生命科学セミナー 開催(2013.06.04)

ショウジョウバエ脳の性を調節するクロマチン因子の作用機構

演者 伊藤 弘樹 博士(東北大学大学院・生命科学研究科)
日時 2013年6月4日(火)14:00〜15:00
場所 京都産業大学 15号館1階 15102セミナー室
共催 京都産業大学総合生命科学部

要旨

 動物にとって性行動は自己のDNAを次世代以降に残すうえで最も重要な行動のひとつであり、求愛する相手がオスかメスかを識別する性行動はその過程において大きな役割を果たす。本研究ではこのような性行動を制御する機構を明らかにするため、キイロショウジョウバエのオスのメスへの求愛行動を制御する脳の神経回路が形成されるメカニズムを明らかにすることにした。オスの各感覚器から入力したシグナルは、中枢神経系の特定回路によって情報処理され、相手が異性であれば、その回路により、求愛そして交尾を行うように指令が出される。そのようなオスの求愛行動を制御する神経回路の主要部の形成を支配するのがfruitless (fru)遺伝子である。この遺伝子の産物であるFruタンパク質はメスの脳には存在せず、オスの脳の約2000個のニューロンに発現しており、fru発現ニューロンの多くは細胞数、神経突起のかたちに性差を示す。Fruタンパク質はBTB-Zn-fingerファミリーに属し、転写制御に関わることが推定されるものの、脳の性を決定するその作用機構はこれまで不明であった。本研究ではこの機構の解明を試みた。私はこれまでに、Fruタンパク質が転写共役因子のBonusを介して染色体上の約130の標的サイトにHDAC1またはHP1aを動員し、クロマチン状態を変化させることによってニューロンの性差を生み出すことを明らかにした。注目すべきことに、HDAC1がFruの持つオス化作用をサポートするのに対し、HP1aはこれに拮抗して脱オス化をもたらす。これらの因子を操作した際、単一ニューロンレベルでは、「性の中間状態」は認められず、「雄型ニューロン」と「雌型ニューロン」の割合が変化した。したがって、Fruタンパク質は、クロマチン制御因子HDAC1またはHP1aを動員することによってニューロンの性を転換するスイッチとして機能していると考えられる(Ito et al., Cell 2012; Ito et al., Fly 2013)。


 
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