平成28年度卒業式式辞

皆さん、本日はご卒業おめでとうございます。
また、保護者の皆様におかれましても、ご子女のご卒業、心よりお慶び申し上げます。
皆さんは、これから社会の各方面で活躍するためのスタートラインに立っているということであります。京都産業大学の卒業生として、新たな門出をされる皆さんを心から祝したいと思います。
大学を卒業するということ。日本語の「卒業」には、「業を終える」という完了的なニュアンスではなく、長い人生の中の「一つの終わりは、また新たな始まり」でもあるのです。皆さんは今、卒業した喜びに浸ると同時に、次のスタートを切る決意を持っておられることと思います。14万人を超える本学の卒業生の一人として、本学の「建学の精神」に謳われていますように、「高い人格をもち、人倫の道をふみはずすことなく、社会的義務を立派に果たし得る人間」として、自ら目指す道を堂々と邁進してほしいと願っています。 

とはいえ、現代社会は非常に速いスピードでグローバル化の進展とともに、地方の過疎化や少子高齢化が進んでいます。また、それに伴う社会構造の変化は、我々の想像を遥かに超えています。最近では、大半の人々にとっての想定外の出来事が起こっており、それは我々が今まで経験したことのない、重い課題を突き付けられていると言えます。まさに予測不可能な時代の到来と言えるでしょう。
最近の国内外のニュースで話題になっているのが、「事実」か「嘘・偽り」かという問題です。アメリカでは、「alternative facts」(“もうひとつの事実”)なるものや、「fake news」(“偽ニュース”)が話題になっています。「fake news」がいつの間にか事実として広まれば、我々の進むべき道は苦難なものになるでしょう。また、わが国でもネット上に不正確で質的にも低い記事の氾濫が指摘されています。膨大な情報があふれている社会では、今後どのようにして“偽りのない”正確な情報を入手するかということが重要になってきます。明確に言えることは、どんな状況にあっても事実に“もうひとつの事実”はあり得ないということです。事実は客観的、実証的に唯一確証されることです。この立場であらゆる課題に複数の視点から考える態度を堅持することが重要です。事実でないものには必ず矛盾を含んでいます。

皆さんはこの卒業式が終了した後に、それぞれ指定された教室で、学位記の授与とともに同窓会から「湯呑み」が贈られます。その湯呑みには、「生」という漢字一文字が書いてあります。その「生」の文字は、「大地から草や木が芽生える様」の象形文字に由来しており、大地にしっかりと根ざした力強い生命の息吹を象徴しているのです。大地から芽生えるということは、大地の栄養素を吸収してこそ新たな植物の誕生になります。そして、植物の芽生えにおける大地の栄養素は、我々に置き換えますと、物事の事実を見分けるための幅広い知識と教養に匹敵します。幅広い知識を習得して多面的に考えることが事実を見抜く術だと思います。これからもあらゆる機会を利用して自己鍛錬、精進してほしいと願っています。

皆さんはこれからグローバルな社会で活躍されることと思います。どんな業種、どんな規模の企業においても、世界と全く関連のないものは存在しないと思います。我々の生活は非常に密接に世界とつながっています。そこで考えてほしいことがあります。

私は約30年前にある一冊の本に出会いました。私の専門は言語学ですが、言語学と言ってもその領域は非常に広いので、言語学者は理論言語学の領域を除けば、世界に約6000もあるという言語のどれか一言語を専門にする場合が大半です。私も一時期、アフリカの言語にみられる興味深い言語現象を勉強しようと思ってアフリカ関係の本を探していたら、斎藤親載著『アフリカ駐在物語』(学生社,1988年)という本に出会いました。その本は、斎藤氏がアフリカのケニアに商社の海外駐在員として4年間駐在した時の異文化体験記で、その本の中で、ケニア在住のインド人の指摘として、「日本人は愛されるが、尊敬されない。英国人は嫌われるが、それでも尊敬される。」という一文が記憶に残っています。著者の斎藤氏は、日本人の対応を欧米人ほどスマートに対処できず、また約80年にわたり植民地支配を経験した英国人ほどはケニア人の心も習慣もつかみ切っていないことを指摘しています。もう少し掘り下げて考えてみますと、日本では「胸中を察する」、「心中を察する」、「空気を読む」等の表現のように、「場を読む」ことを良しとし、「堂々と正論を主張すること」は概して評価されない風潮があるように思われます。また同じ学派や出身校の先輩後輩の間では、しばしば相手を慮っての「配慮表現」や「あいまい表現」で通そうとする場面もあります。このような場面は外国の人から見れば、優柔不断で何を考えているかわからないし、リーダーシップにも欠けるということで低い評価になってしまいます。おそらく、当時の英国人は相手の顔色をうかがって対応することなく、彼らの立場や現地の将来を見据えた明確なプリンシプル(!)を持ってリーダーシップを発揮することで評価されたのではないかと思います。これこそが我々がグローバル社会で身につける術だと思います。

本学の「建学の精神」に、「豊かな文化教養を身につけて正しい情勢判断能力を備え、如何なる時局に当面しても、常に独自の見解を堅持し自己の信念を貫き、全世界の人々から尊敬される人間たれ」と謳われています。このマインドこそが本学で学んだ者が代々引き継ぎ共有してきた気風、「神山STYLE」です。そして、大学は創立50周年を機に、新たな大学像として「むすんで、うみだす。」と、新たな学生像として「むすぶ人」をスローガンに掲げて力強く邁進しています。どうか、皆さんも新たなスローガンのマインドをかみ締めるとともに、本学の伝統ある「神山STYLE」の気風をもって、「人」と「人」、「学問」と「企業」、「京都」と「国内外」をむすんでくれる「むすぶ人」、全世界から尊敬される「むすぶ人」を目指して果敢に挑戦してほしいと思います。

結びにあたり、皆さんにはこの神山キャンパスから京都産業大学の卒業生という自覚と誇りを持って、グローバル社会で大いに活躍されることを祈念して学長式辞といたします。


平成29年3月(18日・19日)
 学長 大城 光正
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