中国留学の中で学んだ異文化 (N.TAKAHASHI)

高橋典子

拝金主義の基礎

中国において人々の行動を規定している概念の一つとして拝金主義があるように思われる。中国語で「前を見る」は「向銭看(xiang4qian2kan4)」と言う。同じ発音で「向銭看」は中国人の拝金主義を表した言葉であるが、二つの言葉が一緒になって、金に執着することこそが前向きである、となるが、中国人の行動の大半がそれに基づいているという感じが強く受けられる。


中国の公共トイレに入ったり、ショッピングセンターなどの前に自転車を停めたりするのにもお金が必要なのは、中国人一人一人拝金主義を持っているというよりも、中国という国自体が拝金主義なのだと思う。日本のようにただでポケットテイッシューを配るようなことはこの国では決してあり得ないことである。この拝金主義が個人の事となると、法から離れた非合法のやりとりになるというのが一般的なようだ。

賄賂は潤滑油

ネットワークを円滑に動かして利益を引き出すには、潤滑剤としてそれ相応の支出を必要とする。いわゆる賄賂である。中国では共同体内部での賄賂のやりとりが中心となるため、著しく罪悪感の認識が欠如している。このため、中国での増収賄は悪と認められない。中国は増収賄天国である。この増収賄のやりとりは外国人と中国人の間でも行われる。


私の知人は次のような体験をした。ある日、中国舞踊を見に行ったとき、観客は外国人ばかりで、西欧人と日本人のグループが来ていた。何故なのか西欧人のテーブルは一番前の特等席、日本人は西欧人の後ろの二等席だった。知人はおかしいと思い、店員に尋ねると、明確には言わないが、中国人は西欧人に頭が上がらないところがあって、何かと西欧人を優先するらしい。そこで知人がチップを渡すと、もうどうぞどうぞといわんばかりに気前よく特等席をとってくれた、というのである。

プライドの高い中国人

中国は面子を重んじる国といわれ、相手の面子をつぶしたがために物事がうまく進まなくなることがあるといわれる。面子は中国に限らず、どの国の文化にも存在するものだが、私は確かに中国人は面子をつぶされることを嫌うように思う。


中国人はミスを自分のミスと認めたがらない。「対不起!(ごめんなさい)」と中国人の口からきくことはめったにない。ミスを認めたくなくて、いい方へいい方へと必死にカバーすることが多い。このいい方へ持っていこうとする「建前」が暴かれてしまうと、当人の面子が傷つくであろう。


日本人でもこういったケースがいくつもあるが、建前を作りすぎるからそれが暴かれると余計にひどく傷つくので、日本人はその点、建前を作りすぎる前に自分が一歩引く姿勢を採るか、暴かれても少し冗談ぽく対応することが出来る性質があると思う。

中国人と食事をしたとき

中国人の生活レベルがますます向上しているとはいうものの、一般の中国人にとっては、外で食事をするというのは決して安いものではない。しかし、中国人は面子を重んじるので、まだそれ程気心が知れていない人と食事をするとなると、やたらに料理を注文し、なおかつ、おごってくれる。


だが、はっきり言って、かなりの負担になっているはずである。中国人はそれでも、何か他に食べたいものはないか、ときいてくる。その時は中国マナーとして「已経点了很多菜、不要了、謝謝!(もう十分です。ありがとう)」と相手に負担をかけさせないようにするべきである。そこでまた「不要客気(遠慮しないで)」と言ってくると思うが、これも建前かもしれないので真剣にとらない方がよい。逆に、こちら側が何か食べ物を勧めたりした時、ほとんどの中国人は「謝謝!不要、(ありがとう、もう結構です)」と言う。


しかし、本当に要らないと思ってはいないことも多く、遠慮しているだけなのだ。中国人は何度も何度も断って、最後にやっと受け取ってくれる。だからこちら側は根気よく相手に勧めていくことも考えなければならない。


中国人同士が食事をしている場でよく見られる光景で、勘定の時、いろいろともめ合っている。それは、みんなが面子を建てるために、一斉に自分が払うのだとお金をあちこちから出しているのだ。今は若者の間で「AA制」という割り勘の方法も増えてきたようだ。しかし、相手におごらせておくだけは禁物で、次は必ず自分が借りた分を返さねばならない。

中国人の挨拶

中国の挨拶といえば、「イ尓好!(こんにちは)」という言葉が誰の頭にもパッと浮かんでくるだろう。しかし、この「イ尓好!」という挨拶は初めて会った人同士または、あまり親しくしていない、顔見知り程度の間柄で用いられることが多い。中国人の親しい間柄では相手の状況を見て、相手が何をしようとしているのかを尋ねる挨拶が多い。例えば「上班了?(仕事に行くの?)」「上課去呀?(学校に行くの?)」「買什麼了?(何を買ってきたの?)」。もしもこの時ご飯を食べる時間だとよく聞いてくるのが「喫飯了没?(ごはん食べた?)」である。


これらは中国の挨拶方法で、実際は決して相手がいま何をしているのか知りたいわけではない。だから、返答もごく簡単なものに終わる。例えば「対、上班去(はい、仕事にいってきます)」「出去走走(ちょっと散歩にいってくるの)」「喫了(食べました)」など。私がよく耳にする挨拶は「喫飯了[口馬]?(ごはん食べた?)」だが、こちらの授業で習ったことで、食事時に中国人の家をたずねてしまった場合、食事に出す気がなくても礼儀上「「喫飯了[口馬]?」と聞いてくる。そんな時うっかり「没喫飯(まだです)」と答えてしまったら、相手は何かを出さないといけないかと思い、負担をかけてしまうことになるから、食べていかなくても「喫了」「喫飯了」と答えるべきだと教わり、私は、それ以降、場合によって、食べていなくても「喫飯了」や「従現在喫(いまから食べる)」と言うようにしている。

親しくなれば遠慮しない方がよい

中国人とある程度親しくなったら、いつまでも過度に遠慮したり、気を使い過ぎたりしない方がよい。中国人は日本人が何度も「謝謝!」や「対不起!」と言うことにぎこちなさを感じるようである。中国人は仲のよい友達同士では「ありがとう」「ごめんなさい」などの遠慮の言葉は言わない。「謝謝!」なん言ったらびっくりする。ある程度の関係ができれば、あとは遠慮なくつきあった方が相手も喜ぶようである。遠慮なくつきあえるようになった頃には、中国人のちょっとツン!としたきついイメージは消えて、とてもカワイイ性格を見せてくれるし、悩みの相談相手として尋ねて来てくれたりもする。

ニセモノ天国

中国はこれ以上とないニセモノ天国である。一般生活用品などのニセモノはあたり前のように売っている。他にはCD、VCD、ブランド商品、水、アイスクリーム、そしてなんと紙幣までもが!10年前はどれが本物か、ニセモノか見分けるので忙しいというほどニセモノが多かったというが、今でも、物によっては、本物かニセモノかを気にしなくてはならない。しかし、値段はとても安い。だから、そのものに害のないような物、例えば、カバン、靴、CD、服などはニセモノと分かっていても買ってしまう。


路上で一人の人が店をかまえずに売る水はちょっと怖いかもしれない。その水はもしかすると、使い捨てのペットボトルにただの水道水を入れただけのものかもしれない。もしそうだとすれば、下痢になるだろう。


中国のアイスクリームはよくお腹をこわしやすいと言われる。それもそのはず、中国で売られるアイスクリームのうち、合格証をもらっているのは60%にしか過ぎないらしい。あまり名の知られていない銘菓のアイスクリームはできるだけ食べない方がいいかもしれない。


中国でニセ札を使っていてバレたとき、警察を呼ばれることはない。結構、格の高いお店だと取り上げられるが、露店など小さな店だと、おかしなことに、ニセ札だからダメ!というぐらいで、また返してくれる。それだけニセ札が紛れ込んでいるようである。これらのニセ札は台湾で技巧を凝らして印刷され大陸に持ち込まれているようだ。中国のお札で50元札、100元札は注意した方がいい。恐ろしいことには、10月1日に新しく発行された100元札ももうニセ札が出まわりはじめたらしく、発行中止にしたという話を聞いたが、果たして真相は?

中国での買い物

中国での販売企業は私営または合弁の大規模デパート、国営ショッピングセンター、個人経営の商店、または露店が主である。それらはそれぞれ顧客に異なった印象を与える。


まずは大規模デパートであるが、ニセモノが少ない、安心できる、品揃えがよい、サービスがよい、店員の態度もよく、スマイルしてくれたりなどもしてくれて顧客第一を考えているところが多い。そのわかり値段は一番高く、また値引きをしてくれることがない。


次に、国営ショッピングセンター。ニセモノはほぼないし、安心できる。品揃いもまあまあよい。値段は一般価格で経済的。値引きはほとんどなしである。店員は中年のおばさんが多く、サービス態度を問うと賛否両論である。個性の強いのが特徴で、気前よすぎてペラペラと横をついてまわって商品の説明をしてくれる人がいたり、話しかけても適当にあしらって、「あっち!」と指さしてサッと去っていく人も多い。


第三に個人経営商店。一般に品物の系列を決めて専門に売っている。値段は国営企業とほぼ同じか、少し安め。ニセモノと本物の判断は難しい。食品、菓子店など以外の店では値札をつけようがなかろうが、値段の駆け引きを当然として値段をつけていることが多い。


私たち留学生は中国人よりもお金持ちだと思われ、ただでさえもボラれやすい。だから根気よく値段の駆け引きをしていかなければならない。店の主人も毎日この道でやってきているわけだから、そんなにバカではない。やはり、主人それぞれに口頭テクニックを持っている。だから、私たち外国人は中国人の目でもって品のよしあし、その物の値段を見きわめることの出来る賢い消費者にならなければならない。また、主人の口頭テクニックにはまらないような答えが出せるということも大切である。店員はなるべく高い値段でたくさんの商品を売りたいと考えているので、客と接するのには一生懸命である。


第四に露店。道路の端に台付き自転車を並べたり、風呂敷のような布の上で果物、小物、日常用品などを売っている。物は安い。品質はまちまち。ここも値段の駆け引きを通して売られることが多い。

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