生島 マコホニェンコ 真穂 さん

略歴

京都府立園部高等学校 卒業
外国語学部言語学科ロシア語専修 1985年3月卒業
国立アダム・ミツキェヴィチ大学 東洋研究所日本研究科
在住国:ポーランド ポズナニ市
(2007年10月現在)


 現在、ポーランドのポズナニ市にある国立アダム・ミツキェヴィチ大学日本研究科で日本語教師をしています。ポズナニ市は首都であるワルシャワとドイツ ベルリンのちょうど中間にある都市で、古くから商業都市として栄えてきました。現在もポーランドの主要都市のひとつとして、ヨーロッパでもよく知られています。

 

 私は日本語教師になる前は、京産大の事務職員として働いていました。そのころはまだ今ほど日本語教育が一般的に関心を持たれていない時期でしたが、留学生受け入れの仕事を通して、だんだん関心を持つようになり、いつか日本語教師になりたいと思っていました。通信教育などで勉強し、日本語教育能力試験を受け合格。それを機に外国で日本語教えてみたいと真剣に考えるようになりました。ちょうどそのとき、恩師の小林正成教授が、アダム・ミツキェヴィチ大学から産大へ研究に来られていたバンチェロスキ教授を紹介してくださり、このご縁でポーランドへ来ることになりました。

 

 私は言語学科のロシア語専修を卒業しましたが、4年間あまりまじめに勉強しなかったので、ロシア語は身につきませんでした。ロシア語とポーランド語は似ていますが、ポーランドに来て学生時代のロシア語の勉強が役に立ったとはとても言えません。恥ずかしいことですがほとんど忘れています。

 

 あるロシア語の授業で、松川教授がロシアの歌を教えてくださいました。「モスクワ郊外の夕べ」という歌でした。とても美しいメロディーで、歌詞も覚えやすく授業中にすぐ覚えてしまいました。教授は冗談まじりに「君ら卒業してもロシア語はぜんぜん覚えてへんやろ。でも、この歌ぐらいは覚えてて、ロシア人と歌えるかもしれんな。」とおっしゃいました。実はその予言どおり、こちらの大学寮で知り合ったロシア人と一緒にこの歌を歌い、ロシア人に「日本人がこの歌を知っているなんて!」と驚かれました。最近またロシア人とこの歌を歌う機会があり、松川教授の言葉を思い出して苦笑しました。私も授業で学生に時々日本の歌を教えます。学生達がいつか日本人と一緒に歌を歌うときがくればいいな、と思いながら。

 

 私はこんな卒業生なので、皆さんに学生の間にこれをやっておいたらいいと、堂々とアドバイスはできませんが、この歌のように、どんなことがいつ何に役に立つかわからないので、何でも積極的にやってみることをお勧めします。何も大きなテーマを探す必要はありません。ロシアの歌でもいい、日常のことでいいと思います。些細なことが日常生活を楽しく豊かなものにしてくれるし、若いときにやったことは、後で結構役に立つものでもあります。

 

 世界的なアニメ人気がここポーランドでも数年前から始まり、日本文化に対する関心がますます高まって来ています。それと共に様々な場所で日本文化紹介のイベントが行われるようになり、日本の武道がポーランド人によって紹介されたり、折り紙や茶道なども参加型のイベントとして人気を集めています。私もそのような機会で書道を紹介しています。書道は子供の時からの趣味ですが、こんなことがこちらで役に立つとは思ってもみませんでした。漢字を知らないからうまく書けないのではとか、書が理解できないのでは、とかいう心配はまったくなく、漢字の意味や成り立ち、そして基本的な筆の使い方を説明すると、皆さん個性的に上手に書かれます。「どれが一番よく書けたと思いますか」と聞くと、書いた作品の中から、たいてい私が思うものと同じ作品を選ばれます。美しいと思う字の形は、漢字文化圏であるかどうかにかかわらず、あまり変わらないのだということをこの経験を通して教えられました。このような活動を通して、私も参加された皆さんも、一緒に楽しい時間が過ごせることはうれしいことです。書道をやっていてよかったと思う瞬間です。

 

 こんなことを書くと、毎日とても楽しくやっていると思われるかもしれませんが、実は日常生活は地味です。ロシア人と毎日歌を歌っているわけではないし、書道のイベントを毎日やっているわけでもありません。仕事の準備、家事、雑用に追われる日々です。外国に住んでいるからといって、毎日が違ったり、光り輝いているわけではありません。日常生活で起こる問題は日本も外国も同じでしょう。

 

 地味な日常を大切にして生きていくことこそが、幸福感や満足感を与えてくれるのだと思います。そして地味な生活のスパイスになるもの、それが若いときに身に付けたこと、経験したことなのではないでしょうか。

 

 いろいろ書きましたが、実際はぼおっと毎日を過ごしている学生さんはあまりいないはずなので、これはアドバイスにも何もならなかったと反省しています。ただ、私の体験を書くことで、学生の皆さんが今一生懸命やっていることは、必ずいつか役に立つという参考になるかもしれません。どうぞ皆さん良き学生生活を過ごしてください。

 
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