2に変異を与えた個体の葉では補償作用が起こることが確認されています。したがって、R. aquaticaでみられた補償作用は、シロイヌナズナと同じか、あるいは類似のメカニズムで起きている可能性があります。
 以上のことから、これまではモデル植物の変異体などでしか確認されていなかった補償作用が、自然条件下でも誘導されることを世界で初めて発見しました。今後は、R. aquaticaとシロイヌナズナの補償作用が同様のメカニズムで起きているのかを明らかにするための、より詳細な分子機構の解明が課題であると言えます。
 今回明らかになった知見は、植物がどのように体の大きさを制御しているのか、さらに、その制御メカニズムが異なる植物間で同じなのかどうかを明らかにする研究の基盤になり得るものとして期待されます。

 本研究は、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「植物における生態進化発生学研究拠点の形成 -統合オミックス解析による展開-」、文部科学省科学研究費 基盤研究B「葉の形態の表現型可塑性の分子基盤の解明:環境に応じて葉形を変化させる植物の研究」、日本私立学校振興・共済事業団 学術研究振興資金「植物の光合成を制御するメカニズムの解明」の支援を受けました。

図1. 生育温度の違いによるRorippa aquaticaの葉の形と細胞の比較.
(A)30℃で育てた個体. (B)20℃で育てた個体. (C)30℃で育てた個体の葉を1枚だけ切り出したもの. (D)20℃で育てた個体の葉を1枚だけ切り出したもの. (E)それぞれの生育温度で育てた葉の細胞. 上段は実際の細胞の写真、下段はわかりやすくするために細胞を黒く塗りつぶした画像. 20℃で育てた個体の葉では細胞の大きさが大きくなっていることがわかる.(F)シロイヌナズナで補償作用を誘導する遺伝子の1つであるFUGU2の相同遺伝子の発現量の比較 (*P< 0.05). BarはAとBが3 cm、CとDが1 cm、Eが100㎛.
図はAmano and Nakayama et al. (2015)を一部改変.

 
PAGE TOP