長友 紀裕 さん

略歴

大阪府立天王寺高等学校 卒業
外国語学部言語学科イタリア語専修 1997年3月卒業
勤務先:株式会社東北新社
(2007年9月現在)
皆さん、こんにちは。

1997年に外国語学部を卒業しました長友紀裕です。イタリア語を専攻していました。

現在は東京に住み、映画会社である東北新社の外画制作事業部演出部字幕課に5年勤務しております。ここの部署は外国の映画に字幕をつける業務をしています。ここでの私の職種は演出(「ディレクター」とも言います)で字幕翻訳者から納品された字幕用の翻訳原稿に対して誤訳の有無や読みきれる文字数であるかなど翻訳のクオリティをチェックしています。翻訳自体を修正することもあるため、この演出という仕事は外国語の能力が必須で字幕翻訳者の卵の人たち(私もそうです)がやっていることが多いです。演出の仕事の合間に、自分に翻訳依頼が来ることもあります。外国映画といってもいろいろありますが、私の翻訳言語は英語とイタリア語とフランス語(フランス語は社会人になってから独学で身に着けました)で、これまでに長編映画ですと英語の映画を3本、イタリア語の映画を2本、翻訳しています。映像翻訳業界は実績がモノをいう世界なので、演出として働きながら映画の翻訳の実績を積んでいるところです。いつかはフリーの字幕翻訳者として一本立ちするのを夢見つつ仕事に励む毎日です。

私は高校時代に見たイタリア映画(ニュー・シネマ・パラダイス)がきっかけでイタリア語に興味を持ってイタリア語専修に入りました。なので学生時代はイタリア語に関してはかなり勉強したほうだと思います。授業以外でも面白そうな原書を探して読んだり、映画が好きなのでイタリア映画のシナリオを入手して読んだり、イタリアに旅行したり、イタリア人と文通したりしてました。日本でイタリアのことと言いますとパスタやオペラにサッカーというイメージが強いですが、それだけではなく、イタリア文学を原書で読んでイタリア人の感性や物の考え方に触れ、高校の世界史ではあまり詳しくは教えない複雑なイタリア史などを大学で学べたのは自分にとって貴重な経験でした。それが現在、イタリア映画などヨーロッパ映画を翻訳するのにとても役に立っています。ただ仕事に役立つという功利的な面だけではなく、人生をも豊かにしてくれています。

イタリア語など英語以外のマイナー言語を専攻する学生の方は就職に不安を感じているだろうと思います。それはもっともなことで、確かに楽観視できる状況ではありません。ですが、目先の利益の有無にとらわれた狭い視野で自分の専攻語を見てほしくはありません。どんなことでも学べば、それが皆さんの血となり肉となります。一見、役に立たないと思えるものが、何年かたってから役に立つということは往々にしてあります。

例えば、日本に来る外国映画の7割から8割は英語なので、実際問題として字幕翻訳で仕事をしようと思うなら英語は必須です。私の普段の仕事もほとんどが英語です。だからイタリア語を知らなくても、演出の仕事や字幕翻訳の仕事はできます。しかし、映像翻訳の世界ではイタリア語ができる人は少ない(東北新社では私1人です)ので、社歴が浅くても大きな仕事がもらえることが多いのです。実際、私は入社3年目の時に初めてNHK(BS2です)で放送されるイタリア映画を翻訳しましたが、これは異例なことです。もし英語の映画なら最低でも翻訳歴が5年はないとまず依頼そのものが来ません。そして去年はベネチア映画祭に出品する日本映画につけるイタリア語字幕の演出を担当しました。当時、私は入社4年でしたが、これも普通ではまずありえないことです。

長い目で見ると何が役に立つかは分からないので、外国語学部の学生の方には、とにかく自分の専攻語しっかり学んでほしい、と同時に心のアンテナを広げていろんなことを吸収してほしいと思います。あと、英米語学科以外の学生の方に関して言いますと、語学を使う仕事であればどの分野でも英語は必要なので、英語を高いレベルで学んでおいたほうがよいです。それが専攻語を活かすことにもつながります。私も英語ができなければ今の職に就けることはなかったでしょう。

あとは海外に旅行する、短期留学する、本を読むなどいろいろなことをして自分の興味や将来何をしたいのかを探してください。専攻語を活かしたい学生の方は、今のように時間のあるうちに、そういった仕事をリサーチしてみてください。きっとどこかにあるはずです。書籍1つを取っても「語学で身を立てる(猪浦道夫 著、集英社新書)」など参考にできる本もいろいろあります。

上記のアドバイスは、私の苦い経験を踏まえてのことです。私が今の職に就くまでにはいろいろと紆余曲折がありました。学生当時、字幕翻訳に興味はあったものの、どうやったらその仕事を得られるかが分からなかったのです。情報がほとんどありませんでした。なので、当時の私にとって字幕翻訳の仕事は雲の上の世界ような存在で現実感がなかったので、卒業が近づくと「そんな訳の分からない仕事のことなんか忘れて普通に就職しろ」という親の忠告もあり、私は地元で就職することにしました。そして折しも就職事情は超氷河期であったため、なかなかイタリア語を活かせる会社には入れず、地元大阪の零細商社に就職しました。そこで2年勤めましたが、どうしても字幕翻訳の仕事への興味が消えなかったので、東京に出て派遣で働く傍ら翻訳学校に通っていると、その翻訳学校を経営している東北新社からお誘いが来て現職に就くことになった次第です。

これは結果オーライですが、人生の歩み方としてはかなり危険な綱渡りです。人生の回り道をすることは悪くないですし、そこから学ぶこともたくさんあります。ですが不安と苦労を伴うのも確かであるので、皆さんには就職活動の前にやりたい仕事を見つけ、それに関する情報を入手し、卒業後、早く自分の求める仕事を得て更なる飛躍をされることを切に望みます。

翻訳作品

  • 「吸血鬼の接吻」(The Kiss of the Vampire) WOWOWで放送 (英語)
  • 「アンソニーのハッピーモーテル」(Bottle Rocket) DVD ソニーピクチャーズより販売 (英語)
  • 「ウォークアウト/勇気ある反乱」(Walkout) スターチャンネルで放送 (英語)
  • 「鞄を持った女」(La Ragazza con la Valigia) BS2で放送 (イタリア語)
  • 「崖」(Il Bidone) BS2で2007年12月以降放送予定 (イタリア語)
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