西双版納行

K.Y.


1994年9月から一年半、北京の中国戯曲学院と中央戯劇学院に留学する機会を得たのだが、ここでは冬休みに西双版納に旅行した時のことを紹介したい。


冬休みと言えばちょうど春節で、寒い北京はイヤだと思い、昆明のずっと南の町、西双版納へと旅に出た。まず昆明に着き、二泊して西双版納行のバスに乗り込んだ。「豪華バス」だった。私にとっては窮屈なベッドが上下二段、三列に列んでいた。ベッドに横になると24時間のバス行程が始まった。私は中央列の下段で友人はその上段。昼間はとにかく気分がウキウキしているのでナントか間が持ったが、夜は明かりもなにもなく、ただひたすら寝るだけであった。翌朝目覚めて友人を見ると殆ど寝ていない様子。訊ねたところ、夜は霧が深く、ヘッドライトが照らし出すのは前方4〜5mぐらいではげしい山道のため、ヘアピンカーブがひっきりなしに続くそうだ。そして運転手の方も前方の視界が悪いので「オーオー」といいながらハンドルを切って運転していたらしい。なるほど安心して眠れないわけだ。そこで私は彼と席を替り、ゆっくり休んでもらったが、上段は視界が開けるだけに、予想以上にこわい。さらに追い討ちをかけるように道路脇の山腹に激突したトラックを三台も見てしまった。次の瞬間、(このバスも)ああなるかも・・・と思ったら、人間の生死の問題を思わず考えてしまった。


予想以上の長い行程だったがようやく西双版納に到着。バスを降りるなり友人と顔を見あわせ、ウンと肯いて「帰りは飛びや(飛行機の意)」と意見が一致。南国気分を十分に味わって一週間、飛行機チケットの予約をしに行ったのだが、この時はじめて大きな誤りを知った。外国人居留証を持参していなかったのだ。国内旅行に居留証がいるなんて・・・!?


窓口の小姐は公安局に行って証明証を発行してもらったらチケットが買えるというので早速公安局へ・・・。事情を説明すると、法律の本を持ってきて「あなたは違法行為を犯してしまった・・・・罰金は800元と記されているが学生なので400元にまけてあげよう・・・」。なんということか、中国では罰金にも「優恵」があるのか!?僕達は公安に来たことを後悔した。持ち金が残り少なくなったうえに無理をして罰金まで払い、さらに飛行機チケットを買うなんて。だがもう罰金は逃れられない。半日の「調収」を受け、航空会社に手紙を書いてもらった後、レンタサイクルを汗いっぱいにこいでチケットカウンターまでいそいだが・・・「已経下班了」。


翌朝再び公安局の手紙を持ってカウンターへ。小姐いわく「這個、不行!」
なっ、なっ、なんだと!そこでやむなく公安局へ直訴に行き、局員に直接電話してもらってなんとか買えるようになったので三度カウンターへ。小姐いわく「五日後のチケットしかない。」
(またもや)なっなんだと!手元にはチケット代と昆明から北京までの列車代、それにわずかばかりの食費しか残っていない。ピンチだった。結局、帰路もバスになってしまった。


昆明着。すぐに駅へチケットの予約に行った。だが居留証がないとチケットは買えない。駅前で途方にくれた。とにかく宿をさがして荷物をおき、それからチケットのことを考えようということで前回(往路)一泊した宿へ行った。


往路に居留証のチェックをしなかったので、「泊まれるはずだ、今回も大丈夫だ!」と思っていくと、なんと居留証をチェックするではないか!?前泊のレシートを見せても泊まらせてくれない。交渉の余地はなかった。


そこで仕方なく、駅前へ行って野宿を決行しようと時間をつぶしていると、旅社の呼び込みの女性が来た。状況を説明すると、ナント!中国人しか宿泊できない旅社に泊まらせてもらえるよう「老板」に交渉してくれるではないか!
その決め手になったのは私の北京訛りの普通話。これだったら公安の「査房」があってもごまかせるだろうということだった。そして登記簿に名前を記入しておかないと、万一のときにメンドウだ、ということで私と友人は「劉○△」「張◇▽」と、思いついた偽名をそれぞれ記入することになってしまった。実はそれらは中国の友人の名前だった。友人たちにはすまないと思いつつ、とっさに使ってしまったことを北京に帰ったら一言わびておこう、と後で思った。


さて、万一「査房」があったら私はナントかごまかせるが、友人は漢語の初級班でほとんど話すことができない。そこで苦し紛れの策は、彼を言語障害者にしたてることだった。旅社の部屋に入ったのが夜の十時半ごろで、それから部屋の中で彼の障害の芝居を練習した。さあこれでナントかなるだろう。時計を見るともう午前一時。我々は眠りについた。(後日談によると彼はいつ「査房」があるかと、ビクビクしていたのでほとんど眠っていなかったそうだ。)そして早朝五時頃、私は目が覚め、一刻も早くここを出ようと言うことで周り近所にわからないように、こっそりと旅社をあとにした。


さてどうやって北京に戻るかということが目前の課題だ。まず上海に出ようか、西安に行こうか?でもここより大きな町に出れば列車のチケットは買い難いのでは・・・・。とそこへ「黒票」を売る男に出会った。その日の北京行きだ!「硬座」しかないらしいが、他に手だてはない。意を決して倍額の金を払い、ついに買った。絶対に乗りたくなかった「硬座」だ。しかも56時間は非常に辛かった。


これから留学して休み中に旅に出る人は、ドラマチックな旅行もいいとは思うけれども、やはり「外国人居留証」を持参して出発したほうがよいと、今でも思う。

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