東 郁男 さん

略歴

勤務先: 株式会社 翻訳センター 代表取締役社長
出身高校: 鹿児島市立鹿児島玉龍高等学校
卒業年度: 外国語学部言語学科スペイン語専修 1984年卒業

1984年3月 近畿通信建設(株)(現 (株)コミューチュア)入社
1984年7月 同社 海外部業務課勤務
1987年7月 同社 人事部人事課勤務
1992年8月 (株)京都翻訳センター (現 (株)翻訳センター)入社
1997年8月 (株)翻訳センター 取締役
1999年5月 同社 取締役大阪営業部長
2000年12月 同社 取締役東京営業部長
2001年9月 同社 代表取締役社長 (現任)
2006年6月 社団法人 日本翻訳連盟会長 (現任)
(2009年9月現在)
1984年に卒業後、新卒で入社した通信設備工事会社では、海外工事の国内支援業務を担当の後、人事・採用・教育業務を担当、その後、現在、代表取締役を務める(株)翻訳センターに転職しました。

大学で国際関係コースを選択していたこともあり、また前職では、スペイン語の研修サポートや技術文献の翻訳なども経験したことから、海外勤務を夢見ていた時期もありましたが、実際チャンスは何度かありながらも、結局、海外勤務を経験することなく今に至っております。ここ数年の海外とのつながりと言えば、年に数回、子会社のあるアメリカと中国に出張するくらいでしょうか。

私が翻訳センターに入社した1992年は社員数も約40名と小規模でしたが、現在では社員数約230名、国内に3拠点、海外に2拠点を構え、2006年4月には大阪証券取引所ヘラクレス市場に翻訳専業としてはじめての上場を果たしています。

翻訳というと、一般的には小説、映画の字幕などの文芸翻訳を思い出す方がほとんどですが、実は産業技術翻訳の市場規模の方がはるかに大きいのです。私が会長を務める(社)日本翻訳連盟が実施した調査によると、文芸翻訳の市場規模を1とするならば産業技術翻訳のそれは50を優に超えます。では、産業技術翻訳にはどういった種類の文書があるのでしょうか。例えば、工業製品の取扱説明書、特許を取得するための出願用明細書、医薬品の開発にかかわる臨床試験報告書、金融機関のアナリストレポート、また、技術分野を特定せずとも外国企業との取引で生じる契約書や労務関係書類、個人の方ではカルテや謄本、渡航用書類など、翻訳の対象になりうる文書は数え上げるときりがありません。産業技術翻訳に携わる翻訳者の方々は、専門技術知識を有し実際に企業の中で研究開発業務や翻訳業務に携わっておられた方が多いのですが、この「卒業生メッセージ」の寄稿者にもおられるように、なかには語学系大学を卒業し、企業、翻訳会社等で各分野の専門技術知識を習得しながら、その後、翻訳者として第一線で活躍されておられる方もいらっしゃいます。

外国語学部で学んだことが、どのように活かされているか

前職で業務の傍らエクアドルへの派遣予定社員に対するスペイン語研修を担当したり、土木工事関係のスペイン語文献の翻訳をしていましたが、私自身が技術系出身でないだけに、当時はインターネットもない環境のなか手当たり次第に辞書をひきまくったり、社内で技術系の社員に聞いたりと苦労しながら翻訳していたことを思い出します。

ただ、いかに厳しい状況においても、学生時代、教授が話されていた「学問はねちねちやること」、「その日本語訳は日本語として成り立っているの? 普段そんな日本語を使う?」という言葉を思い出し、技術文献を翻訳する際にはことさら、正確かつ、技術者の方々にとって読みやすい文章に仕上げることを心がけていました。

どんな学生生活をおくっていらっしゃったか

ご存知の通り、語学系の講義は4年間ほぼ毎日しっかりと組まれていますが、毎年4月の履修登録の際に、タイムテーブルを見ては「あ~、また今年も月曜1講目か」と嘆いていたのを思い出します。

当時のスペイン語のクラスは1クラス30名ほど。中学、高校のように同じメンバーで4年間一緒に勉強してきました。人見知り(?)の人間が多かったせいか、教授に「おとなしいクラスだね」と言われつつ、なぜか教授主導で飲み会を始めたのがきっかけで、その後は頻繁に集まるようにもなりました。その甲斐あってか卒業から約25年経過した今でも、誰かが声をかければどこかでプチ同窓会が開かれている状況です。

学生の間にやっておいたほうがいいこと

基本的に「外国語=コミュニケーションの手段」であると私は考えており、要は伝える情報を、また伝える表現力を持っているかどうかがコミュニケーションの鍵となると考えます。

仕事柄、異業種交流会などで他の企業の方々と話をすることがあるのですが、外国での生活が長い人材にみられる問題点として、海外経験も豊富で外国語は堪能であるけれども、母国語である日本語でのコミュニュケーションやビジネスマナーなどが理解できていないということをよく耳にします。

社会にでれば、会社内でのミーティングやビジネス上の交渉相手との議論が必要となる場面が多々あります。その際、よい意見も持っていても相手に話して伝わらなければ、それは考えていないのと同じ、なににもなりません。日本語で話せない、伝わらないことが、外国語でできるわけがないのです。

実は翻訳も同様で、優秀な翻訳者の多くは外国語の能力よりも日本語(原文)の読解力や表現力に長けているといわれます。外国語という「コミュニュケーションの手段」を通じて、情報を正確に相手に伝えること、それが産業技術翻訳なのです。在校生の皆さんには、外国語の習得と同じくらいの情熱をもって、母国語である日本語力の習得に貪欲になってほしいと思います。

また、「手に職をつける」ということも重要だと思います。産業技術翻訳を例えとしていうならば、外国語の知識だけではなく、専門技術知識を蓄積することが大切です。これにより、習得してきた語学能力をさらに発揮することができます。

苦言ばかりを呈しましたが、在校生の皆さんには、今しかできないことに失敗を恐れず挑戦し、日常から多くの経験を積んでいくこと、また、いろんなことに感動すること、物事に対する疑問を持ち自分の頭で考える習慣を持って学生生活を過ごしていっていただきたいと思います。

末筆になりますが、母校のさらなる発展、ならびに在学生、卒業生の方々のご健康とご発展を心よりお祈り申し上げます。
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