津下英明教授と吉田徹研究員と広島国際大学、東京大学等の共同研究グループの研究がJournal of Biological Chemistryに掲載されました

 総合生命科学部および構造生物学研究センターの 津下英明教授と吉田徹研究員等の「Aeromonas sobria由来セリンプロテアーゼの新規シャペロン注釈1の構造基盤」に関する論文が掲載されました。この研究は京都産業大学総合生命科学部の他、広島国際大学薬学部、東京大学大学院農学生命科学研究科等の2年越しの共同研究の成果となります。

 本研究成果は2015年3月16日付で、米国科学雑誌Journal of Biological Chemistry のオンライン版に掲載されました。

掲載論文名

“Structural basis for action of the external chaperone for a propeptide-deficient serine protease from Aeromonas sobria
Journal of Biological Chemistry(JBC) doi:10.1074/jbc.M114.622852

著者

 小林秀丈*(広島国際大学薬学部)、吉田徹*(京都産業大学総合生命科学部)、宮川拓也*(東京大学大学院農学生命科学研究科)、田代充(明星大学工学部)、岡本敬の介(岡山大学薬学部)、山中浩泰(広島国際大学薬学部)、田之倉優(東京大学総合生命科学部)、津下英明**(京都産業大学総合生命科学部)

(*同等貢献 **責任著者)

研究背景

 サチライシンというセリンプロテアーゼは、広く細菌から哺乳類まで、あらゆる生物によって産生される酵素です。この酵素の折りたたみ(正しい構造になり機能を正しく発揮出来るようになる)には、そのN末端の配列(プロペプチド)が不可欠です。しかし我々は以前、Aeromonas sobriaという微生物が持つサチライシンに似た酵素(ASP)は、このプロペプチドを持っていないことを発見しました。またプロペプチドの代わりに、ASPの下流の別の遺伝子でコードされるタンパク質(ORF2)が、ASPの折りたたみに重要な働きをしていることも発見しました。しかし、ORF2のアミノ酸配列はいかなるタンパク質とも相同性がないため、その詳細な機能と構造はわかっていませんでした。

研究概要

 本研究で我々はまず、ORF2とASPの複合体構造をX線結晶構造解析により明らかにしました(図1)。ORF2の構造は、N末端ドメイン、中央ドメイン、C末端ドメインから構成されていました。ORF2のアミノ酸配列はサチライシンのプロペプチドとは全く似ていないにもかかわらず、中央ドメイン、C末端ドメインの構造は、プロペプチドの構造とよく似ていました。これは、ORF2がプロペプチドと似た役割を果たす可能性を示唆しています。その一方で、サチライシンのプロペプチドには存在しないN末端ドメインの存在が明らかになりました。NMRという装置を用いた解析の結果、このN末端ドメインは、ASPが存在しない時は特定の構造をとらずにフラフラしており、ASPと結合して初めて二次構造を形成していました。

図1. ASPがORF2により折りたたまれ、細胞外でその機能を発揮出来るようになるまでの道のり

 次に、ORF2のどの部分がASPの折りたたみに重要であるのかを明らかにするために、N末端ドメインやC末端ドメインを削除したORF2を作製し、ASPの折りたたみへの影響や、ASPとの結合の強さへの影響を調査しました。その結果、ORF2のN末端ドメイン、C末端ドメイン、どちらの領域もASPの折りたたみに必須であることがわかりました。さらに生化学的な解析より、ORF2によるASPの折りたたみはペリプラズム内で生じること、ORF2とASPは複合体の状態で細胞外へと輸送されること、細胞外でORF2はASPから解離すること、解離した後ORF2はASPにより分解されること、を明らかにしました(図1)。

 最終的に、系統学的な解析を行った結果、ASPのようにプロペプチドを持たないセリンプロテアーゼと、その下流に存在するORF2のような外部シャペロン、から成る遺伝子の組み合わせ(オペロン)は、グラム陰性細菌に幅広く存在し、新たなファミリーを形成していることを明らかにしました(図2)。

 本研究成果は、文部科学省科学研究費 新学術領域研究(研究領域提案型)
 細胞シグナリンク複合体によるシグナル検知・伝達・応答の構造的基盤「複合体構造解析による細菌毒素の標的結合タンパク質認識機構の解明」(25121733)および私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「タンパク質の生成と管理」の支援を受けました。

 注釈1シャペロン:他のタンパク質分子が正しい折りたたみをして機能を獲得するのを助けるタンパク質の総称

図2. サチライシンに似たセリンプロテアーゼの系統樹

 
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