現実とイメージ (Y.SAITO)

斉藤勇一


私は中国に来て以来、中国について様々なことを見たり感じたりしてきました。留学前の中国のイメージといえば、大量の人口及びそれに付随する一人っ子政策、自転車、中華料理、歴史、ラーメン、コピー商品、太極拳、戦争、卓球、毛沢東など様々ですが、これらの事柄について現実とイメージのギャップをまとめてみたいと思います。

毛沢東

毛沢東は中国人の間では「毛主席」と呼ばれ、現在でも尊敬の念を持たれています。北京では、日曜祝祭日を除く毎朝、天安門広場の一角にある毛主席記念堂に長蛇の列ができます。それはそこで朝のみ公開されている毛主席の「死体」を見るためです。私も北京へ行った時に見てきました。中にはまず毛主席の胸像があり、そこでは、列に並んでいる間に買った花を捧げる献花台があり、何人かの人は一旦列から離れ花を捧げます。その後に少し奧に入ると毛主席の「死体」のある部屋に入っていきます。そこにはガラスで仕切られた部屋の一角に安置された毛主席の死体があります。頭のところに2人武装した軍人らしき人が我々を監視しています。ちらっと見たぐらいですぐに追い出されると、そこにはお土産屋さんがあります。毛主席記念堂ネーム入り箸や、毛主席の顔のかたちをしたバッヂ、はてはなんの関係もない金のネックレスなど本当に色々なものが売られており、たくさんの人が我先にと買い争っています。でも金のネックレスを買っている人は見かけませんでした。中を見た感想を言わせてもらうと、はっきり言ってただの死体だけです。毛主席によっぽどの思い入れでもない限り、なんの感慨も沸いて来ないでしょう。もっと不謹慎な言い方をすると、その死体が本物かどうかさえ誰にもわかりません。


このように毛主席はいまだに高い支持を受けていますが、街中で最近目立つのは毛主席のキャラクターグッズです。例えば、ブロマイド、時計、火を付ける毎に音の出るライター、バッヂ、Tシャツ等々。ただしこれらの品々は普通の店では売っておらず、道ばたの露店や観光地のみやげ物屋で売られているのみである。しかも中国人はほとんどそれらのものを買うことはなく、もっぱら外国人旅行客がおみやげとして買うのみである。

コピー商品

中国は、期待を裏切らないコピー商品の天国である。ブランドの服はもちろん、腕時計、CD、VCDなど、ありとあらゆるものがコピー(偽物)として売られています。中国の建国記念日である国慶節の前後に取り締まりが行われましたが、ほとんど効果なく、いまだに多くのコピー商品が売られています。留学生の間でよく言われることに「中国の商品に本物はひとつもない。あるのは質のいい偽物か、悪い偽物だ」ということです。これは大きく的をえた表現で、特にタバコと酒についてはこの表現がぴったりかも知れません。空港の免税店でさえコピー商品が混じっていた、という話もあります。

 

ただ全く本物の商品が売れないかというと、実は必ずしもそうではなく、それらの多くは、結婚式や誕生日などの贈答品として購入される。だがその他の時、つまり自分用に使うものなどは多くコピー商品を利用することが多いようです。

一人っ子政策

一人っ子政策が実際に適用されるのは1979年以降に結婚した家庭に対してです。だから、実は兄弟姉妹のいる中国人は若者の中にもけっこういます。中国では子沢山の家が幸福な家庭だという考え方が一般的です。農村部では働き手になるという理由から何人もの子供がいる家庭も少なくありません。


日本でもそうですが、中国でも一人っ子にかける愛情は並々ならぬものがあります。鬼気迫る、と言ってもいいほどです。まず彼ら子供達は「三つの大きなポケット」つまり父母、父方の祖父母、母方の祖父母からふんだんに物や金をもらい、非常に甘やかされて育ちます。小学校の間、時として中学校を卒業するまでの間、登下校は誰かがついて行ったりもします。これだけならまだしも、中には学校の中以外では1人にさせてもらえない子供もいます。つまり友達と遊ぶということもさせてもらえないのです。この様に親に溺愛され、わがままに育った子供は中国語では「小皇帝」と呼ばれています。


しかし中国の子供はただ甘やかされているわけではありません。子供に対する教育熱には並々ならぬものがあります。最近中国人のあいだには、国を出たいと考える人が増えてきています。国を捨て海外に永住したいと思っているのです。だから子供が優秀であれば、そのチャンスも大きくなるので、その教育にかける金も収入の何分の一とかいうのもよくあります。小・中学生の頃は書道や絵画、音楽などをやり、高校に入ると、学校とは別に英語を習わせ、大学に入ればさらにその他の語学を勉強させるなど、それはもうすごい力の入れようです。

物価

中国は物価が安い、というイメージが結構あります。これは大きくは外れていませんが、決して的をえた表現ではありません。中国の物価は安すぎるものか高すぎるものしかないのです。その価格を決める要素とは「中国製品か外国製品か」ということにかかっています。例えば、ラーメンは一杯3元〜10元(45円〜150円)ぐらいなのに対し、スパゲッテイは50元(750円)ぐらいは最低します。平均月収が約1500元の一般家庭では、一皿50元のスパゲッテイにはなかなか手が出ません。


平均月収をもとにすると考えられないぐらい高いのですが、それでも今中国の都市部で飛ぶように売れているものが携帯電話です。携帯電話は安いもので一台2000(約3万円)ぐらいですが、かなり旧型で、性能も悪いので、大体3000元〜4000元(約40000円〜60000円)ぐらいのものが主に売れるようです。ちなみに高いものだと10000元ぐらいのものもあります。松下やソニーなども進出していて、それらの会社の携帯電話はかなり人気があります。

自転車

「黒人はみなリズム感がいい。中国人はみな自転車移動する。」と考えられていたのはいつの時代だったでしょうか。現在の上海人の中には自転車に乗れない人が徐々に増えてきています。そんな上海人の移動には、なにかとタクシーが利用されます。タクシーの料金も決して安いものではないのですが、見ていて怖くなるぐらいの勢いでタクシーにのります。ちなみにタクシー代は初乗り(3キロまで)で10元(150円)で、あと300m毎に1元加算、深夜料金は初乗り料金に3元プラスといった具合です。但し、これは上海の料金なので、他の地域へ行くと異なる価格が設定されています。

太極拳

上海でも朝になると至るところで人が集まっているのを見かけます。グループにより活動内容は異なるのですが、ほとんどは太極拳か社交ダンスをしています。ほとんどは家事を終えた主婦なのですが、中には何人ものお年寄りの姿を見かけます。お年寄りは、これらの活動よりももっと早くに起きて体を動かしているので、太極拳の参加する人は意外に少ないと思われます。しかし間違っても若者の姿は見かけません。

上海人のプライド

ここまでは上海人に限らず、一般的な中国人について述べてきましたが、ここでは最後に上海人、特に若者の意識について述べてみたいと思います。


上海人は、中国人として呼ばれることを嫌います。中国人ということは上海以外の人ももちろん含むわけですが、上海人にとっては上海人以外は全員「田舎もの」ということになります。


例えばこういう話があります。テレビドラマで、中国全土で大ヒットした「還珠格格」という番組があるのですが、その主役小燕役の趙薇は安徽省出身で上海語も話します。彼女についてある上海人が言いました。「あいつは精神病だ」。その理由を聞くと「何故って、安徽みたいなとこの奴はみんなそうだ」ということでした。ここまで来ると、プライドを通り越してただの差別といえるかも知れません。


そんな上海人でも一目置く存在が、香港人と日本人です。香港は数々のスターが住んでおり、ファッションなども最先端を行っています。香港帰りの美容師ともなると、給料も2〜3倍になるそうです。


日本人もまたたくさん上海人が一目置く存在です。日本もたくさんスターがおり、特にテレビドラマについては先に述べたVCDの普及により、ほとんどの若者がみています。それに加えて、最近では日本語を勉強するのが大ブームになってきています。それは海外永住するのに地理的に一番近いというのが大きな理由のひとつです。


しかし、若者に限らず上海人が考えていることは「上海人以外は(たとえ日本人だろうが香港人だろうが)みんな田舎もの」ということのようです。

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